物語を更新する方法
退屈だな、と時々思うことがあります。
48グループから、総選挙が無くなってもうすぐ2年。
非常に心穏やかな日々が続いております。
しかし、その反面、何か大きな節目が減ってしまったように感じてもいます。
そもそも、総選挙とは、という方の為に簡単に説明しておくと、AKB48のシングルの選抜メンバーを運営が決めていたんですが、まあ、文句が出るわけですよ。みんながみんな納得する選抜なんてなかなか無いですからね。そこで投票で決めようと始まったのが総選挙なんですね。
投票方法は、シンプルなところからスタートします。
① 対象CDの通常版を購入し、投票権のシリアルコードを入力。
② AKBオフィシャルファンクラブ「2本柱の会」会員枠から投票。
③ AKB公式携帯サイト「AKB48 Mobile」から投票。
④ DMM.com「AKB48 LIVE!! ON DEMAND」月額見放題会員枠から投票。
⑤ SKE48公式携帯サイト「SKE48 Mobile」から投票。
ここから、年を経るごとに、個別握手会での握手券が付く「劇場盤」にも握手券が付いたり、他グループの会員枠からも投票ができるようになったりと、選択肢が年々増えていき、当選枠も最終的に80位まで広がっていきます。
この総選挙では、メンバーの人気が数字で示されるという恐ろしい試みで、それぞれの面子がかかった闘いになります。選挙で自信を得るメンバーもいれば、現実との差で卒業を考えるメンバーも出てきます。
以前、地方アイドルの運営をしていた人と同じ職場だったことがありましたが、「総選挙は、メンバー同士の人間関係がボロボロになる。特にボーダーライン上の子たちは」と話していました。
ランクインするかどうか。これが一つのライン。
さらに、目標順位に達しているか。これがもう一つのライン。
この2つのラインを越えられるかどうかが、大きな勝負になってきます。
ファンの評価、同じメンバーたちからの評価、運営からの評価、様々な評価軸が一日で更新される恐ろしいイベントです。
ランクインすることによって、どんな良いことがあるか?
グループの内側で言えば、シングル選抜に入りやすくなったり、カップリングでの位置がよくなったり、握手の部数が増えたりすることが多いです。グループの外側でいえば、事務所が決まって行ったり、外仕事が徐々に増えて行ったりします。
これまで「他人の物語」をみせていたAKB48が、徐々に「他人の物語」と「自分の物語」を重ね合わせていく試みだったと思います。これまであった握手会よりも、「物語」の更新の方法としては、強いものだったのではないか、と思っています。
僕が初めて総選挙に参加したのは、2012年の総選挙。
SKE48に所属していた中西優香に1票入れました。
今、考えると、カワイイもんです。
なんとか、中西優香はランクイン。
良かったあ、という思いと共に、少しだけ彼女の力になることができたのかな、という謎の達成感もありました。
この年のトピックとしては、SKE48の松村香織のランクインでしょうか。
ダンス至上主義のSKE48において、当時研究生だった彼女は干されていました。
しかし、当時サービスが始まったばかりの「Googleプラス」での映像配信などを使って、グループ内は勿論、プロデューサーの秋元康を巻き込んでのし上がっていきました。
ここから彼女は、最終的に総選挙の台風の目の一つとなり、2015年には選抜入りを果たします。また、彼女は総選挙裏のメンバーの様子を自前のカメラに残していったことも大きいと思います。
特にランクインしなかったメンバーの涙を見せられることで、来年への原動力になったりもしていました。また、配信をいち早く取り入れていた彼女のトーク力の高さは、現在フリーになってからも安定して仕事が来ています。
さて、2013年。
総選挙史に残るシンデレラストーリーが起こります。
総選挙の速報発表の前夜。
2ちゃんねるの地下アイドル板にこんなスレがたちました。
「明日の速報にはSKE48柴田阿弥が入る。この名を覚えておけ」
当時、柴田阿弥は、握手会人気があったものの、なかなかチャンスに恵まれず、先輩たちが大量卒業した後にも選抜に選ばれていませんでした。もちろん、選挙にランクインしたこともありません。通っていた金城学園も校則が変わった関係で芸能活動が認められず、満足に活動できないまま、学業と芸能活動のバランスもあまりよくない状態も一時期ありました。
当時、まことしやかに噂されていたこととしては、「次の選挙の速報に入らなかったら卒業します」ということを匂わせるモバイルメールが来ていたらしいということです。
あまりにも無謀だろ、というのが当時の反応でした。
そして、迎えた2013年5月22日の速報日。
柴田阿弥の順位は8位でした( 7位 島崎遥香、9位 横山由依)。
あまりにもの衝撃にヤフー検索ワードランキングの速報後のランキング1位、9位、19位が「柴田阿弥」になりました(翌日、ヤフーニュースにもなりました)。さらに翌日の「日刊スポーツ」、「スポーツ報知」、「ニッカン」でも報道され、朝のニュース番組でも報道されました。
この流れに乗って柴田阿弥は最終的に17位にランクイン。
惜しくも選抜入りは逃しましたが、アンダーガールズのセンターとなりました。
ここから彼女はグループ内での位置を確立させ、SKE48の選抜入り、翌年の選挙では選抜入りを果たしました。
また、彼女のトーク力を活かした外仕事が増えていき、最終的に彼女は卒業後、セントフォースというアナウンサーの事務所に入ります。現在はAbema TVを中心にアナウンサーとして活躍しています。
総選挙というイベントにより、躍進したメンバーも居れば、プライドをズタボロにされたメンバーも居ます。
2015年にヤフオク!ドームで開催された7回目の総選挙。
2014年に10位で選抜入りを果たした須田亜香里は、間違いなく今年も選抜入りは固いだろうと思われていました。むしろ、今年は誰をランクインさせていくのか、ということに焦点があてられていたと思います。推しの中西優香が卒業した僕は、ゆるーく手持ちの票を投票していました。
当時、モバイルメールを取っていた須田亜香里、柴田阿弥の二人にまんべんなく振り分けて行っていたもんです。当時の柴田阿弥の「追い込み」メッセージは本当に凄かったです。もちろん、須田亜香里の方もきちんとメッセージを毎日送ってくれていました。
後々、分かってくることですが、この頃、彼女は偏頭痛に悩まされ、痛みで睡眠すらできない状態になり、痛み止めを服用していたものの、次第に効果がなくなってきます。そんな彼女の希望が総選挙だったと彼女は著作の中で語っています。
そして、迎えた6月6日。
須田亜香里の名前は選抜メンバーより二人も前の18位で呼ばれます。
この時のヤフオク!ドームのどよめきは未だに覚えています。
彼女は「もう嫌だ」とこの時、呟いていました。
「壊れちゃいけない」と自分に言い聞かせながら、スピーチに向かいます。
僕は未だにこの時の彼女の言葉を覚えています。
「私は今日がずっと楽しみでした」
この言葉が何を意味するのかは、人それぞれだと思います。
ただ、何かとんでもない失敗を僕らはしたんじゃないか、ということを目の当たりにしました。
「私はずっと、自分の首を絞め続けることでしか頑張れなくて、何回も『もう限界だ』って思ったんですけど、皆さんの笑顔が見たいから。がっかりさせたくなくて、『追い込んだら自分はもっと一生懸命になれるだろう』と思いながら、1つ1つのことをやってきたんですけど。楽しむってことを忘れてました」
その晩、彼女から毎日届いていたモバイルメールは届きませんでした。
この後、須田亜香里は卒業を決意しますが、先輩の松井玲奈から卒業することを告げられたこと、レギュラー番組の「アッパレやってまーす!」のスタッフの方から言われた「爪痕」ではなく「足跡」を残すという言葉、ドキュメンタリーの取材などを経て、「アイドル」から「人間」の須田亜香里を見せていくようになり、グループに残ります。
結果、最後の2018年の総選挙では見事に2位にまで上り詰めます。
この残酷ショーをどう見るかは人によって違うと思います。
「ラストアイドル」の番組形式は、これをより先鋭化した気がします。毎週、誰かが選抜されて誰かが選抜から落ちていく。
逆に、坂道グループが選挙をしなかった意味も大きいと思います。日向坂46とかの平和さを見ると、箱推しが多いことにも頷けます。
この総選挙というイベント。
現在は、実施されていません。
無くなって良かったのか悪かったのか、僕にはわかりません。
握手会の条件を少しでも平等にするために、全員の握手会の部数を同じにしてしまい、長時間若いメンバーのところに人が来ずに病むことや、握手券や投票券の横流しなど、よくない現象も起きました。
しかし、SKE48のような年長メンバーが多いグループは、総選挙で一気にまくっていくという手段がなくなったのは少し寂しく思います。
現在、握手会もコロナウイルスのおかげで中止が続いています。
唯一、行えているのがコンサート。ただし、こちらも2020年問題で、会場をおさえにくいという状態が続いています。メンバーのSNSでの更新やshowroom配信は引き続き行われているものの、停滞状態が続いています。
今、自分の物語、推しているアイドルの物語は、どんな風に更新していけばいいのか、考えていく必要があると僕は思っています。
総選挙という劇薬ではなくて、静かにでもゆっくりでも、少しずつになっても更新していく。運営から与えられた「総選挙」という方法以外で、推しに何をしてあげられるか、グループをどう楽しむか。
メンバーによっては、故郷の親善大使になり、あるメンバーは企業のCMに採用され、あるメンバーは雑誌の表紙になっていく。1票投票する方がはるかに楽ですが、それ以外の方法で推しをどう世界に認識してもらうか、を考えるタームに入ったんだと思います。
僕が考えたのが、現在発表されている映像や曲をじっくりと読んで楽しみ、時にはメンバーのストーリーと重ね合わせて楽しむ、というものだったんですね。もちろん、これは過去が美しくなっていくものの、未来へのアプローチとしては弱いです。
しかし、アイドルと曲はまだ地続きで、そこには「物語」があると僕は信じています。
皆さんは、今どんな「物語」を描いていますか?