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2020年11月7日土曜日

おすすめの映画と本「eスポーツビジネス eスポーツ×ビジネスの現場からお伝えします!」

 価値観が変わっていく時代へ



 皆さん、ゲームというとどのようなものをイメージするでしょうか?
 今だとPCゲームやスマホゲーム、据え置き型ゲームなど様々なものがありますね。
 僕は丁度、中学・高校とアーケードゲーム全盛期で、「ゲーメスト」、「アルカディア」、「ネオジオフリーク」というゲーム雑誌も購読していました。余談になりますが、突然、「ゲーメスト」が廃刊した時の絶望感は、未だに覚えています。愛媛県宇和島市という超ド田舎に住んでいた僕は、「これから自分で『ぐわんげ』の攻略をしていかなきゃいけないのか…」と。
 ただ、多くの人たちが生きている中で一つぐらいは熱中したゲームがあるんじゃないでしょうか?

 ただね。
 僕たちの世代は、ゲーム=悪、ゲームセンター=ゴッサムシティみたいなとこ、という負のイメージが強くてですね。ゲームが上手いということなんて、本当に仲間内での自慢ぐらいにしかならなかったんですね。
 しかしですね、よく行っていた町のゲームセンターが「ゲーメスト」のスコア集計店で、お店の柱にはお店のハイスコアや全国1位の人のスコアが貼られていました。
 今回紹介する「eスポーツビジネス eスポーツ×ビジネスの現場からお伝えします!」の著者である中野龍三さんは、元々シューティングゲームの全国1位のスコアを叩き出したプレイヤーで、現在はeスポーツ事業や大会運営、番組作りのも関わってらっしゃる方でしてね。「eスポーツ」という言葉を聞くと、夢や可能性がモリモリですが、実は甘い話ばかりではなく、これまでの停滞や誤解、これからの課題もちゃんと書いているんですね。

 まず、この本を読んでなるほどな、と納得したことが「スポーツ」という言葉の定義です。身体を動かすだけがスポーツにあらず、競争することや遊ぶこと楽しむこともスポーツなり、というのは目から鱗でした。また、指を動かす競技としての射撃との比較も面白かったですね。
 また、2章からのeスポーツの歴史は、認識の変化、まさに「価値転倒」の過程を見ているようで、非常に興味深かったです。

 少し話が逸れますが、僕がやっていたアーケードゲームは「ストリートファイターⅢ 3rd」だったんですが、ゲームセンターという場に知らない学校の人同士、年齢の違う人同士が集まって、ゲームをする面白さ。そして、部活で他校に練習試合にいった時に、「あっ、ヒューゴが上手い人ですよね?」と声をかけられた時の嬉しさ。
 時は経ち、奈良県に出てきた僕は「キャノンショット」という奈良県ではかなりレベルの高いお店に、大学が終わるとふらりと行くようになるんですが、そこで「バーチャファイター5」や「鉄拳6」のリプレイ映像とかをぼんやり見るのは、今のゲーム実況や配信を楽しむ文化の始まりだったのかも知れません。自分がプレイするだけでなく、観ているのも楽しかった。

 今は別の趣味を楽しんでいますが、場所も年齢も違う人達が繋がり合うという楽しさはeスポーツにもあると思いますし、今はオンラインで本当に上手い人のプレイが観られますしね。

 話を戻すと、これからのeスポーツの課題として、魅力的なプレイヤーがどれぐらい出てくるか、「推しプレイヤー」を観客が持てるかなんですが、これは他のジャンルにも言えるなあ、と思いましてね。僕の世代はウメハラさんやときどさん、なんかが有名ですが、もう、ウメハラさんのこの動画とか、今観ても鳥肌ものですよね。初めて観た時は「すげええ」ともう、「ワールドプロレスリング」の解説席の獣神サンダーライガーみたいになってました。



 そう、ゲームのプレイで人を感動させたり、興奮させることはできるんです。
 また、プレイヤーの人間ドラマで言えば、映画「リビング ザ ゲーム」というeスポーツのプレイヤーたちを題材にしたドキュメンタリー映画なんかも素晴らしいものがあるので、これからも頻繁にこういうドキュメンタリー映画は作って欲しいですね。


 何かに真剣になったり、マジになったりすることが、世間や社会から「こんなこと」と言われてしまうという場面がまだあるのが悲しいですね。ちなみに、ライセンスだったりプロだったりもしっかりと出来ているみたいですね。


 ううむ、SKE48やら映画のブログを書く人間にスポンサーやライセンスがつかんものか…。
 さて、何度も脱線していますが、まだまだ課題がもあり、プレイヤーに対する観客のモラルや競技人口をどう増やしていくのか、と僕の好きなアイドル業界とも似ている要素もありますね。
 
 ゲームというものを通してのコミュニケーションの構築や、スポーツへの入り口として徳島県や一般社団法人日本野球機構のインタビューは、その手があったかと、かなりeスポーツへの視点がまた一つ増えた感じです。

 ジャンルこそ違えど一つの物に「マジ」で挑む人たちを応援できる、なんなら自分も挑める「eスポーツ」。僕も何か始めてみようかな、と思いました。
 ちなみに、今年のAKB48の運動会は「e運動会」だから、今のうちに予習しておくのも良いですよ!

2020年8月5日水曜日

おすすめの映画と本「アルプススタンドのはしの方」

「しょうがない」を乗り越える瞬間


 1年に1度ぐらい、映画を観終わっても興奮が収まらずに暫く席が立てない映画がある。
 今年初めてそれを感じたのが「アルプススタンドのはしの方」だった。




 僕らの生活には、今とてつもなく大きな「しょうがない」が落ちてきている。
 映画も席を空けるようになったし、マスクをつけて外に出るようになった。
 そもそも、この映画の舞台になっている甲子園も行われなかった。

 みんなから応援される側ではなく、応援する側。
 しかも、主体的に応援したいわけではない「アルプススタンドのはしの方」に位置する人々の物語だが、僕もどちらかというとそちら側なので、前半の会話はとても共感できた。
 徐々にそれぞれの内面が明らかになっていき、自分が諦めていたことが明確化された後、球場で頑張る選手たちへの思いに変わったシーンは、心が震えた。

 「人生は送りバント」という聞いただけではマイナスに聞こえる言葉も、「自分が頑張ることで誰かが前に出られる」という精神の現れで、演劇部の二人が何故、全国大会に自分たちは出られないのに関東大会に挑むのか。
藤野くんが何故、野球用品のメーカーに勤めたのか?最後にボールをキャッチした時に、彼は形を変えつつも野球と繋がっているんだなあ、と泣いた。
 「アルプススタンドのはしの方」にいる人々の未来とも「人生は送りバント」はリンクしているように感じる。

 また、ラストのプロ野球選手になったあの人。
 「しょうがない」で終わらせずに努力し続けてきた結果だ。
 吹奏楽部の久住さんが言っていた「普通だから努力する」という言葉とも繋がってくるように感じる。
 
 物語の中で流れるブラスバンドの演奏も凄く良くて、涼しいシアターの中にいるはずなのに、夏の球場の暑さと高揚感が伝わってくる。

 何故、僕らは誰かを応援するのか。
 それは多分、動き出すきっかけをくれるからじゃないか。
 何かに立ち向かう姿に感動して、自分も力をもらえる。
 いつか、自分も応援する側から誰かのきっかけになりたい。
 丁度、あの映画では映らなかったが、みんなの心を動かしたあの人のように。


 

 

2020年7月7日火曜日

おすすめの映画と本「のぼる小寺さん」

君をみている

 皆さんは誰かに影響されたことがありますか? 

 今回紹介する映画「のぼる小寺さん」は、「見る」ということを主軸に描いたというのは、監督が上映前のコメントで語っていましたが、まさに「見る」ものによって人は変わってくるんだなあ、というのがストレートな感想です。

 この作品は体育館のシーンが多いんですが、男子校育ちの登山部・バレー部・ラグビー部・建築部を兼任でやっていた人間としては、体育館はあんな素敵な青春の場ではなく、破壊と暴力のパジェントの場でしかありませんでしたよ。



 
 【ここからはネタバレありです】

 さて、話を作品に戻すと、卓球部の近藤君がボルタリング部でがんばる小寺さんを見つめるところから始まるんですが、この近藤くん始め、小寺さんを見つめている人たちは、自分のやりたいことを見つけていられなかったり、内に閉じ込めたままだったりします。

 そんな近藤くんたちの前に、やりたいことにひたむきな小寺さんが現れるわけですよ。自分のやりたいことに真っすぐな彼女の姿を見て、僕は「サイレントマジョリティ」のサビを思い出しました。


 印象的なのは、小寺さんの独特の感覚ですよね。
 一生懸命にチラシを配っている姿を茶化されて(しかも、元NMBの矢倉楓子さんに!)、怒るんじゃなくて「少し寂しい」と感じたり、一人で岩に昇る時間に自然と一体になる感覚。このあたりが、凄くふわっとしてて好きなんですよね。
 周囲の目や声に対して、気にせずに果たしてどこまでやれるのか?
 デレク・シヴァーズの「社会運動論」を僕は見ながらふと思い出しました。
 何かを始める人は必ず一人で、周りから嘲笑や冷笑をされる。しかし、そこに理解者となる人がもう一人現れる。そして、3人になるとそれは「集団」になると語られています。
 重要なのは、2人目であり、1人目と3人目を繋ぐ2人目が重要なんだそうです。この映画における2人目は、実は四条くんなんじゃないか、と僕は思っています。
 そして、さっきの感覚の話に戻ると、「夏は音が消える」という小寺さんの言葉に、近藤くんは小寺さんに対して拒絶や嘲笑・冷笑をするのではなく、「わかんないけど、今度、やってみるよ」と歩み寄るんですよね。僕はこのシーンが大好きです。ここで小寺さんは、近藤くんのことを意識したんじゃないかと僕は思っています。


 この映画を観ていると、「アイドル」と「ファン」の関係も連想させられます。わざわざ、アイドルの動画を観ている生徒を登場させて「一生懸命観てるんだよ!」という台詞まで言わせているんですが、推しを見つめることで、自分が少しずつ変化していくという関係のようにも僕は読み取れました。
 たとえば、僕はSKE48を好きになっていなければ、今みたいに文章をオープンに書いていなかったでしょうし、多分、オールドメディアの方を目指していたんじゃないか、と思います。
 「センターになりたい」とか、「総選挙で1位になりたい」という目標を目指して昇っていくアイドルたちを「ガンバ!」と応援するファンの図を僕はふと連想しました。


 今、会社で働きながら、果たして僕は「見てもらえる側」の人になれているかな、SKE48を「見ている側」の僕もいつか、誰かに「見てもらえる側」になれるように、今日も頑張りたいな、と思わされた1作でした。
 キャラクターとしては、ボルタリングの先輩コンビが、高校生とは思えないぐらいカッコ良くて好きです。
 一番笑ったのは、梨乃がポーチを取りに戻った河原に、何故か小寺さんが居て、ゴミ拾いをしているところです。いや、なんでそこに居るんだよ!とツッコみそうになりました(あとで何故そこに居るのか分かるんですけどね)。

 
 
 続編は小寺さんがホテルでアルバイトを始めて、ホテルに謎のガスが充満、そこから救出を待つために、ビルをフリークライミングで昇って行く「のぼる小寺さんEXIT」に期待するしかない!



 そして、さらに数年後、「のぼる小寺さん フリーソロ」が公開されるに違いない!




 色々とアホなことも書きましたが、この夏に観たい居心地の良い風や音がする素敵な映画でした。

おすすめの映画と本「テロルンとルンルン」

美しい一言

 皆さんは、一度だけ観てずっと心に残っている映画はありますか?
 子供の頃に観て、ずっと印象に残っているものもあれば、2回目を観ることで感動が消えてしまうのが嫌でその感動をずっと大事に残しているもの、様々だと思います。
 僕の場合は、2019年の秋に京都国際映画祭で観た「テロルンとルンルン」がそれで、多くの人にこの素晴らし作品を観てほしい反面、もう一度自分で観て、何も感じなかったらどうしよう、という怖さもありました。
 そして、7月5日。
 mu-mo LIVE THEATERの「STAY HOME MINI THEATER」配信でもう一度見直しましてね。

 あらすじを知っていて観てもやっぱり素晴らしい作品でした。
 まだ、7月9日と12日に配信があるので、詳しくは公式HPやTwitterのアカウントをチェック!
 個人的なことですが、12日は僕の誕生日。
 いつもブログの方やnoteを読んで、応援してくれているフォロワーさんたちにプレゼントをねだるとすれば、この映画を観て欲しいです。
 「テロルンとルンルン」の話が出来る人が世界中に一人でも増えることが僕への最高のプレゼントだと勝手に思ってます。
 予告はこちらをご覧あれ。



【ここからはネタバレありで書きます】
 前回は映画館の中で観たんですが、今回は自宅で観られたので、メモを取りながら観てみてました。
 
 まず、開始から美しい風景が映っているんですが、僕は静かな学校のシーンが好きで紫色に光がさしている水飲み場や校舎が印象的でした。
 場所に関していうと、類が引きこもっているガレージの窓が印象的で、スムーズに開かない窓やカーテンがまさに類と外界との関係を象徴しているようでした。
 そして、アナログな感じのものが多いガレージの外は、人の噂で満ち溢れていて、デジタル空間の中で彼に関する嫌な噂が広がっていました。で、そのサイトの名前が「Tahoo!」だったのが、ちょっと面白かったです。
 誤解から新しい噂が広がっていき、瑠海が傷ついていく過程もすごくリアルでした。言葉に出せないからこそ、家族ともうまく理解し合えない辛さ。本当に類と瑠海の関係を理解しているのは、観客だけ。類にも瑠海にも父親が居ないというのも印象的でした。
 瑠海から修理を依頼されたサルのおもちゃの部品が足りない、というのが、世の中との関係でどこかが欠けてしまった彼自身のようでもあります。でも、類も瑠海も自分から望んでそうなったわけではないのに、周りから誤解されやすい生き方になっているのがなんとも切ないです。そんな二人だからこそ、惹かれ合ったのかも知れません。
 部品が無くて一度は諦めかけたものの、それでも、もう一度チャレンジしていく場面も良くてですね。少しずつ類の中で変化が起こっているのも印象的でした。そして、直した時の嬉しそうな顔。食事シーンを美味しそうに食べ始めた後の、やりきれない涙。
 外に出たくても、まだ出る勇気がない。
 彼が発した「お前、今どこおるん?」という台詞も凄く良かったです。
 最後の引っ越しする朝のシーンが最高でしてね。
 日食なつこさんの「vapor」が流れる中、類が走るシーン。
 多分、引きこもっていた類からしたら、走るという行為自体が久しぶりであんな動きになったと思うんですが、「届けたい」という思いが凄く伝わってくる良いシーンなんですよね。
タクシーの窓越しに直ったサルのおもちゃをみせる類。
 窓越しに「ありがとう!」と言葉を発する瑠海。
 見上げた太陽を見て、「こんな眩しかったけ?」と呟く類。
 ここで物語は終わるんですが、類の手にはサルのおもちゃが残ってるわけです。ここから、二人がどうなるんだろう、という未来を色々と想像させられます。
 アフタートークで宮川博至監督が仰っていましたが、「良い映画って何だろう?」という問いに対する、一つの答えがこれではないでしょうか。無駄なものをそぎ落とし、表情や動きが中心である。だから、こそ彼らが発した言葉がキラキラしている。
 エンディングテーマのおとぎ話さんによる「少年少女」という曲の歌詞の中で印象的なのが、「生きるのをやめた僕が赤い目をこするよ」というところと、「出会いと別れを繰り返しながら」「おとぎ話の結末の先」というところ。まさに、二人の物語にぴったりな感じがしました。
 やはり、2回目で観ても面白い。
 この作品はクラシックになりうるんじゃないか、と僕は思っています。
 国を越えても認められていることは勿論ですが、あと30年ぐらいして見直しても、心の中の大事な場所に置いておきたい映画だと思っています。

2020年6月19日金曜日

おすすめの映画と本「ドクター・ドリトル」

丁寧な1作


 徐々に映画館が復活してますが、皆さんはもう映画を観に行きましたかね。
 先週は「死神遣いの事件帖」を観てきたんですが、今日は久しぶりにIMAXで映画が観たいぜ、と思い、東宝シネマズ難波へ行ってきました。
 そして、今週のIMAX上映作品が、「ドクター・ドリトル」だったんですね。ただ、劇場についたのが早すぎたので、先に「映画秘宝」を買って開場を待ちました。
 うーむ、今月のランボー特集もマ・ソンドク特集も気合が入ってるなあ、と「映画秘宝」を読み、シアターへ。
 「ドクター・ドリトル」自体は、昔、そういう作品があったらしいぐらいの予備知識で、エコーズの「ZOO」みたいな、本当は動物みたいな僕たちなのさ、みたいな話だろうな、と思いきや、良い意味で裏切られましたよ。個人的に好きな福山バージョンを貼っておきましょう。

 
  

 【ここからはネタバレありです】
 
 原作を知らないため、「動物と喋ることができる」という「仮面ライダー龍騎」の世界に居たら絶対不利だろという特殊能力一つで、いったいどうやって物語を作っていくのか、と思ってたんですが、「医者」という要素と物凄く相性が良いんですよね。

 患者である動物たちの声が聞こえるからこそ、最終的に動物を超えた存在の心の声にまで耳を傾け、治してしまうことが出来る。そして、動物たちをナメてないというか対等な存在として扱っているからこそ、仲間たちも付いてきてくれるんでしょうね。
 更にいうならば、「~らしい」動物があまり出てこない。
 「臆病なゴリラ」や「寒がりの白クマ」とか、僕たちが思い浮かぶ動物のイメージとちょっと違うけれど、よく考えたら、僕たち人間でもそれぞれ違いますもんね。動物たちの多様性を受け入れる感じが素敵でした。
 あとは、物語の最初にリスが撃たれて手術するシーンと最後のドラゴンを手術するシーンが、きちんと重なるような構図になっていたり、子供を亡くした海賊王ラ・ソーリが飼っている虎のバリーが親の愛情に飢えていたりという関係も面白かったですね。
 ドリトル先生が愛する先生の思い出を胸に、スタンビス少年との師弟関係を結んでいくラストも良かったです。
 本来、動物の命を奪う側の猟師になる可能性もあったスタンビス少年が命を救う獣医を目指すという展開もまた良し!
 一番好きなキャラクターはリスのケヴィンくんです。
 彼の「リベンジ!」は名シーンですね。明らかにあの時代より未来のイメージ混じってただろ、という野暮なツッコミは置いておき、彼の冒険記的なナレーションと復讐に燃える感じが最高でした。

 これは子供の頃に観ていたら、また、他者への理解が今よりも深くなっていたんじゃないかなあ、と思わされる丁寧な1作です。そして、過去に飼ってきたペットたちの気持ちを本当に分かっていたのか、と内省させられる作品でもありました。

 昔、我が家で飼っていた犬が、よくお腹を見せて「遊んで遊んで」としている時に、足でぐりぐりしながら「本当にコイツは馬鹿だなあ」とか言いながら遊んでいたんですが、それは全て僕のアフレコであり、本当は全く別のことを考えている可能性があるな、と思ったわけです。
 つまり、腹を見せるのは「遊んで遊んで」のサインではなく、「お腹が痛いよ、ちょっとみて」かもしれなかったわけです。そんな犬のお腹に足をぐりぐりさせてたわけですから、「うおおお、何すんだコイツ。痛い痛い痛い。貴様のような最低の人間は、孫の代まで畜生道に追い堕とす。生きながら煩悩の犬となさああああ!」(『里見八犬伝』の読み過ぎ)と思っていた可能性もあるわけです。

 うーむ、もう、犬には何の償いも出来ませんが、子孫が牡丹の痣と霊玉のせいで、超過酷な人生を送らなくて良いように、より他者の声に耳を澄ませようと思った僕でした(なんだこの終わり方)。

 

2020年6月13日土曜日

おすすめの映画と本 「死神遣いの事件帖」

言葉の説得力を持たす設定


 個人的に時代劇が好きで旧作・新作問わず観るタイプなんですが、今回観た「死神遣いの事件帖」は、最初は時代劇だと知らなくてですね。
 作品としてもシナリオとしても、良い意味で裏切られました。
 主演の鈴木拡樹さんは、「信長と蘭丸」とか「刀剣乱舞」とか「カフカ」の人だな、と知ってたんですが、今回の演技が僕は好きになりまして。3枚目の線でもいけるな、と思いましてね。
 朝から2番目の回を観に行きましたが、パンフは売り切れてましたよう。




 【ここからはネタバレありです】

 とにかく伏線回収が素晴らしかった。
 「お千」さんや「お藤」さんというネーミングもそうなんですが、「どこかで会ったことがあるんじゃないか?」という問いも凄く良かったんですが、吉原が誰かを守るためのものだとしたら、というのが斬新でした。いやあ、その発想は無かった。
 歴史との繋がりも上手く落とし込んでいて、本当に良い脚本だったなあ、と思いました。

 そして、殺陣も無駄に斬り合うんじゃなくて、本当に重要な部分に集約することで、緊張感がある闘いになっています。特に西洋の死神との闘いが僕は好きです。速いところと遅いところの緩急がしっかりとしてましたね。

 また、死神遣いという設定だから、戦った後に寿命が縮まった関係か息が上がるし、「命をかけて」という言葉の説得力が宿る。また主人公の血筋を知ると、ヒロインを助けるということにも必然性を感じられるから素晴らしい。

 役者の皆さんでは、特撮好きには見慣れた方が何人かいるのが嬉しかったですね。
 鈴木裕樹さんも、最初観た時は、「バー秀」さんみたいな髪型だけど大丈夫か?と「オードリーのオールナイトニッポン」大好きな僕は思ったもんですが、観ていくと全然違和感が無くなっていきましたね。
 十蘭役の安井謙太郎さんは、別れの涙も良かったんですが、声だけの演技で心情を伝えられるのが素晴らしいなあ、と思いました。
 そして、ヒロイン役の鈴木絢音さん。
 乃木坂は生駒ちゃん以来、推しはいない筈でしたが、とても気になりました。

 序盤のシーンで彼岸花が咲く水辺で見栄を切るシーンは、うーん、ちょっとうるさいなあ、と感じたんですが、最後に変身した時に見ると、「ああ、これは三途の川のメタファーだったかあ!」と序盤の自分をぶん殴りたくなる素晴らしい演出でした。

 色々と書きましたが、何度も観たい素敵な時代劇に出会えました。
 これは、是非見ておいて欲しい1作です。

 

2020年4月13日月曜日

「おすすめの映画と本 シン・二ホン」

スクラップ&ビルド



 「ポスト・トゥルース」という言葉をご存じでしょうか?
 客観的なデータとは関係なく、予断や偏見が先行した社会的信念のことを指します。
 人間は感情の動物で、自分の信じたいことしか信じない感情の生き物なんじゃないのか、僕は時々そう思うことがあります。
 たとえば、未だにやっている「日本って凄いよね」番組。
 本当にそうか、と観ていて思う時があります。
 また、このブログはSKE48のことを書いているので、SKE48に引き寄せて考えると、2018年のドキュメンタリー映像「アイドル」の中で出てきた、「今のSKE48で、名古屋ドームに立てるか問題」。
 この映像を観ていて、普段イライラしない僕が2年ぶりぐらいにイライラしたのが、全くデータで語らずに、主観だけで「いやあ、今のSKEじゃあ、名古屋ドームは埋まらない」という論説が繰り広げられたことです。もっと早く「FACTFULNESS」が発売されていれば!と思ったんですが、まあ、見せられない数字もあるんだろうな、と自分なりに納得しました。その後の「BUBUKA」での取材で珠理奈やだーすーが、「名古屋ドームは不可能じゃない」と語ってくれたのが、嬉しかったものの、自分もその嬉しさの根拠になるようなデータを、何も持っていないことをまざまざと実感もしました。

 2020年4月現在、COVID-19の影響で、世界は未曽有の危機に陥っています。その中で、諸外国の国民生活への保障と日本の保証を考えた時に、僕らはこの国、いや、この国の政府について考えさせられました。
 本当に、今の日本でいいのか。
 先日、ブログで紹介した宇野常寛さんの「遅いインターネット」と同じタイミングで発売された安宅和人さんの「シン・二ホン」には、僕らがこれからの日本を考えていく上でのヒントが書かれています。できれば、2冊を合わせて読むことをおすすめします。
 安宅さんは、慶應義塾大学、環境学部教授で、ヤフー株式会社のCSOも担当されています。10年前に発売された「イシューからはじめよ」を読まれた方も多いんじゃないでしょうか。



 まず、この本を読んで、衝撃的だったのが恐ろしい負のサイクルが起きていて、研究者が育ちにくい国になってしまっていることです。
 日米主要大学の学生一人あたりの予算と人件費率、日米トップ3大学の常勤教授の平均年収の差。僕自身も10年ほど前に、大学院の修士を終えて博士課程に進もうか悩んでいる時に、近代詩を研究されていた担当教授に「この世界はもう椅子がギチギチだし、どんどん予算も減っているから、食っていけなくなるよ」と言われたのを覚えています。
 その時、まだ20代前半だった僕は、まあ、文学の研究なんざ、偉い人には分かってもらえないんだろうな、もっと役に立つことあるんだろうし、と。しかし、こう、データで見せられるとクラクラしてきますね。
 P336からの未来のための原資を作り出す私案は、本当にこれからの日本を考えていく上で必要な処方箋だと思います。それに257ページのデータサイエンティスト業務のタスク全体像や350ページから4つの不確実性レベルは、様々な分野で応用可能だと思いました。
 あと、教育業界に居た人間としては、「スポンジ力」より「気づく力」というのが、現場にはまだまだ降りてきてないなあ、と思いました。特に小学生とかの中学受験は、これを変えなきゃなあ、と思いました。

 読めば読むほど、これから、若い世代に僕らはリソースを割いていきながら、もう一度、立ち上がっていかなければならない、と実感しました。まだ、僕は卒業した大学に寄付できるような身分ではないですが、これに近いことが出来ないかを考えています。

 2020年4月現在、僕らが向き合っている敵は、「シン・ゴジラ」よりも厄介で、姿が見えません。あの映画の政府は、全員がベストの選択をしていきながら、ゴジラを倒していきました。今の日本政府にあそこまでを期待するのは難しいですが、僕たちのレベルでこれからの世代に残していける試みがないか、この本を読み終わった後、思考しました。

 少なくとも、僕がこれから働く業界では、若いクリエーターたちが活躍できる場、いや、枠を設けられないかを考えてみたいと思っています。

 先日観た落合陽一さんとの対談で、「withコロナ」という言葉を安宅さんは出されていました。これから先まだまだ続くコロナとの関わり方を考えさせられました。

 話をSKE48に戻すと、これからの時代を進んでいく9期生や10期生たちは、様々な形でSKEが関わるメディアの活用方法を更新しています。
 「接触」しなくてもサイン会が出来る、ブログは書き方次第でミメーシスを生む。COVID-19時代で何組のアイドルが残るか分かりません。
 ただ、これからSKE48が生き残っていくために必要なことは何か、新しい生き残り方は何かを考えていくフェースが来たのかもしれません。

 色々と話が広がりましたが、この本を読んで、「そうだよね」で終わったらダメだと思います。政府レベルの力やルールを作る力はなくても、自分の会社やコミュニティーの中ではできるのではできないか。特に中間管理職やその上の立場が多い、僕たちの世代は。
 
 僕が大好きな映画「メランコリック」の松本の台詞を引用して終わります。
 危機的な状況に陥った主人公の和彦が、殺人をするしかないと提案した殺し屋の後輩の松本に賛成した時の一言です。

 「ノリで賛成すんなよ。どうせ、全部俺がやってくれると思ってるんでしょ?」


※おススメの映画と本「遅いインターネット」についての記事はこちら!

2020年4月9日木曜日

おすすめの映画と本「AKB49」

感情吐き出して、今すぐ素直になれ!


 僕は映画が好きで、黒澤明監督の作品も大好きです。
 彼が撮った映画の脚本の多くを手掛けた橋本忍の著作や黒澤関連の本を読んでいると、黒澤作品は、何人かの脚本家を集めて、毎回大喜利のように解決が無理な状況をまず考えさせて、それをどう解決させるかをさらに考えさせて、傑作を作っていったそうです。主人公たちが、置かれた状況の中で様々な知恵やスキルを発揮して解決していく。そして、毎回観終わった時には心が動かされる。だから、時代や国境を越えて残っていくんでしょうね。最近だと、「ジョン・ウィック」シリーズや「犬ヶ島」の監督も参考にしていたことを聞いて、驚きました。

 今回紹介する「AKB49」を読んだ時、まさに漫画でこの手法を真正面からしてくれているな、と思いました(そういえば、8巻で黒澤映画という言葉が出てますね)。
 AKBの中に一人の男子高校生が入り、同じく研究生として入った、自分の好きな女の子をセンターにさせてあげたい。
 まず、この大きな目標が早くも無理難題なんですよね。
① 男であることがバレないか?
② 好きな女の子である寛子をセンターに出来るのか?
 物語を通じて、まずこの二つの課題が貫かれます。
 全29巻で、何度も主人公のみのりが浦山実であることがバレそうになりますし、何度も寛子がアイドルで居られるかどうかが揺れていきます。
 また、48グループの本人メンバーが出てきます。
 もちろん、フィクションなので、そのままではないかもしれませんが、漫画版のたかみなとか、僕は大好きですね。

 アイドル漫画のようでいて、内容は真っすぐな少年漫画で、読んでいると本当に心が熱くなるし、時には涙もでてきます。
 その中で僕がおすすめのストーリーをネタバレをなるべく抜きで3編選んでみました。


① GEKOKU嬢編(7巻~12巻)

 丁度、ミュージカル版「AKB49」の少しあとのエピソードなんですが、みのり、寛子、岡部愛の3人が、CD13万枚を完売させて、正規昇格を目指して試練に立ち向かっていくんですが、ライバルであるJewelのMAYAが超嫌がらせをしてくるわけですね。
 それを毎回、みのりたちがとっさの機転やこれまで積み上げてきた努力で、乗り越えていく姿は本当に燃えます。
 また、クイーンレコードの妃先生の「1で客の目を引き、2で心を掴み、3で120%」というセットリストに関する言葉。これは、ライブを観る時、特に対バン系のライブを観る時の新しい視点になりますね。

② SKE48編(14巻~16巻)

 みのりと寛子、そして、14期生のアリスは、秋元康から「全国兼任」というなんとも夢のある人事異動を告げられます。
 まず、最初に3人がやってきたのが、栄。
 SKE48ですね。
 兼任の3人がファン全員に認められるかの投票が、毎回の公演で行われるんですが、まあ、排他的なんですよSKEファンが(まるで他人事のように書く)。
 過剰に描かれているところもあると思うんですが、なかなか賛成の白票を入れない人達の気持ちも分かるんですよね。大組閣の時、僕も最初は凄く違和感を持ってましたもん。特にチームSは。
 じゃあ、いったい3人がどう乗り越えていくのか。
 このSKE48編の最後に登場するあの曲は、涙なしには聴けません。
 ちなみに、中西推しとしては、沢山描いてもらえて本当に嬉しいです。

③ 最終公演(28巻~29巻)


 男としてAKB48に居るということ。
 この物語を通して守ってきた実が、いよいよ自分がしてきた事と向き合う時がきます。
 もう、僕は28巻のラストぐらいから、涙が止まらないんですよね。
 29巻での奥平先生の言葉。
 この言葉は、「アイドルを推すということ」が、自分たちの日常に入ってきたこと、アイドルたちのおかげで、他人の幸せが喜べるようになったこと。
 その時間が、何よりも貴重だということ。
 これだけ推して悔いがないぐらい、誰かを推していきたいですね。

 さて、短くまとめてみましたが、僕が知っているアイドル漫画の中では、ぶっちぎりの1位です。
 いったいこれだけのストーリーが完成するまでに、どれだけの時間、打ち合わせや思考錯誤があったか。想像するだけで脱帽です。
 各巻の最後にスタッフの方々の推しメンが書いてあるのも面白くて、だーすー推しの方や秦さん推しの方がいらっしゃってのも嬉しかったですね。

 いま、「AKB49」が連載していたら、新潟や瀬戸内、いや、海外編もあったのかもしれません。
 とにかく、マガジン連載時には、この漫画を入口に48に入った人もいたはず!
 当時、僕の職場のアルバイト君が、「松井玲奈ってデカいんですか?」と謎の質問のあと、「49」から48を知っていき、きたりえ推しになっていったのは、衝撃でした。
 コロナで気持ちがダウナーになりそうな今日この頃、熱い気持ちにさせてくれる漫画を読んでみませんか?

※宮島礼史先生の「彼女、お借りします」も早く読みたいんですよね。こちらもチェック!

2020年3月11日水曜日

おすすめの映画と本「男と遊び」

男の匂い


 井上敏樹先生の書く脚本が好きです。
 「鳥人戦隊ジェットマン」も「仮面ライダー555」も「仮面ライダーキバ」も、いつも愛しい人物が必ず出てくる。僕は少年時代から青年期まで、井上先生の脚本で成長してきたと言っても過言ではありません。
 特に「仮面ライダーキバ」に出てきた紅音也は、僕の理想の男の一人です。
 そんな素晴らしい作品を書いてきた井上敏樹先生のエッセイがついに発売します。
 それが『男と遊び』です。
 ぜひ、PLANETSで購入してほしいです。
 特典の冊子で宇野常寛さんと井上敏樹先生の対談が読めます。特撮ファンの方にはたまらない内容になっています。


 
【ここからはネタバレ全開で書いているので、是非、ご一読されてから読んでください】

 一つ一つの章の完成度が、物凄く高いんですよね。ちゃんと気持ちよく話が毎回落ちる。
 次の章が読みたいのに、「いやいや、焦るな焦るな」と自分に言い聞かせるように少しずつ読みました。
 最後まで読んで、自分の物事への見方や価値の付け方が、いかに雑であったかを実感した1冊でした。井上敏樹先生の、食べ物に対する一つ一つの評価が凄く丁寧なんですよね。「うまい」とか「まずい」じゃなくて、一つ一つにエピソードがあって、理由があって。
 読んだ後に、そのものの価値が少し変わるような気がします。食べ物だけではなく、生き方もそうですね。淋しさからの恋は、ろくなことが無いとか、もっと早く読みたかったと思いましたよ。


 そして、彼の周りにいる人物たちも凄い。
 Sプロデュサーのあまりにも破天荒すぎるエピソードは昭和の芸能界の華々しさとめちゃくちゃさを感じましたし、信頼できる料理人がいったい何人いるんだ、というぐらいの食通ぶりも感じます。
 その中でもお父様である伊上勝さんとのエピソードは、悲しいものもあれば、心温まる者もあるんですが、酒におぼれていきながらも脚本を書いていたエピソードや、愛人の写真の裏に書いたメッセージ。なんとも切ない気持ちになっていきます。
 ストロンガーの最終回に向けて、あんな凄まじい脚本を書いていた人が、と意外でした。スカイライダーの始めの方も書いていたはずですが、あの素晴らしい話たちの裏では、こんなドラマが繰り広げられていたのか、とさらに驚きました。

 一番印象に残っている回は「男と酒 3」の回です。
 これは、純文学ですよ。
 「美しい目」のエピソードの、アル中にしかたどり着けない境地。
 恐ろしい世界なんですが、読んでから頭の中から離れなくなってしまいました。見てみたいような、決して見たくないような。
 「死にながら美しいよりは生きながら汚れている方が人間らしい。そういうものだ」というこのページの最後の言葉は、生きていく上で大事なことを教えてもらったような気がします。
 上の文と関係があるか分かりませんが、井上先生は毎回、カッコいいんです。けれど、カッコよすぎないんです。必ずちょっとだけ自分を落とすエピソードがあります。そこが憧れるところです。

 本を開く度に、酒の匂いがすることがあれば、煙草の匂い、血の匂い、獣の匂い、色々な匂いがしてくるんですが、一番奥にある匂いが、僕の中から出るように、丁寧に一つ一つのものを見ていきたい、愛でていきたいと思わされる1冊でした。

2020年3月8日日曜日

「おすすめの映画と本 ウルトラセブンが『音楽を教えてくれた』」

好きの拡大の仕方



 昔、友人に言われたことがある。
 「Zガンダム好きな人は、セブン好きな人多いよね」
 むむ、僕はまさにそれに当てはまる。
 「そして、面倒くさい性格の人多いよね」
 ああ、面倒だよ。

※「ウルトラセブン」の公式動画もチェック!



 でも、好きだからこそ、面倒になっていくのだ。
 普通の人の作品に対する「好き」の広がり方は、作品や世界観、キャラクターへの思いや考察に向かうことが多い。
 しかし、青山通さんは違った。いや、それだけにとどまらなかったと言った方が良いだろう。
 「セブン」最終回でシューマンのピアノ協奏曲に出会った青山さんは、インターネットがなかった少年時代、お小遣いをはたいてLPレコードを買うが、「本物」とは違う!
 それはそうだ、指揮者もピアニストも違うからである。
 ここから、青山さんの闘いが始まる。
 その期間7年!
 7歳から14歳になるまで、あの最終回のバージョンに出会うために、様々なシューマンの「ピアノ協奏曲」に出会っていく。
 本書の61ページにある演奏スピード表を速い順に並べた表を見て、思わず声が出た。28バージョンもあるのだ。この人、どんだけ「ピアノ協奏曲」聴いてんだよ!
 また、セブンの劇中の音楽を担当された冬木透さんのお話も面白い。なぜ、カラヤン盤を選んだのか、は是非読んで確認してほしい。
 僕は「盗まれたウルトラアイ」の最後に流れるあの悲しい音楽が、冬木さんの音楽で一番好きだ。
 
 読んでいきながら、青山さんが提示したカラヤン・リバティ盤とウルトラセブン最終回に共通する「運命に抗う推進力」をつなげる言説は本当に素晴らしかった。曲に関するブログを書いている人間としては、とても勉強になったし、本当にこの曲について考えてきた、いや、考え続けてきた人だからこそ、繋げられた線かもしれない。

 2章の「ウルトラセブン 音楽から見たおススメ作品集」は、いち特撮ファンとして、読んでいて楽しかった。
 青山さんのストーリーの語り口も面白いが、音楽のおすすめを読むことで、どんな音楽だったかなあ、と再び見返したくなる。
 それにしても、なんであんだけ前編で強かったガッツ星人が、後編であんなにアタフタしているのか、大人になっても謎だ。別に、セブンがめちゃくちゃ強くなったわけでもないのに、と子供の頃からずっと謎だ。

 さて、この青山さん、著者の紹介を読んで驚いた。
 「クラシック音楽から欅坂46まで幅広い音楽領域に関心をもつ」。
 青山さんの欅坂46論、ぜひ読んでみたい。
 できたら、SKE48論なんか、どうだろう。
 
 
 

2020年3月4日水曜日

「おすすめの映画と本 夢のポッケ 14歳で夢をかなえてまんが家になった私」

夢幻三剣士は確かに最高!


 本日、ときわ藍先生の「夢のポッケ 14歳で夢をかなえてまんが家になった私」。
 もう皆さん読みましたかね?
 僕は電車の中で読んでいたんですが、もうね、泣きましたよ。
 最初のカラー写真と18歳までのこれまでの日々のところで、もう号泣ですよ。
 周りの人にジロジロみられましたが、途中からときわ先生だけじゃなくて、何故か、お母さま視点になって、もう一つ感情が乗っかってきましてね。あたり構わず泣きながら読み進めました。
 お母さま。娘さんたち、本当に立派に育ってますよ、と思いました。



 さてさて、14歳でデビューというセンセーショナルさの裏には、こんなドラマがあったのか、と思いましてね。
 みんな最初から天才じゃないんだ、と。
 『コロコロ漫画大学校』や『ちゃお・まんがスクール』での漫画家になりたいという自分の思いと、結果がついてこない毎日。
 
 小説家のJD・サリンジャーを題材にした「ライ麦畑の天才」でも、小説家になるためにサリンジャーが新人賞に小説を送ったら、「ボツになりました」というハガキが来るんですが、サリンジャーの学校の先生は「よし、やっとスタートラインに立ったな」的なことを言うんですよね。
 そこから、ピン止めじゃあ足りないぐらいのボツのハガキをくらいながら、彼は永遠の名作「ライ麦畑でつかまえて」を書いて、21世紀になった今でも多くの文学青年たちに影響を与えていきます。
 天才と呼ばれるサリンジャーも自分の才能に苦悩しながらも投稿することを続けます。ときわ先生もここは同じで、挫折を味わいながらも「わたしは天才じゃない」ということを一旦、飲みこんでそこからまた走りだせるというところが両者とも素晴らしいです。
 
 漫画だけじゃ、ありません。学校生活でも教師の心のない一言から、「人の視線が気になる」というストレスから、睡眠障害を起こしたというエピソードは凄く辛くてですね。僕は「ストレンジカメレオン」という曲が凄く好きなんですが、周りの色に上手く染まれなくても、大切な何かをちゃんと持っているんですよね。マスクや定時制高校で少しずつ自分を守りながら、自分が居心地の良い場所をみつけて行ったときわ先生。
 
 このエピソードを読みながら、僕は思いました。
 「勉強ができる」というのは「世間のものさし」なんですよね。
 これは「お金持ちだ」とか「流行に敏感」でも良いです。 
 この物差しは時に、とても冷たく人を打ち付けます。
 たとえば、僕が好きな近代文学の小説家や歌人や詩人たちは、この物差しでは、ほとんど価値の無い人達になってしまいます。
 でも、「物語」を作れるって、本当に素晴らしいことだと思うんですよ。
 漫画という幼い世代から手に取れる、時には言葉も関係なく感動を生む、そんな素晴らしいものを作ることが出来る彼女の才能が、認められていくのが僕は他人ごとながら、凄く嬉しかったです。

 作品自体は、藤子・F・富士雄先生の「ドラえもん」に出会ったことから、最初はF・富士雄先生の影響を受けていました。残念ながら、作品自体は望んでいた結果を生みません。
 しかし、そこから、いとこの木崎ゆりあの名古屋ドームでの「それでも好きだよ」や妹の浅井裕華のアイドル活動から生まれた「アイドル急行」。視線の恐怖やマスクをつけることという、自分の内面にあるものをどんどん作品に昇華していくのが素晴らしくてですね。なんというか、自分が経験した様々な悩みや不安をフィクションに落としていく手法は、晩年の芥川チックで僕は好きです。
 そして、18歳で自分の原点である「ドラえもん」と漫画家として再会するというのが、スゴイじゃないですか。
 自分の作風を手に入れたあと、もう1回、自分に影響を与えたものと向き合うというね。

 だれかの力になる漫画を描きたいというところを読んでいると、「ドラえもん のび太と雲の王国」の主題歌の「雲がゆくのは」を思い出しましたよ。


 そういや、「ドラえもん」も子供の頃、観てたら未来は凄いんだろうなあ、と「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズのマーフィーみたいな気分になったもんですよ。ときわ先生の昔の自分は今の自分を知らない、という言葉は、まさに今どんぞこに居る自分に力をくれる言葉です。
 本当に良い本なので、ぜひ、お子様やその親御さんにも読んで欲しいです。


2020年2月21日金曜日

おすすめの映画と本「遅いインターネット」

これから来るものへ 成功の前例を


 宇野常寛さんのことを知ったのは、「批評のジェノサイズ」だったと思う。
 自分の知っているサブカルチャーに関することを、鋭い視点で語っていてページをめくる手が止まらなかったのを覚えている。そこから、SKE48ファンとしては凄く嬉しい松井玲奈が表紙の「PLANETS vol.7」を購入し、特撮ヲタとしては凄く気になる表紙の「リトルピープルの時代」も購入した。
 彼の批評の言葉に触れることによって、自分が楽しんでいるものをここまで深く考えることが出来るのか、と新鮮だった。
 当時、もうかなり惰性で買っていた月刊誌「ダ・ヴィンチ」も宇野さんの評論のページを読むのが毎月の楽しみだった。J-WAVEでやっていた彼のラジオ番組やオールナイトニッポン0も面白かった。
 やがて、2018年に「PLANETS vol.10」が出版された。
 巻頭言で語られていた「遅いインターネット」という言葉はとても魅力的だった。
 僕の話になって恐縮だが、SKE48のまとめサイトなどの記事の賞味期限の短さには思うところが凄くあったし、一つの問題をじっくりと考えるという人が少なくなってきたかもしれない、という寂しさもあった(『1日1人について真剣討論』というスレは、今はなくなってしまったが、じっくりと語り合う場としては凄く好きだった)。
 だから、というわけではないが、自分で48グループの楽曲について考えるサイトを作った。
 できるだけ色々なインタビューやドキュメンタリーを観ながら、じっくりと考えて記事を書いていくようにしよう、何か楽曲を楽しむための新しいきっかけを作ろうという意識は、宇野さんの「遅いインターネット」という言葉の影響が大きい。
 やがて、PLANETSのチャンネルに登録し、毎平日ごとに届くメールマガジンを朝に読むのが日課になっていった。
 一番好きな番組は「惑星開発委員会」だった。
 宇野さんが、SKE48のメンバーと1時間以上語る番組で、自分が好きなSKE48というものの見方でこんなに差があるのか、と愕然とさせられた。SKE48で多い地方の親善大使のメンバーがSNSをどう活用すべきかの話は、特に面白かった。
 そして、2020年。
 いよいよ、「遅いインターネット」が書籍として発売された。
 僕は19日になった瞬間、電子書籍版で購入。




 この3日間、一つ一つの章をじっくりと読んでいった。
 読みながら、色々なことを考えさせられた。
 良い本は、立ち止まることが多い。
 特に第3章での「21世紀の共同幻想論」はとても面白かった。
 「自己幻想」、「対幻想」、「共同幻想」という吉本隆明が『共同幻想論』の中で提示した3区分を21世紀の現在にあてはめて構築していったところは、本当に面白かった。また、「モノ」から「コト」への変化の時代になり、肥大化した自己幻想のバランスをとるためにどうすれば良いのか。

 その問題を解消する為に「考え」、「読み」、「書く」ことができる人を育てていく試みは、現代においてとても素晴らしいことだと僕は思っている。10年ほど、教育に関わる現場で働いていたが、「考えられる」、「読める」、「書ける」、どれも養うのは難しかった。特に「読める」というのはなかなか大変だと感じていた。しかし、これができるようになったら、僕らの毎日や僕らに入ってくる情報は、ずっと変わったものになってくるのではないか。
 一つの事象に対して問いを持てること、別の視点を持てること、そして、「価値の転倒」を起こせる言葉を書くこと。これが出来る人が沢山出てくる社会になっていってほしい。
 
 今、宇野さんが始めた運動は、きっと僕のような今のインターネットにうんざりしている人間には刺さると思うし、同じようにサイトを立ち上げたり、noteで文章を書き始める人たちが出てくるだろう。
 48ヲタの僕はなんとなくAKB48の「Pioneer」という曲を思い出した。
 是非、どっかで探して聴いてほしい(こういう書き方になって申し訳ない)。
 
 この本を読んで、自分のサイトはインターネットをつまらなくしていないか、ちゃんと有益な情報を書けているのか、もう一度考えさせられるきっかけになったと思う。
 「自分の物語」だらけの今だからこそ、僕は「アイドル」たちの「他人の物語」の面白さもをもう一度、考えられる記事を書いていきたいと思っている。
 「速さ」よりも「遅さ」を大切にしながら。
 

※ ちなみに、この「遅いインターネット」の発売に合わせて、youtubeの公式チャンネルには様々な座談会がアップされています。幻冬舎の箕輪さんとの対談。


 この対談でちらっと出てきた、宇野さん監修の仮面ライダーフィギュアとかスゴイ欲しい。宇野さん監修で桜島1号から始まり、お気に入りのショッカー怪人やゲルショッカー怪人とかをS.I.C.とは違ったアプローチはどうだろう。超個人的には、ネオショッカー派なので、ドラゴンキングとかタコギャングとか埋もれているけどカッコいい怪人を出して欲しい。
 またピースオブケイク代表取締役CEOの加藤さんとの対談も。

  
 こちらも「他人の物語」から「自分の物語」に移り変わっていった現代でどうしていくか、ということも語られていますよ。
 


2020年2月10日月曜日

おすすめの映画と本「仮面ライダーアマゾンズ」

生きることは食べること、居てもたっても居られず


 皆さん、Amazonプライムビデオって、普段観られますかね?
 僕は、言うほど利用してなくてですね。
 町の映画館やレンタルビデオショップを応援するために、公開中で観たいものはだいたい映画館、住んでいるエリアで上映されていないものは、レンタルビデオショップという感じで観ていたわけですよ。
 
 ところがですね。
 現在、ゴリゴリの無職期間に入って、ちょっとした無駄遣いが命取りという「動けなくなる前に動きだ」せなかった感じなんですね。
 それでまあ、仕方ないから会費を払ってるAmazonビデオでも観るか、と思いましてね。
 僕は特撮作品では、平成仮面ライダー派なので、「仮面ライダーアマゾンズ、なんか評判良いから、観てみるか、なはは」と金曜日の夜に1話をスタートしたんですね。
 ええ、日曜日の夜までぶっ通しで劇場版とイベントまで観ましたよ。
 とりあえず、未見の方は騙されたと思ってみてください。

【ここからは、ネタバレ全開で語ります。】
 


 


 いやあ、恐ろしい話でしたよ。
 毎回、ドラマの引きが良いから、止まらなくなりました。
 まずは、シーズン1から振り返っていきましょう。
 正直、1話は色々と話を進めて行く上での土台を作っている感じだったんので、長く感じたんですが、もうアマゾンマンションぐらいから(素敵な名称)、一気にテンションが上がっていきましたね。
 シーズン1の迷いながら戦っていく水澤悠と、ひたすらアマゾンを狩っていく鷹山仁さん。この二人とアマゾンズの駆除班の3つの視点が中心となって進んでいきます。
 まあ、ハンバーガーが食べたくなりますけど、ハンバーグは暫くいいかな、と僕は思いましたよ、ええ。
 マモちゃんが三崎さんの腕を食べてからの、ああ、やっぱりきっかけ次第では一線超えちゃうんだなあ、というそこまで仲間感がたっぷりだっただけに非常に、悲しい気持ちになりましたよ。さらに言うと、これ、悠にも起こるんじゃ…と考えてしまいました。
 そして、1期と言えばアマゾンシグマの前原くんですよ。
 「あんたは4手で詰む」という決め台詞もカッコいいですし、元々の仮面ライダーアマゾンに近くて、こいつ、どうやって倒すんだよ、と絶望を感じたものです。
 さらに、弓削さん演じる連続殺人犯のアマゾンより人間の方がひでえじゃん、というエピソードも印象的でした。こいつ、人間だけど殺すべきでは、という疑問がよぎってしまいます。
 最終回のどうかしちゃってる仁さんも最高でしたね。
 海辺で暮らすアマゾンの皆さんが、帰っていく姿がとてもシュールでもありました。
 この1期のテンション、エンディングで流れる小林太郎さんの「Armour Zone」が毎回テンションを上げてくれるんですよね。ここ数日、「オゥーイエー」と歌いながら過ごしてますよ。
 狩る狩られる、食べる食べられる、という関係や、食物連鎖の上に人間じゃないものが来た時の恐怖を感じましたね。人間側で観るか、アマゾン側で観るかで大分感想が変わりそうなシーズン1でした。


 そして、シーズン2ですよ。
 シーズン1が視覚的に衝撃を与えていくタイプだとしたら、シーズン2は精神的に衝撃を与えていくタイプだと僕は考えています。
 最初は千翼とイユの関係を軸に進んでいくのかな、と思いきや、悠が出てきて、視覚が弱まった仁さんが殺しにくるというね。もう1話進むごとに千翼が、後戻りできない地獄へと進んでいく感じがたまりません。
 映画のポスターは知っていたので、悠と仁さんは何らかの方法で生き残るんだろうけど、他のメンバーは死ぬんじゃないかな、と予想してましたが、マモちゃんとフクさんのお母さんが死ぬとは。あと、野座間かあちゃんの秘書の人も衝撃でしたね。
 アマゾンズって「親子」のドラマでもあると思うんですが、最後の千翼対悠&仁さんの闘いは予想外でしたね。
 生きてちゃいけない存在って、あまりにも悲しすぎる。彼がイユを背負って歩いているシーンが印象的でしてね。
 最近、散歩する時は「やーがてー、星がふる」を歌いながら歩いて、悲しい気分になっています。
 それから、シーズン2を観てからは、ちょっとウォーターサーバーと人の目ん玉は遠慮しとこうかな、と思った次第ですよ。
  人間を食べたくなる衝動が、シーズン2ではいよいよ主人公の千翼にまで来てしまったかという恐ろしさと最終的に人間と戦うアマゾンネオ。「俺は生きたい」という切実な願いを容赦なく終わらせるしかない終わりが切なかったです。
 
 いよいよ、劇場版なんですが、脚本が小林さんから高橋さんに代わってどうなるか心配だったんですが、「アマゾン牧場」というアイディアに「いかれてるぜ!」と安心したもんです。
 最初から、自分たちは家畜と分かって死んでいくという教育も怖すぎて、しばらくステーキは遠慮しておこうと思った僕ですよ。
 まあ、素朴な疑問として、仁さん、どうしてそこに居るの?という疑問はあるんですが、多分、流れ着いたんでしょうね。もう、とことん、仁さんは不幸の発端みたいにされて可哀そうすぎる。ちなみに、アマゾンズを観ていて思うのは、良かれと思ってやったことが最悪の結果に繋がってしまうという恐ろしさがあると思うんですね。いわゆる「不幸エンターテイメント」として楽しむには、あまりにも悲劇性が高い感じなんですよね。
 映画の終わり方としては、それぞれ一線を越えた状態で、物語を終えていきます。
 「これが鷹山さんだぁ」のぶっちぎり感と「俺の子供みたいなもんだから」という悲壮感を同時に味わうことになるんですから、仁さん完結編としては納得の映画ですよ。

 さて、ストーリーも素晴らしいアマゾンズなんですが(今すぐもう1回観たいかというと、話は別だ!)、登場人物も素敵な人が多くてですね。僕は、仁さん、黒崎さん、フクさんのオジサン3強が大好きですよ。
 黒崎さんの「い~ゆ~」とか、シャツと手袋の絶対領域とか、実はスイーツ大好きとか、もう、かゆいところに手が届くキャラですね。
 「死にたくないと思ったことはあるか?」からの「生きたいと思ったことはあるか?」という台詞はこのドラマを考える上でとても考えさせられる台詞です。

 仁さんは、2期で出てきた時のあの笑顔が恐ろしいですね。クラゲアマゾンと出会ってしまった時の「初めて見えなくて良かった」という台詞が凄く悲しい。スペシャルイベントで、感情と逆の演技を心掛けたというのも、あとで見返すとあの時、笑ってたけど本当は、というのが分かっていいですね。

 フクさんは、もう「圧烈弾を出せ」の印象が強いんですが、マモちゃんを引き留めなかったことを後悔しているという最終回の台詞も凄く印象に残っています。多くは語らないけど、無言でうなずくのがカッコいいんですよね。

 全体を通して、平成ライダー初期にあった「異種と分かり合えるのか?」ということや「自分が生きるために誰かを犠牲にするか?」とか、そういうテーマに10年越しぐらいの正解をアマゾンというフォーマットを使って新しい答えを出したんじゃないか、と僕は思っています。
 誰かの命を「食べる」ことが「生きる」ことに直結しているアマゾンの皆さんをみていて思ったんすがね。
 食事に1ミリも興味がなくお酒も飲めないので、「古畑前田のえにし酒」の感想を書く時が実は一番苦労する僕も、ちょっとだけ「食べる」ということについて新しい意味を与えてもらえた作品でした。

※ちなみにこの記事の一つ前の「古畑前田のえにし酒」の感想は完全にアマゾンズの影響を受けています。

 こういう、素敵な作品だから、みんな観ようぜ!
 アマゾン!





 

2020年1月28日火曜日

おすすめの映画と本「仮面ライダー龍騎 エピソードファイナル」

命ある限り闘い、壮絶に散る!


 この2日間、病気になってましてね。
 夜中に寒気で震えながら、頭だけはどんどん熱が出ていって、ひたすら嘔吐を繰り返しながら、「あっ、死ぬんだ」と何回か思ったんですが、ふと、こういう時ぐらいしか「生きている」ことについて考えないなあ、とバンプオブチキンの歌みたいなことを考えていたわけです。
 そして、もう死ぬかもしれないし、最後に何か1本映画でも見てから死ぬか、とヨロヨロしながら再生したのが、何故かこの「仮面ライダー龍騎 エピソードファイナル」だったんですね。





 いやあ、自分でも特撮映画のベスト3に入るぐらい好きなんですが(残りは『ガメラ3』と『W』の『AtoZ』)、観てさらに病状が悪化したことも付け加えておきます。

 この映画は劇場でも観ましたし、アルバイトをしてDVDも買ってひたすら観たもんです。当時、龍騎を観ていた友人に、映画の中で神崎士郎が言う「タイムリミットだ」から、ライダーがガンガン変身してくところまでをひたすらモノマネし続けるという嫌がらせをしたもんです。あと、友人の留守電には必ずゾルダの喋り方で入れるとかね。

 話がなかなか本筋に入りませんが、それだけ思い入れのある映画だったわけです。
 そして、この作品のディレクターズカット版が出た時に、かなり驚きましてね。
 なんじゃ、そりゃ。
 通常版のDVDに未公開映像として入れてくれよ、と思ったもんです。
 通常版でカットして行った霧島美穂という女性がより浮き上がってくる感じなんですよね。


 【ここからはネタバレ全開で行きます。テレビシリーズ含む】

 
 まず、映画の始まりで、残りのライダーの人数と残り時間が、文字で出てくるんですが、これがもうしびれました。
 あとが無い感じが伝わってくるんですよね。
 今、考えると、テレビシリーズで絶望的な強さを誇ったオーディンが、ここまでで死んでいることが衝撃ですね。誰が倒したんだろう。

 この映画の中で好きなシーンが2つありましてね。
 1つ目は教会にライダーが集まり変身、神崎士郎がパイプオルガンを弾くところです。ちなみに、このパイプオルガンは井上敏樹さんの指名だそうですね(オーディオコメンタリーより) 。
 ライダーバトルが始まるワクワク感と、デッキが投げて渡されるカッコ良さ。
 そして、神崎士郎がいったい何故、パイプオルガンを弾くのか、これから死に行く者たちへのレクイエムなのか、ただ、カッコいいからなのか。
 個人的には、ナイト対ゾルダの「ケリをつけるか」、「ああ…」からの変身がカッコいいんですよね。
 ライダーたちが揃って変身はこの場面ぐらいしかないんですよね(リュウガは除く)。

 2つ目は、蓮が真司を友と認めるところですね。
 あの蓮が!という感じで感動したのを覚えています。
 城戸真司という田崎監督風に言うと「凡人」が、他の超人たちの中で思考錯誤しながら、奮闘していき、最後は認められるというのも良いですね。全然関係ないですが、僕の地元では、真司が仮面ライダータイガを呼ぶ時の「オイ、トージョー!」のモノマネが爆発的に流行ったことも書いておきます。
 話を戻すと、めちゃくちゃ燃えるドラゴンライダーキックの後であり、サバイブになって突っ込んでいくシーンの前にある、静かだけど熱いシーンです。
 映画の脚本は井上敏樹さんが書いてるんですが、最後の最後に男の友情というのが良いですね。

 ちなみに映画館で映画を観終わった時は、放心状態でしてね。
 えっ、ここで終わり?となったもんです。
 ただ、満足感もありましてね。
 早くテレビの続きみたいなあ、と思いながら家に帰りました。

 映画公開後の龍騎は一気に核心に進んで行き、終局を迎えるんですが、リアルタイムで観ていた僕は、第49話のラストで真司が死ぬところで、朝からめちゃくちゃ大声を出したもんです。
 そして、迎えた最終回。
 「蓮、お前はなるべく…生きろ…」、「お前こそ、生きろ!」の映画とは違った二人の最後のやりとりも切なくてね。
 最後の仮面ライダーとなった蓮が歩いていき、そこに真司のモノローグが重なっていくんですよね。

 「でも、さっき思った。やっぱりミラーワールドなんか閉じたい。闘いを止めたいって。きっとすげえ辛い思いしたり、させたりすると思うけど、それでも止めたい。それが正しいかどうかじゃなくて、俺もライダーの一人として、叶えたい願いがそれなんだ」

「お前が最後に信じるものを見つけたように、俺にも信じるものはある。ライダーの一人として」

 こちらは、小林靖子さん脚本なんですが、映画版とはまた違った二人の男の良さがあるんですよね。

 「仮面ライダー龍騎」は9・11を受けて、正義について提示する作品があったということは、公式本の中で白倉プロデューサーが語ったいますが、まさに「正義の多様化」、「2元論では語れない社会の複雑さ」を感じた作品でした。
 一人一人の正義があり、一人一人の終わりがある。
 そして、繰り返され続けるゲーム。
 最後はテレビ版の最終回のラストに行きつくんでしょうけど、色々と想像できて良いんですよね。
 未だに「あれは何だったんだろう」とか、「あの後、どうしたんだろう」と思うシーンがある深みのある作品です。
 平成ライダーで並べた時に、クウガで蘇って、アギトで確立して、龍騎で破壊した感じがします。よく、龍騎を評して、「見た目がライダーじゃない」とか「同じライダー同士で戦うとかおかしい」なんて、観てない人がよく言ってましたが、いや、初代の時から戦ってたよ、同じ改造人間同士と。そして、「仮面ライダー」という固定概念を良い意味で破壊したんですよね。白倉プロデューサーの「最終回先行映画化」という仕掛けも「龍騎」だからこそ、効いた作品なんじゃないかなとも思いますしね。
 平成ライダー1期の攻めて攻めて攻めまくる感じが、大好きです。

 最後にオーディオコメンタリーの中で田崎監督が言っていた印象的な言葉があります。それは、劇場版の「アギト」、「龍騎」、「555」(当時撮影前)を並べて観た時に、芯になるものが何なのか考えて欲しいということなんですね。
 僕が考えたのは、「正義の多様性」と「強大な力に抗っていくこと」の二つを感じたんですが、皆さんはどうでしょう?
 また、機会があったら、特撮は好きなんで書いてみたいと思います。
 
 それにしても、今日は天気が悪いね、五郎ちゃんの顔が見えないよ。


2020年1月21日火曜日

おすすめの映画と本「映画秘宝 2020年3月号」

でも、やるんだよ



 あれはまだ、僕が社会人になりたての頃だったと思う。
 当時、仕事の関係で文学作品に関する評論集を沢山読んでいた。
 1冊1冊が分厚く、全ての内容を理解するのに苦労した。
 まだ、「ググる」という行動やインターネットの情報の信頼度が今よりもずっと低かった頃だ。本と本を並べながら読み、まどろっこしい表現をしている評論家たちに怒りを感じていた。
 慣れない業務用の文章を上司に何度もダメだしされながら書いて、文章を書くことに物凄く息苦しさを感じていた。
 「読む」のも「書く」のも「真面目さ」や「正しさ」が求められた。
 もちろん、仕事だから当たり前なのだが、これ、どれぐらいの人に伝わってるんだろう、と疑問に思っていた。
 
 体育会系の会社に馴染めなかった僕は、よく休憩時間以外でも、別の支店への移動時間を無理矢理引き延ばして本屋に行った。
 別に欲しい本があったわけではない。
 ただ、本屋には偶然の出会いがあったし、まだ、あの頃は書店員のポップや棚が今ほどうるさくなかったからだ(『体系的に棚が作れる』店員さんがいる書店って、今どれぐらいあるんだろうか)。
 当時、一番読んでいたのは、文学誌だった。
 今は完全に滅びゆくメディアとなりつつあるが、昔はそれなりに権威があった。
 最新の小説を読んで評論を読んでは、「ああ、そういう構造だったのか」とか「えっ、それを読んでないと分からないの?」というような発見をしていた。それが楽しかった。

 もう季節すら覚えていないが、その日も僕は支店から支店への移動時間を利用して、本屋に入ったのを覚えている。
 いつも通り、文学誌のコーナーをぶらぶらしながら、僕は隣りの映画雑誌のコーナーに目を移した。色々な雑誌を手に取ってはパラパラと見て戻した。そのうちの1冊がサメ映画の記事を書いていた。僕はホラーもスプラッターも苦手で自分から観ようと思わない。でも、その日はサメ映画の記事を読んだ。読みながらある1文に衝撃を受けた。

 「全員悪人なので、誰が死んでも心が痛まない親切設計」

 僕はこみ上げる笑いを必死でこらえていた。
 なんだこの雑誌。
 そのまま続きを読んでいた。
 一つ一つの記事が面白かった。

 表紙を観ると「映画秘宝」と書いてあった。

 しかし、僕はその後、「映画秘宝」の読者になったかというと、そうではない。
 毎日の仕事にかまけて、映画を観ることがほとんどなかったからだ。また、本を読んでいるのが楽しかったからだ。
 やがて、30代になり読書だけでなく、映画鑑賞が趣味になって行った。
 まあ、月に何回か安定して映画館に行けるほどのお給料をもらえるようになったり、動画配信のサブスクリプションサービスの力も大きかったりする。
 そして、「映画秘宝」とも再会する。
 多分、スターウォーズエピソード8の頃だ。
 特集によって、買ったり買わなかったりだったが、相変わらず、言葉の力が(特にキャッチコピーが)強い雑誌だった。
 読みながら、もうすぐこんな面白そうな映画もあるのか、この人はこんな観かたをしたのか、と面白かった。もちろん、シリアスな記事や追悼記事も読みごたえがあった。

 そんな「映画秘宝」が休刊になる。
 昼頃に起きて、昼食を食べてから町の本屋さんへ行く。
 なんで、僕がこんな生活をしているかというと、2020年から僕は、無職になっているからだ。
 正直、金なんか1円も使いたくない。でも、これだけは買おうと思って本屋さんへ行った。
 ここは、毎月、3冊「映画秘宝」を入れている。
 映画雑誌のコーナーに行くと、黒いダウンジャケットを着た眼鏡の青年がまさに「映画秘宝」に手を伸ばしていた。もう、誰か買っていたみたいで、残りは2冊だった。僕は最後の1冊を買うとそのままレジに持って行った。果たして、あのダウンジャケット青年は買っただろうか。

 家に帰って「映画秘宝」を開く。
 文字数の多さにクラクラする。
 でも、これが楽しい。
 今年のベストやトホホ映画を多くの映画に関わる人達が書いている。
 名作映画たちについても独自の「面白い」語り口で伝えてくれている記事もある。
 僕みたいな一素人でも、黒澤明の「生きる」風にいうと、「日本中の映画好きな人たちと仲良くなった気がするの」という気分にさせてくれる。
 「正しさ」よりも「真面目さ」よりも「面白さ」の方が、人は受け入れやすく入りやすい。しかし、「面白く」伝えるのはなかなか難しい。それをしてくれたのが、「映画秘宝」だと僕は思う。多分、明日僕はこの中に書いてある映画のどれかを観に行くか配信で観るかするだろう。
 「映画秘宝」が復活する日を待っている。
 僕も必ずその日までに、社会へ復帰しようと思っている。

 どんな映画の表紙で復活してくるのか、ロゴの横はどんなキャッチコピーなのか、そんなことを妄想しながら、今も「映画秘宝」をめくっている。




 

2020年1月20日月曜日

おすすめの映画と本「スター・ウォーズ関連」

好きであればあるほど


 皆さん、スターウォーズは好きですかね?
 僕は大人になってからスターウォーズを好きになって映画館で観ることが出来たのは、「エピソード8」・「ハン・ソロ」・「エピソード9」なんですね。エピソード8の為に、「4・5・6・1・2・3・7・ローグワン・ピープルVSジョージルーカス」という順番で観ました。
 ん?
 何か聞きなれないタイトルが混ざっている人もいるかもしれません。
 もちろん、カノンじゃないから当たり前なんですが、是非、スターウォーズが好きな人には観て欲しい!
 「ピープルVSジョージルーカス」の予告でチェック!





 僕が世界で1番好きなドキュメンタリー映画です。
 ファンの面倒くささと熱狂度は、世界の色んなもののファンの中ではトップレベルなんじゃないかな、と思うんですよね。
 作中に登場するプリクエル大嫌いおもちゃ屋のおじさんが「ムカつくんだよ、すっこんでろ!」とおもちゃを買いにきたちびっ子に、キレるところはそこまでせんでもという思いと、極限まで何かを好きになった人独特のなんとも言えない滑稽さがあります。
 また、エピソード1の予告を見て、ジャンプしながら「すっげえ!」と言いながらジャンプしているところを見ていると、僕はこんなになるほど、自分の趣味に熱狂したことがあっただろうか、と胸に手をあててしまいましたよ。
 それにしても、こんな映画を公開させてしまう、ジョージ・ルーカスの懐の深さよ。
 エンディング曲が凄く好きなんですが、どこにも販売してないので、ダウンロード販売できるところがあれば、誰か是非教えて欲しいです。

 次は、高橋ヨシキさん著「スター・ウォーズ ダークサイド 禁断の真実」。
 この本は、各エピソードごとに章を分けてそれぞれのスターウォーズ作品について解説していく本なんですが、この本のおかげで「エピソード8」や「ハン・ソロ」に関するぼんやりとしていたモヤモヤがなんとなく具体化してきたといいますかね。なる程、それは気づかなかった。今までのシリーズで基本的にやってたことが、やれてないのか、ということだったりね。
 もし、僕と同じ現象に陥ったかたはその章だけでも是非読んで欲しいです。
 他の「ローグ・ワン」の章や「エピソード2」の章なんかは、新たな発見があって面白かったです。
 それにしても、キャスリン・ケネディーとルーカスの温度差と、変更されていく元号など、そんなことが!という僕にとって衝撃の事実も満載でした。
 あとがきの最後に出てくるヨシキさんのイウォーク愛が伝わる1文も最高でした。

 エピソード9もなんかモヤモヤしてますけど、多分、ブルーレイ買うんだろうなあ、と思っています。





 これからも無限に広がり続けるスター・ウォーズ。どこまでついて行けるか分かりませんが、何度でもフォースと共に立ち上がろうと思っています。

 僕のエピソード9の感想はこちら!
https://oboeteitekure.blogspot.com/2019/12/blog-post_20.html


2020年1月18日土曜日

おすすめの映画と本「リチャード・ジュエル」

ボンクラが英雄に!英雄がボンクラに!


 なにはともあれ、これは観ておこうという監督や俳優っていると思うんですね。僕は、最近になってイーストウッド監督がこの中に加わりました。
 最新作、「リチャード・ジュエル」も今日観てきました。
 まずは、予告編をチェック!




 どこかで見覚えのある顔じゃないですか?
 そう、「アイ、トーニャ」に出てきたあのボンクラですよ!



 何回観てもこの予告とテーマ曲は燃えますね。
 そして、ブラッククランズマンのKKKに居たボンクラ!



 だんだん、ポール・ウォーター・ハウザーさんがボンクラ界のトップエリートみたいに見えてきましたが(超失礼)、彼が主役を演じるということでね。
 どんな感じかな、と思ってたんですけど、ハマり役!
 無罪だから、主人公のリチャードを応援したいんですけど、ちょいちょい弁護士のワトソン目線になって、「いや、コイツ余計なことを言うなよ」と思ったり、「うわあ、爆破予告言わされてんじゃん、悪用されたらどうするんだよ」と心配になったりしましてね。
 なんていうんでしょう。
 「無知な善人」ほど、怖いものは無いなと思いましたよ。
 リチャード自体は、全然悪い人じゃないんですが、そこはかとなく香るボンクラの香り。無駄に多い銃、「僕が注意したら酔った若者は帰っていきました」みたいなちょっとした見栄を張るための嘘。
 ギリギリまで、「コイツ、はめられるんじゃないか」と心配で心配で仕方なかったですよ。
 
 また、この映画で浮き彫りになってくるのが、「結論ありきの捜査や報道」の怖さですよね。まさか、スタジアムから公衆電話までの時間を最初に確認したのがワトソンだったというのがもうね。とりあえず、スキャンダラスだったらいいやという精神とそれを助長させる感じは、現代社会だと更に進んでいる気がしましてね。たとえば、Twitterで気軽にできるリツイートとかも、これが本当に正確な情報なのかどうか、を吟味する必要があるな、としみじみ思いました。

 僕はSKE48が大好きなんですが、匿名掲示板とかまとめサイトとかのコメントに大分辟易してなるべく見ないようにしてるんですね。集合知としては凄い良いシステムとして作用するものが、気付けばファクトも無いアンチの罵詈雑言や印象操作の場と化してる気がしましてね。情報との接し方を考えないと自分もリチャードを非難していた人と同じになるなあ、と思いました。

 「ハドソン川の奇跡」と同じように、観客は真実を知っているけれど、どきどきする展開。「15時17分パリ行き」と同じような勇気が試される瞬間。そして、「運び屋」のような自分が一番大事にするものとは何か?色々なものを思い出させられる作品でした。「行政執行官」とか「国」とか、何か大きいものや肩書きによりかかるのは楽だと思うんですが、本当に頼れるものか、最後は自分や大事な仲間たちじゃないかと考えさせられる名作でした。
 いやあ、僕もボンクラの一人として、きちんと自分を持っていきていきたいな、と感じました。

  

2020年1月11日土曜日

おすすめの映画と本「フォードVSフェラーリ」

マクラーレン、てめえ!


 最初に書いておくと、僕は運転免許も持っていないし、車には全く興味がないんですね。「ワイルドスピード」シリーズは一応全部観てるんですが、徐々に車大喜利みたいになってる感じを楽しんでいます。ちなみに、一番面白かった車映画は「TAXI2」という人間の文章だと思って読んでください。ニンジャー。

 

 【ここからは、ネタバレ全開でいきます】


 めちゃくちゃ熱い映画でしたね。
 物造り映画としても楽しめたというか、良い意味で男らしい映画だと思いましたね。
 特にマッド・デイモンが演じたシェルビーさんの葛藤が凄く良かったですね。
 元々プレイヤーだったのに、そこから心臓への負担の為に引退。カーデザイナーから更に監督へという流れが人生の機微を感じましてね。大組織の真面目な感じからはみ出していくぜ、個性のある人格も認めるぜという感じに僕は凄く共感しました。
 それぞれのブランドのオーナーたちの自分の組織というかブランドへのプライドも凄く良くてですね。そして、それがルマン24時間レースでぶつかるという燃える展開も良かったですね。正直、「タイトルがシンプル過ぎじゃない?」と思ってましたが、映画を観終わった後には「ゴジラ対ビオランテ」ぐらい説得力のあるタイトルだと思いましたよ。

 あと、マイルズの純粋な速さへの思いも良くてですね。
 何回も苦渋を飲まされるんですが、そこでめげずに現状の車の課題を言っていくところとか、泣けましたね。最後の「ぶっ倒そうぜ」もカッコ良かったです。それでも諦めない姿勢は見習いたいです。
 ただ、何回も繰り返される「ブレーキ」についての不安を想起させるシーンのおかげで、「ひょっとしてレース中に死ぬんじゃ?」と思ってましたが、無事レース終了。しかし、その後で…。
 それでもシェルビーは生きて行かなければいけないというのが辛かったですね。

 巨大企業のいやあな部分も垣間見えて、とても過去の話とは思えなかったです。
 個人的にはメカニカル担当の少しやせたオッサンが良い味だしてて好きでしたね。
 
 音響や激しさを感じるという意味ではIMAXや4Dで楽しんで欲しい1作ですね。
 強いていえば、映画館にフォードの車のミニカー売ってたら、絶対に買ってかえってたと思います。
 この調子で「フォード対プレデター」とか「フォード対ジョージ・ルーカス」とか作ってほしいですね(嘘ですよ)。

 古き良き時代の感じもしますが、「遠くに見える自分が夢中になれることが見つけられるか」は今ににも通じるテーマだとおもいます。

おすすめの映画と本「パラサイト 半地下の家族」

今、僕らがいるところは?



 皆さん、韓国映画って観ますかね?
 ここ数年、めちゃくちゃ映画のレベルが上がってる国の一つだな、と思いましてね。
 「アジョシ」、「アシュラ」、「哭声」、「新感染」、「お嬢さん」、「悪女」、「1987、ある闘いの真実」と傑作揃いなんでよね。

 で、2020年公開で一番気になっていたのが、この「パラサイト 半地下の家族」なんですよね。



 

 【ここからはネタバレ全開でいきます】 



  ポン・ジュノ監督、リスペークト!
 いやあ、こんなに早く時間が過ぎていくのは久しぶりでした。
 まず、キム家の人々の味のある感じが凄く好きでしてね。
 中でも「タクシー運転手」でお馴染み、ソン・ガンホさん演じるお父さんの心情の流れが、凄くよくてね。京極夏彦の名作「魍魎の匣」に出てくる「彼岸と此岸」、「魔が差す」という言葉が頭の中で駆け巡りましたよ。
 

 序盤のパク家に、キム家が入り込んでいくところでの台詞回しが良くてですね。「ソウル大学に公的文書偽造科があれば」というお父さんのコメントは笑いましたし、「抽象的だあ」という何かヒントになりそうで、そうでもないセリフ。そして、「便所コオロギKILL、まっぷたつ」というフレーズを思い出す、悲惨な生活。
※公式の冒頭映像をご確認あれ!


 パク家と比較した時に、どんだけ丘の下に住んでんだよ、と言いたくなるぐらい地下に住んでいるのが、後半に分かります。
 この「階段を下りていく、登っていく」という演出については、「アフターシックス・ジャンクション」の中でのインタビューで宇多丸さんが指摘してましたね。


 じわじわと侵食していく感じが、面白いけど怖い。
 パク家、単純じゃんと思った方もいるかも知れませんが、僕もお金持ちの皆さんを相手にする職場で昔働いていたので、ああ、こういう奥さんめちゃくちゃ居た!と共感しました。
 
 そして、中盤のパク家がキャンプに行ってる間に家族がリビングに集まってるシーン。心の中で「馬鹿ぁ!」と叫びましたね。「これ、絶対にバレるやつじゃん、調子乗り過ぎだよ」と思いましてね。一線をここで超えたのかな、と僕は思いました。
 しかし、ここでキム家の正体を知るのは、家政婦のムゥンガンさんとあの地下にいるハゲのおっさんという展開。そして、リビングからの脱出。どんどんサスペンス感が加速していきます。

 そして、後半。
 「無計画」の怖さをガンガン感じるんですよね。
 誰かに流されて生きることの怖さもありますしね。
 そう考えると、あの洪水シーンと、そこで洪水の直接的な被害にあってる人たちって全員…。
 あの洪水の一夜のあとで、臭い問題をどうやってクリアーして行ったんだあの家族、と心配にもなりましたしね。
 ラストの中庭での惨劇も凄かったですね。
 出てきてからの「リスペークト!」は笑いました。
 全部、ぶっ壊して行く。どちらの家庭の足場もこの後半で崩れてしまうんですね。
 ラストのお父さんをいつか地下から救い出す、と「計画」するんですが、ゴールはまだまだまだまだ先なんだろうなあ、と感じさせる終わり方も良かったです。

 韓国のこれでもか、というほどの貧富の差やそこからの成り上がり方については、国方法は違いますが、「バッドジーニアス 危険な天才たち」を思い出しましたね。
 そして、色々と考えさせられる映画でしてね。
 あの石が表すものは何なのか、幸運の象徴なのか、不幸の象徴なのか。
 大学生の友人は、パク家とどんな関係だったのか。
 
 あのどう考えても、日常生活がダメそうな奥さんのパク・ヨンギョさんは、IT社長の旦那を失ったあと、どうなるんだろう、と映画館を出た後の僕は思いました。実はあの奥さんも旦那に「パラサイト」してたんじゃないか。旦那さんの死亡保険とかで、生き抜いていったり、あの美貌だから次の旦那さんをすぐに見つけるかも知れません。
 でも、どこかで、僕は「半地下」の生活に落ちる展開を想像してしまうんですよね。完全に被害者のパク家の人々なんですがね。映画の最初に半地下の家にあった銀メダル。それはだれのものだったか、とかね。

 斎藤工が凄い良いコメントしてくれてます。

 
 去年の「JOKER」といい、「家族を思う時」といい、貧富の差についての映画が増えてますが、世界がこれからどうなるのか、自分は今、どちらにいるのか(僕の場合はぶっちぎりの地下)、をふと考えさせられる映画でした。

 ※わくわくなメイキングもチェック!
 照明の違いとか、新たな発見も!