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2019年2月11日月曜日

今の私じゃダメなんだ①



あかりんから須田亜香里へ


 2015年6月6日。
 僕は福岡のヤフオクドームに居ました。
 3階くらいの席で、隣の席のニキビ顔の青年は、夏なのに白いトレーナーを着ていて、暑くないのかな、と思いながら、開票前ライブの開始を待っていました。

 その頃、僕の推しの中西優香は既にグループにはおらず、なんとなく惰性で須田亜香里と柴田阿弥のモバメを取って、箱推しとしてSKE48を応援していました。その年の総選挙CDはさほど買っておらず、限られた票数の中で僕は、だーすー、阿弥ちゃん、まいまい、珠理奈、るみに均等にいれて、最後の1票の入れ先を迷っていました。当時、モバメを取っていた方でしたら分かると思いますが、阿弥ちゃんのモバメ攻勢の凄さたるや。僕は最後の1票を阿弥ちゃんに入れました。

 そして、始まった開票前ライブ。隣りの席の彼が突然、「松井珠理奈」と背中に書かれた特攻服を着て「Over ture」のミックスを打ち始めるじゃないですか!一番に思ったのは、「いや、この高さじゃ見えないだろ!」だったんですが、応援の仕方は人それぞれ。周りを不愉快にしたりしなければ大丈夫だと考えなおし、僕もサイリウムを振りました。「コケティッシュ渋滞中」ではちゃんとオレンジ色にしましたよ。

 やがて始まった開票インベント。
 前半の初ランクイン組のラッシュが凄くてね。
 まいまいやるみが呼ばれた時は、「よっしゃあ!」と思わず拳を握ってしまいました。

 問題はアンダーガールズです。
 谷がランクインした時の盛り上がりは、「流石は地元!」とほっこりした気分になってたんですよ。

 そして、18位。

 「SKE48 チームE」と徳光さんがアナウンスした時、「えっ、誰だ?」と思ったんですね。続く名前に血の気が引いて行きました。

「須田亜香里」
 
 会場に響くどよめき。
 知らぬうちに「嘘だろ」と言葉に出ていました。
 心の中で「俺のせいだ」と自意識過剰気味に思った時。
 横の席の彼が言いました。

「俺のせいだ」

 えっ、君も?
 ひょっとしたら、あの福岡ドームの中のSKE48ファンの中の何人か、そして、総選挙番組を観ていた全国の家庭で、「俺のせいだ」が響いていたかもしれません。

 そう、前年だーすーは前々年16位、前年10位と「もう、選抜はかたいだろ」と誰もが思っていたのかも知れません。その結果、一人一人の力が逆に作用するという映画「ガメラ2」の最悪版みたいな感じで作用してしまったわけです(だーすーファンのみなさんごめんなさい)。横の席の阿弥ちゃんが、衝撃でこれでもかと目が見開いていたのも忘れられません。えづきそうになってるかおたんも。

 憔悴してマイクへ向かうだーすー。
 他のメンバーのスピーチ中も下を向いたまま。
 スピーチは「私は今日がずっと、楽しみでした」から始まります。もう血の気が引いていく。「私、ずっと、自分の首絞め続けることでしか頑張れなくて。何回ももう限界だって思ったんですけど。ずっと、こうやって追いこんだら、自分はもっと一生懸命になれるだろうと思って、一つ一つのことやってたきたんですけど。たぶん、その中で楽しむってことを忘れてました」と語っています。このスピーチを聞いていると僕まで泣けてきてね。

 ドキュメンタリー映画「アイドルの涙」の豪華版を観ると、スピーチ後はゆりあがずっとバックステージで「大丈夫」と繰り返し声をかけてくれてね。もう同期の優しさにまた目頭が熱くなります。「もう無理」と繰り返すだーすーの悲痛な姿。「ゆっくり戻ろうぜ」というゆりあの優しさがまた泣けてきてね。その後は、松井玲奈やぴよすも来てくれてね。もうこの時の衝撃が強すぎて、サッカー日本代表風に言うと「福岡の地獄」と名付けたくなるぐらい衝撃的な出来事でした。議席数がトップになった嬉しさとだーすーを選抜に入れなかった辛さ。

 その晩、毎日のように着ていただーすーからのモバメは来ませんでした。

 ここまでの流れを須田亜香里は「コンプレックス力」の中で「あかりんのイメージを演じようとした」と書いています。アイドルを演じるという「技術」では上にいけず、「気持ち」が入っていないといけないとも。実はこの年の初頭から卒業を考えていて、偏頭痛にもなっていたことを本の中で書いてます。アイドル「あかりん」としては、限界を迎えていたんですね。

 この日からだーすーは、辞めることを意識しつつも、自分を再構築していきます。
 この辞めようと思っていた頃にかけられたゆっこの言葉も良くてね。是非、購入して確かめて欲しいところです。人間須田亜香里として、握手会の対応だったり、メディアでの発言も変えていっただーすー、素の魅力がこの頃からあふれ出ていきます。

 そして、2016年の総選挙。
 見事、7位にランクイン!
 僕も罪悪感があって、この年はだーすーに全力で行きましたよ。
 総選挙だけが指標ではないとは思うものの、総選挙で人生が変わる人がいるのも確かなわけで。だーすーは、去年の借りを返すことができたわけです。人間須田亜香里がアイドルのあかりんに勝った瞬間です。

 その後も彼女の快進撃は続き、2018年の総選挙では2位まで上がります。
 SKE48を辞めるという選択をせず、「自分」を変えることで、勝利を掴んだだーすー。

 そんな彼女のソロ曲が2017年に発売されたSKE48のアルバム「革命の丘」に収録された「今の私じゃダメなんだ」です。
 秋元先生はやっぱりあてがきだと良い曲書くなあ、と思いますね。
 この曲を聴いていると、どうしてもこの2015年「福岡の地獄」のことを思い出しましてね。歌詞もこの出来事と翌年までとリンクしていて。今のままではダメだと分かっているけれど、どうしたらいいのか、迷いながらも答えが出始めているこの歌は、自分を変えたいと迷っている人すべてに響くのではないでしょうか。
 
 未だにだーすーのモバメは推しのものと並行して取っていますが、時々見せる弱さが人間須田亜香里らしくて本当にいいな、と思っています。

 あの特攻服の彼、今はどこで何してんのかなあ。

 だーすーとかおたんの名曲「ここで一発」の記事はこちら。https://oboeteitekure.blogspot.com/2019/02/blog-post_62.html