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2019年3月14日木曜日

焦燥がこの僕をダメにする①



前にも後ろにも進めない夜


 まず「焦燥」って何だよって、思ったアナタのために簡単に意味を解説すると、「いらいらすること、あせること」です。
 皆さん、焦ったり、イライラすることって、どんなことですかね。自分に関すること、仕事に関すること、対人関係と様々ですが、今回考えていきたい、「焦燥がこの僕をダメにする」は、2015年に発表された秋元康の作詞の中で一番文学性の高い内容ではないか、と個人的に思ってましてね。
 まあ、まずは聴いていきましょう。


 まず、歌詞の世界を見ていきましょう。
 曲の主人公は、もの凄く相手のことを好きになってしまいます。
 1番の歌詞中に「欠けた月」が出てきます。どこか物足りない。そして、「ヘミングウェイ」の小説が出てきます。これも「読みかけ」で物語が終わっていません。つまり、満たされていないということが、2つのアイテムから暗示されています。

 サビ前では、叫ぶことも出来ずに、「ため息を捨てて笑った」と出てくるのですが、こちらも自分の望むことが出来ていないことが分かります。

 本来、良いもののはずである「愛しさ」が自分を苦しめるというサビが本当に素晴らしくて、人間の難しさを表しているな、と思います。「悲しみ」ならば忘れるとか、「涙」にすることで忘れたり、その涙が涸れたりして解決できるのに、愛しさは、そうではない。やがて、それが焦燥に変わるという。

 2番の歌詞では、「気の抜けた炭酸水」というまた満たされないことが暗示されるアイテムが出てきます。しかし、炭酸水に手を伸ばしても物足りなさは解消されません。
 答えが出ない疑問を抱えたまま、それでも「一方的な眼差しを送り落ち込む」というのも片思いのようで辛いですね。付き合っていても片方の愛が重すぎるとこういう現象が起こりますが。

 2番のサビでは、また「悲しみ」との対比が出てきます。
 「愛しさ」を知ってしまったがために、「つらさ」を感じることになる。しかも、それを捨てることもできず、「大事にする」。眠れないまま、真夜中に相手の面影を見ているという辛さ。

 最後は1番のサビで終わります。
 最後まで主人公は楽になれずに苦しんだままです。
 何故なら、相手への「愛しさ」を捨てることは難しいですし、その「愛しさ」のせいで「焦燥」を感じ続けなければいけないのですから。

 この歌詞の主人公は、非常に繊細な人物で、想像力が豊かなせいで、「秘密」を打ち明けることもできないまま、真夜中に苦しんでいるのではないでしょうか。色々と想像してしまうけれど、動くこともできない。真夜中という外的な要因と焦燥という内的な要因。動けないまま時間が過ぎていく辛さ。
 深読みしすぎかもしれませんが、ヘミングウェイが最期、キューバでどんな死に方をしたかを考えると、彼は早く答えを見つけないと大変なことになるのでは、とも考えました。


 曲はアイドルの曲としては、非常に落ち着いたテンポで進んでいきます。コールを挟むところは無く、サビでも盛り上がるという曲ではありません。大サビでは、ギターの音のみになり、主人公の心情が吐露されていく演出は、「10クローネとパン」を彷彿とさせます。

 MVは黒のレザーファッションに身を包んだメンバーが楽器をしているというものなんですが、なんで、ちゅりはギター壊してんの?と素朴な疑問が。シリアスな曲調に合わせたメンバーの表情も素敵です。

 なんとなく、ギターできるメンバーに弾き語りで唄って欲しい曲でもあります。
 SSA春コンで、これがかかった時、僕は嬉しくて嬉しくて、奇妙なノリ方をしていたのはここだけの話です。

 ちなみにこの曲、さきぽんのお気に入りでもあります。
https://ameblo.jp/ske48official/entry-12227479283.html

 前向きな歌詞が多い、SKE48の中で人間の業を感じさせるこの歌詞の世界は、とても魅力的で、「焦燥」を人間に対して感じた人ならば非常に共感できる内容ではないかと思います。どうしょうもない真夜中、一人で聴いてほしい1曲です。

 こちらも文学性の高い「10クローネとパン」の記事はこちら!
https://oboeteitekure.blogspot.com/2018/11/blog-post_30.html



 どちらかというと、ヘミングウェイより後の世代の方がアメリカ文学は読んでますが、なんとなく連想した短編集も!