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2019年3月7日木曜日

僕たちは戦わない①



美しくも悲しい暴力


 誤解されることを承知でいいますが、暴力は時として美しく映る時があります。
 たとえば、僕の好きな映画「アジョシ」の主人公、質屋のテシクさんがテキパキと悪人を殺していくところには美しさを感じます。もしくは、子供の頃に観た湾岸戦争の映像。遠くでキラキラと輝く爆弾の光を物心つく前の僕は、花火だと思って喜んでいたそうです。その光の中で何人もの人が死んでいるというのに。
 このように美しさと悲しさが同居したものが世の中にはあると思うんですね。
 フロイトの「この世は残酷だが静謐な美しさに満ちている」という言葉も連想します。

 今回紹介する「僕たちは戦わない」はそんなことを考えさせられるMVです。
 まあ、まずは観てみましょう。ちょっと長いですよ。



 MVのあらすじを雑に説明していくと、神戸コレクションみたいな発表会をやってるところに、急に武装した何者かが攻めてきましてね。まあ、一方的に殺されまくりまして、時は経ち生き残ったぱるる達は貧しい暮らしを送るエブリデイだったわけです。
 そこに迫るヘリの音が。
 ぱるるは決意して、戦いに向かう、そして、アクション好きにはご褒美のような映像が曲に乗せてながれていくんですが、なかなか複雑なMVでしてね。
 

 要所要所で、どっちが現実でどっちが概念なのか、と考えさせられるMVなんですね。
 「るろうに剣心」を撮影した大友啓史監督が今回、監督を務められているんですが、監督のインタビューを読むと、あの桃色の中国雑技団みたいなところが日常世界で、戦っているシーンは彼女たちが生きている世界の外側で行われている紛争をイメージしてるみたいなんですね。

 「僕たちは戦わない」というメッセージ性のある歌の中で、あえて戦うシーンをぶつけるというのは、暴力を描くことで暴力の残酷さを感じさせ、その選択肢を取らない、というメッセージを感じます。
 
 でもね、この戦闘シーンが本当に好きでね。
 まず、ゆりあの格闘術がこれでもか、と発揮されてましてね。


 キックは「マジすか3」の時もカッコ良かったですが、今回も炸裂! 旋回式で蹴りながら腕ひしぎを極めるところとか、おおっ、と思いますよ。




 このアクションは映画「亜人」の川栄でさらに進化してましたが。

 珠理奈も「ハイロー2」のコブラがコンテナをステップして、攻撃するというアクションぽい動きをしてましてたね。やっぱり運動神経良いなあ。


 徐々徐々にメンバー達が、ボコボコにされていくところも容赦なく描かれていきましてね。もう、目を覆いたくなるような暴力が目の前に広がります。やがて、一人また一人と倒れていくメンバー達。


 一瞬、曲が止まります。
 メンバー達は息も絶え絶えながらも立ち上がり、敵に向かっていきます。
 もう、彼女たちがいる世界の方は、「戦わない」という選択肢がとれない状況なんですね。途中から舞う白い羽は鳥みたいなぱるるの羽を連想させられます。

 ここからのぱるるの怒りを表す方法が手に持ってた「ドリルせんのかーい」でお馴染みドリル棒じゃなかった、警棒みたいな武器を後ろに投げ捨てて、素手で戦うんですね。もうこの怒りがカッコ良くて。ここを観るためにカラオケで曲を入れるぐらいです。




 最後は泣きながら、殴り続けるしかないという悲しい終わり方をします。

 「振り上げたその拳 誰も下ろす日が来るよ」という歌詞も少し連想しました。降り注ぐ白い羽が良心を思い出させたのかもしれません。
 いつか「許し合える日」が訪れる予感をさせる終わり方です。
 途中、何度も差し込まれるボロボロになったドレスのメンバーは、微かに残った優しさや暖かかった感情かもしれません(一瞬、もう死んだ状態で戦ってるのは別人か、とも考えたんですがね。多分、これは深読み)。


 暴力を日本のエンターテインメントの最前線のアクションを使って魅せるこのMVは何度も見ても、気分が上がったり下がったりする作品です。少なくとも「暴力最高!」とは!思えないですよね。でも、心が惹かれるという人間の矛盾した一面を感じさせる作品だと思います。


 ちなみに「映画進化させる職人たち 日本アクション新時代」は、アクション映画好きには超おススメ。たとえば今回のMVのアクションを担当されている谷垣さんの章を読むと「るろうに剣心」シリーズのアクションの速さの秘密とかも分かってきてなかなか面白かったですよ。その技術がこのMVにもいかされてます。

 


   


 それにしても、ゆりあはもっとアクション映画で観たいなあと久しぶりにこの作品を観て思いましたよ。