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2020年2月22日土曜日

おすすめのアニメ「AKB0048」

彼女たちが名もない頃


 2011年11月25日。
 AKB48がアニメ化されることが発表されました。
 正式タイトルは「AKB0048」。
 メンバー内でオーディションを行うことになりました。
 2011年12月8日、1次オーディション。
 2011年12月13日、最終メンバーが決定します。
 メンバーは下記の通りです(発表順 チームは発表当時のもの)。
最終メンバー
 佐藤亜美菜 (AKB48 チームB)
 岩田華怜  (AKB48 研究生)
 矢神久美  (SKE48 チームS)
 仲谷明香  (AKB48 チームA)
 秦佐和子  (SKE48 チームK2)
 佐藤すみれ (AKB48 チームB)
 石田晴香  (AKB48 チームB)
 三田麻央  (NMB48 2期研究生)
 渡辺麻友  (AKB48 チームB)

 現在、声優として活躍しているメンバーの名前もちらほらありますね。
 僕はこのアニメがきっかけで三田麻央という人を知りました。
 ユニット名は後日、「NO NAME」という名前に決まります。
 この名前の意味をまだ、発表時は分かりませんでした。

 さて、2012年3月13日。
 「AKB0048」のサンプル映像がグーグルプラスに投稿されます(現在はサービス終了)。
 この映像に思わぬメンバーが反応します。

「松井玲奈 23:09
  歌とロボット・・・

  これはっ!!

  テンションあがるぅぅぅぅぅ×! 」


「松井玲奈 23:20
 でもキャラクターのステップの動きがもっと自然にならないとアイマスは越えられない!サンプルだからしょうがないのか・・・?
 でも・・・

 気になってしまう!
 悲しい性だ!」


「松井玲奈
 いや、しょうがなくない!だってメカはあんなにぬるぬる動くんだから!(CGだからなんだけどさ)

 でもね、ステップもそれぞれ癖があるわけで、全員同じなんてないんですよ!そういうとこにもこだわって欲しいなって!キャラに愛を持って欲しいなって!

 あ、細かいですか?」
 
 この後も続くんですが、割愛します。
 現在、女優として大活躍中の松井玲奈さんですが、SKE48の二次元同好会の会員で、すさまじいアニメへの愛があるからこその言葉だと思います。特にダンスに関する動きについては、現役アイドルならではないかと思います。

 アニメの映像に先駆けてストーリー設定も紹介されていきます。
 芸能を禁止された近未来の宇宙で、AKB0048たちが、芸能を禁止するDES軍と戦いながら、コンサートで愛を届けるというストーリーです。「前田敦子」、「高橋みなみ」という有名メンバーは、襲名生になっています。「6代目高橋みなみ」といった風に研究生が襲名していくわけです。オーディションで選ばれたメンバーたちは、襲名前の研究生を演じていきます。
 では、襲名後のメンバーたちは誰が演じているか?
 下記の通りです。(番組表記のそのまま)

あっちゃん(13代目 前田敦子) 沢城みゆき
ゆうこ(9代目 大島優子) 神田朱未
ゆきりん(6代目 柏木由紀) 堀江由衣
まゆゆ(3型目 渡辺麻友) 田村ゆかり
こじはる(8代目 小嶋陽菜) 能登麻美子
たかみな(5代目 高橋みなみ) 白石涼子
ともちん(11代目 板野友美) 植田佳奈
さえ(10代目 宮澤佐江) 中原麻衣
さやか(10代目 秋元才加) 川澄綾子


 あまりアニメを見たことがない僕でも聞いたことがある名前の人が多いです。
 オーディションを乗り越えて、研究生を演じるメンバーたちと、すでに活躍している正規メンバー役の声優のみなさん。キャストの配置と物語もこの時点からリンクしています。
 
 声優初挑戦というメンバーがほとんどの中、声優経験のあった佐藤亜美菜は、最終オーディション後、「本当に2回ほど、ちょこっとですけど、声優さんのお仕事をさせてもらった時に、あまりにできなくて。もう何度も恥ずかしい思いをしてきているので、この0048で実力を上げていければと思っています」と意気込みを語っていました。
 彼女は友歌という、男友達に密かな恋心を持ちながらも、アイドルであるがゆえに恋愛はできないというキャラクターを担当することになります。彼女だけに限らず、それぞれのメンバーが自分の役と向き合いながら、成長していくことになります。

 このアニメに対して、みんながみんな歓迎しているわけではありませんでした。
 2012年6月30日。
 TOKYO-MXの職員がTwitterで「AKBアニメやるのは、会社の恥だと思ってたんですが、大人の事情が、、、」というツイートをし、21時03分にTOKYO-MXが「視聴者及び関係者の皆様へ」という謝罪声明を出しています(現在は削除されています)。
 これは、たまたま表に出ただけで、声に出さずとも不快感を感じた人は多かったかもしれません。
 「AKB」というだけで批判されていた当時は、アニメの世界観とどこかリンクしているような気もします。
 
 さて、まずはシーズン1では、主人公が故郷を飛び出して、AKB0048の研究生として、成長していく過程が描かれていきます。そこには、SFというフォーマットを使いつつも、現実のアイドルの葛藤とリンクすることが描かれています。
 初めて観たアイドルのコンサートの華々しさ。先輩たちとの意識の違い。なぜ、自分は昇格できないのか。アンチとどう向き合っていけばいいのか。何故、後輩たちに曲がもらえるのか。周りから求められる自分と本来の自分との違い。
 様々な葛藤が、描かれながら、「センターノヴァ」という一番輝く状態になったら消えてしまうという現象についてのヒントが出てきたところでシーズン1は終わります。
 シーズン1の良さとしては、曲と物語のリンクでしょうか。
 1話で、主人公がラストシーンで家を飛び出してオーディションを受けるために自転車で走るシーンで流れる「希望について」。
 「その手伸ばしても今は届かないよ」という歌詞から始まるんですが、1話の最後で仲間たちが手を伸ばすことによって手が届いて、主人公はなんとか、オーディションに向かう宇宙船に乗ることが出来るんですね。





 他にも「beginner」や「約束よ」と物語のリンクも素晴らしいんですが、1番この演出が輝いたのが12話です。
 先ほど挙げた佐藤亜美菜演じる友歌が、恋心を寄せる護と故郷の星で再会。
 AKB0048を守る「WOTA」(私設の軍隊のようなイメージです)として友子のことを守るとコンサート前に誓う護。それに複雑な気持ちで答える友子。
 ちょっとややこしいんですが、護は友歌の前では他のメンバー推しを公言しています。しかし、実はその推しメンの写真の下に、友歌の写真を隠して持ち歩いていたんですね。
 やがて、コンサートで「大声ダイアモンド」が流れます。 




 敵からAKB0048を守るために援護射撃をする護。
 護が心の中で「俺、お前のこと、きっと、ずっと、この想いは…」と思っているところで、唄っている友歌が目の前に来ます。この時、二人の声がリンクして「ずっと胸にしまって」という心の声を重ね合わせます。
 サビの「大好きだ」というメロディーが流れる中。
 やがて、DES軍の攻勢が激しくなったため、ライブを中断し、護と再び離れ離れになることになった友歌は「感情吐き出して、今すぐ素直になれ」と涙ながらに唄いながら消えていきます。
 この切ないストーリーが、僕はシーズン1では印象に残っています。
 「大声ダイアモンド」という超前向きな曲をこんなに切なく料理できるのか、と感動しました。また、この回は「シアターの女神」のオーケストラバージョンが使われていますが、護の心の声のようで切なくなります。
 この曲のようにこの番組では、「ヘビーローテーション」などのオーケストラバージョンが聴けるところも良かったです。
 
 この1期の収録中に我々の知らないところで苦労していたメンバーがいます。
 それが秦佐和子です。
 彼女の卒業報告した時のアメブロを読んでみましょう。
 https://ameblo.jp/ske48official/entry-11485671860.html

 歯科矯正をしながらの0048の収録。舌やうち頬がえぐれ、血を流しながらの握手会。鈴子という役への思い。
 皮肉にも卒業する時に歯科矯正が終わるという切ない物語。
 改めてこの記事の為に全話観ましたが、そこまで違和感を感じていませんでしたが、最後まで隠していたところが彼女らしいと思います。

 そして、シーズン2(NEXT STAGE)が開始されます。
 総選挙、襲名、卒業への思い、48グループのさらに中核に迫る事象に触れていきます。
 僕は、18話の「禁じられた星」というエピソードが印象に残っています。
 前話までの軸であった総選挙でランクインすることが出来なかった、三田麻央演じる横溝真琴が、自分の存在価値について悩むところから話はスタートします。
 彼女はさらに少し前の話で、バラエティ番組でバンジージャンプが飛べずに終わってしまっています。何をやってもダメな状態が続く真琴は、仲間たちと一緒にDES軍の軍事基地に労働しながら、相手の実態を探る任務をこの回ではすることになります。
 彼女たちの労働部門の担当者である東野は、DES軍の中年の男性であまり仕事ができる感じではないですが、油断はできません。真琴のちょっとしたしくじりで、仲間が窮地に陥ります。窮地に陥った彼女たちを助けてくれたのは、なんと、東野でした。彼は、DES軍でありながら、真琴の隠れヲタで、総選挙でも4票投票してくれた人でした。
 敵でありながら自分の価値を認めてくれた人の助けを借りて、彼女は仲間の危機を救うために、数回前に飛べなかったバンジージャンプの形式で施設の地下までジャンプし、敵の装置を破壊します。
 主人公たちのエピソードや「センターノヴァ」とはあまり関係のないエピソードですが、とても心に残っています。票数という数字だけじゃなくて、声が届かなくても応援している人たちが居るということを、今、くすぶっているメンバーにも見て欲しいエピソードです。

 話は進み、物語はいよいよ終幕へ。
 自分たちのホームである秋葉星(アキバスター)を敵の組織に占拠され、敵のプロパガンダで星の皆さんは、AKB0048を憎んでいる状態であることが最終回1話前に判明します。せっかくAKB0048が星を取り戻しに来たにも関わらず、「帰れ」コールが鳴り響き、火炎瓶が飛び交うというアイドルのアニメとは思えない形で、最終1話前は終わります。
 「Zガンダム」や「仮面ライダー龍騎」の最終回1話前を観た時のような、「えっ、これどうすんの」という終末感を僕は感じました。若い方の為にたとえると、「アベンジャーズ・インフィニティーウォー」のラストをイメージしていただければと思います。

 最終話。 
 主人公の顔は観客から投げられた物で、アイドルとは言えないぐらい膨れていきます。
 それでも、諦めずに「風は吹いている」を唄いながら、徐々に観客の心に訴えかけていきます。
 シーズン1で、離れ離れになった友歌と護も再会します。
 敵の撃った弾に被弾した友歌は上空から落下してしまいますが、友子を護がクッション代わりになります。
 「護?」
 「良かった、無事か…」
 「守ってくれたの?」
 「当然だろ、俺はいつだって友歌を守るさ」
 「護!」
 抱きつこうとした友歌の手は止まります。
 彼女はAKB0048、抱きつくことは出来ません。
 瞼に涙をためながら、友歌は歌います。
 「この涙を君に捧ぐ」




  そして、護のモノローグが彼女の歌声に乗せて続きます。
 「もっと君が輝くなら 僕はずっと君を見守っていく」

 この辺りで、ひょっとして「この涙を君に捧ぐ」というのはファン目線の曲なのではないか、ということが見えてきます。
 「NO NAME」というのは、「名もなき者たち」。
 「この宇宙に散らばる名もなきいくつもの思いたち」という大島優子の台詞と共にサイリウムを振るファンやこれまでメンバーを応援してきた人や縁のある人達が映し出されていきます。
 そうか、ひょっとしたら、僕も「NO NAME」の一人だったのか、と気づかされます。
 さらに言うなら「主なきその声」というシーズン2の主題歌や歌詞の内容も、「NO NAME」とつながります。
 また、この最終回ではシーズン1が終わった後に開催されたライブでの観客の声が「希望について」で流れます。まさに「主なきその声」たちが彼女たちを後押しして、勝利に導くわけです。
 で、色々あって主人公は前田敦子を襲名、渡辺麻友演じる「智絵里」がセンターノヴァになります。
 一気に見ていくと、シーズン1ではまだ、たどたどしかった岩田華怜の演技が上手になっているのに気づきます。彼女は、「収録の帰りは地下鉄の中でいつも泣いていた」と自分の実力と与えられたポジションとの差にもがいていたかも知れませんが、最後に見事、演じきったと思います。

 この「NO NAME」というユニットはこのアニメが終了後、フルメンバーで再結成されることはありませんでした。
 矢神久美の芸能界引退や、秦佐和子の卒業(後に声優としてデビュー)があったからです。また、AKB48の仲谷明香も卒業していました。
 この作品を通してみると、矢神久美という人の才能は、声優というジャンルでもしっかりと発揮されたな、と思います。
 秋元康をして「矢神は天才だからな」と言わしめた才能の持ち主ですが、河森監督からも「これからどうしていくか、色々あると思いますが、僕らとしては、声優の仕事いつでも待ってますから」という言葉をいただいています。
 彼女は今、主婦をしていますが、いつかまた「NO NAME」の再結成をしてほしいなと思っています。僕の個人的な予想ですが、2020年9月にある松井珠理奈の卒業コンサートにくーみんは出てくれるんじゃないか、と思っています。
 声優業界で「名もない」ところから、一人一人が努力し、自分の夢や目標に向かって旅立っていったからこその、良い意味での幻のユニットになったと思います。
 収録最終日に号泣するまゆゆの姿は、「NO NAME」というユニットが彼女にとって大事なユニットだったことが伺えます。既にくーみんの卒業が決まっていたので、もうこのユニットが戻ってこないことへの寂しさもあったかもしれません。
 
 アニメが終了しても、曲の力は強く、2015年のAKB48グループの楽曲人気投票であるリクエストアワーでは、見事20位にランクインします。当時残っていたのは、渡辺麻友、岩田華怜、佐藤すみれ、石田晴香、三田麻央の5人だけでしたが、2年ぶりにランクインした時は僕も嬉しかったです。
 2016年のSKE48のソロコンサートのアンコールでは、「NO NAME」のオリジナルメンバー佐藤すみれ(2014年に移籍)が踊る「希望について」が観ることができましたし、2019年の三田麻央卒業時には、NHKBSで放映されていた「AKB48SHOW」で過去の「NO NAME」曲が一挙放送されました。
 僕が一番、印象に残っているのは、NGT48の山口真帆さんの卒業公演のアンコールがこの曲だったんですね。どんな心境でこの曲を彼女が選んだのかは、想像するしかありませんが、中継でイントロがかかった瞬間に、色々な思いが駆け巡ったのを覚えています。

 この作品が作られた時代に目を向けると、2011年3月11日に東日本大震災が起こり、東北は大変なことになります。AKB48はいち早く、出張コンサートに行きます。人数の多さを活かして、被災地各所で次々とコンサートをしていきます(この辺りは岩波ジュニア文庫から出ている、NHKの石原真プロデューサーの著作を読んでください)。
 当時は、「不謹慎」という名の雲が日本中を覆おうとしていました。ドキュメンタリー映画の2作目を確認すると、自衛隊が取り囲む中、歌って踊るメンバーたちの姿があります。もちろん、歓迎されているかどうかは分かりません。ただ、AKB0048の第1話と同じように、子供たちが「会いたかった」に合わせて踊っている姿が残されています。その数か月後にこの作品が発表されます。
 総監督の河森正治総監督は、「マクロスフロンティア」という作品も担当していましたが、それとは違ったアプローチで歌とアイドルを描くことに成功したと思います。





 アニメという虚構を通して、AKB48という現実を違った角度で僕らに見せてくれた「AKB0048」。
 僕がここまでで書いたように、「曲」に様々な「物語」を付加していった、本当に素晴らしいアニメだと思います。
 アイドルを応援している人たちには、是非見て欲しい作品の一つです。