走り続けた二人の物語
前の職場でSKE48をほんとんど知らないジャニーズの追っかけのおばちゃんと話す機会がありましてね。「SKE48が好きなんです」というと、「ああ、W松井さんね。あの子たちは可愛いわね。姉妹?」と言ってもらったことがありました。また、別の武田真治さんのおっかけをしてるおばあちゃんは、「AKB48なんて!」とまるでいじめや戦争のように48グループを見る目は厳しかったですが、「でも、松井玲奈ちゃんは好きよ。あの子は上品」とほめてくれました。
そして、12歳年下のK-POP大好きな後輩も「SKE48好きなんだよね」と話すと、「あたし、SKEなら松井玲奈ちゃんが好きですよ」と言ってもらったことがあります。
僕の狭い人間関係の中ですら松井珠理奈、松井玲奈のコンビは有名で、SKE48の入り口になっていました。
AKB48の選抜でもしっかり入り続けた二人。玲奈があえて珠理奈を甘やかせないように接する姿勢は、本当に珠理奈のことを考えているんだなあ、と思うんですね。なんでも「いいんだよ」みたいな感じで甘やかしてしまうと、まだ幼かった珠理奈は勘違いをしてしまう恐れもあったんでしょう。
珠理奈がダンスなどでグイグイ攻めていくのに対して、玲奈はブログやメールなど言葉の人だなあ、というのが僕のW松井像でした。しかも内面は表面とは逆で玲奈の方が絶対に強気な気がするのもいいですね。
そして、いつしか二人はライバルのようにも見られていました。
きっとこの二人にしか走れないスピードで走ってきたのではないでしょうか。
そんな松井玲奈の卒業というとりあえず理不尽な暴力に走りそうになるニュースを聞いた時、一つの時代が終わりに近づいていると感じました。
僕みたいなプロテ星人もペロリンガ星人もスカウトを躊躇うレベルの奴でも不安を感じたんですから、珠理奈の心情はどれほどだったんでしょう(知らない人はウルトラセブンを観よう)。
松井玲奈センターのSKE48シングル「前のめり」。
ここまで物語性を背負ったMVはないんじゃないでしょうか。
https://youtu.be/m9e1oHhZhRY
時報とともに「オールナイトニッポン」の松井玲奈卒業発表会が流れるんですね。
「とても緊張しているので、うまく皆さんにお伝えできるか、分からないんですけれども。私はですね。8月いっぱいでSKE48を卒業することになりました」
この曲は、とにかく沖縄の美しい海と空がいい。
まず、MVをざっと説明すると、沖縄の海で松井玲奈の卒業を祝うパーティの準備をするメンバーから始まります。調べたら、リゾート用の島みたいですね。もうこの舞台設定が素晴らしい。いろんな海PVの中で一番好きです。
で、玲奈も遅れてやってきて、ここで少しだけW松井が走っている描写が出るんですね。これがあとあと利いてきます。玲奈が少し珠理奈の前を走っていて。
2番では、玲奈が島へ向かうところから始まります。到着していよいよ、島へ向かう桟橋を歩いていくシーンの前に玲奈が海を走っているシーンがあるんですが、ここでは、一人で走っているんですね。何か、卒業や旅立ちを暗示させるようなシーンです。
そして、浜辺を歩くシーンの前と後に、今度は珠理奈のソロで走るカットが入ります。あれ、二人は走っている距離に少し差が出来たのかな、と感じさせられます。特に珠理奈の足が止まった後の「弾む息も」のところで珠理奈のリップカットが入るんですが、そこで珠理奈の顔は泣いています。どうやら、玲奈は走ってどうこうできないくらい離れてしまった、つまり、いなくなってしまったのかもしれません。この演出がうまい。
で、優しいどっきりの後に、一人一人のメンバーが玲奈にお別れを言っていくんですが、みんなに慕われてたんだなあ、と感じるカットが沢山でてくるわけです。ちなみにここいらあたりで、MVはオレンジがかった映像になります。夕暮れが来ているというのを感じさせるわけです。一瞬だけ珠理奈が頷いているリップカットが、入るんですが、玲奈の卒業をなんとか祝いたいという気持ちが伝わってきます。
そして、海でみんなで遊ぶんですが、なんというか、ここが夏の儚い最後の思い出を感じさせてすごくいいんですね。メンバーの楽しそうな顔。
その後のぽつんといる珠理奈の背中と広大な海。その先には、海しかなくて、もう玲奈はいないんですね。
もうここでわたくし、号泣ですよ。玲奈のことを一瞬、思い出して振り返った時の顔は、勝手ですが「ああ、珠理奈は一人になってしまったんだなあ」というさみしい気持ちになりました。
もちろんこの時、同期の大矢真那や先輩の宮澤佐江、支えてくれる後輩達はいたんですが、なんていうんでしょう。同じレベル、いや自分以上の速さで走れるライバルであり仲間がSKE48からいなくなった感じでしょうか。
もうこの背中のシーンで僕の中ではナンバー1MVになりました。
凄くここまで丁寧に走るシーンを置いてきたからこそのこの背中ですよ。
やがて、島からメンバーは去っていくんですが、夏の終わりを感じさせる寂しさなんですね。最後は玲奈と珠理奈の船の中のカットの後、ダンスシーンの玲奈のアップで終わります。
このMVは何回みても、あの背中のシーンで泣いてしまうぐらい、思い入れのあるMVです。ダンスシーンが明るく楽し気であればあるほど、その陰にある寂しさを感じさせる名作だと思います。
次のシングル「Stand by you」のMVはある意味、このMVのアンサーとなるようなシーンがあるんで、とても気になる1作に今なっています。
これまで走ってきた二人の物語に思いを馳せながら、ぜひ「前のめり」のMVをチェックしてください。