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2020年3月11日水曜日

掌が語ること②

あれから僕たちは

 今年も3・11がやってきました。
 この日が来る度に、僕は「掌が語ること」について書くことにしています。



 未曽有の大震災により、東北の街は瓦礫の山になります。
 日本は節電や物資の不足、そして、放射能という目に見えない恐怖が襲われました。
 当初こそ、インターネット上で人々は助け合うことが出来るかに見えました。しかし、徐々に「不謹慎だ」という声が至るところで聴こえ、何か浮かれたことをしようものなら、叩かれるということが増えていきました。
 「善い人間の在り方について論ずるのはもういい加減に切上げて善い人間になったらどうだ」というマルクス・アウレーリウスの「自省録」の言葉を当時はよく思い出していました。

 この状況でアイドルに出来ることは何かあるのか?
 NHKの石原真プロデューサーのところに秋元康から連絡があったのは、2011年の5月2日頃のことでした。AKBグループを被災地に行かせるプロジェクトが始まります。詳しくは、彼の著書である「AKB48、被災地へ行く」を読んでいただければと思います。


 

 当初は、売名と叩かれたかもしれません。
 しかし、被災地訪問をすることで、精神的に厳しい避難所生活をしていた人々には心の癒しになっていたのではないか、と僕は思います。特にドキュメンタリー映画に残されている現地のライブの様子を観ると、子供たちは楽しそうに踊っています。
 石原プロデューサーの著書を読むと、現地の人々から来るなと拒絶されるのではなく、現地の人々に喜んでもらえたことや、AKB48ファンの子供さんが亡くなられた親御さんが喜んでくれたこと等も語られています。
 また、被災地に物資が届けられたとしてもその分配が難しいこと、そして、「車」が必要であることが分かってきます。
 CDの売り上げの一部を復興支援にあてる「誰かのために」プロジェクトにより、被災地にバスを2015年の時点で30台を送り、復興に貢献します。
 それだけではありません、ライブのためのセッティング等に関する仕事は、現地の企業に依頼してなるべく現地にお金を落とそうとしたり、現地の名所にAKB48が行くことで、マスコミが取材に来るので、「客寄せパンダ」になっても良いと様々な名所に行ったりします。
 このプロジェクトはずっと続いています。
 未だに被災地訪問を続けているのは、本当に凄いことだと思いますし、決して東北のことを忘れていない、というのが伝わります。
 
 我らがSKE48のことで思い出すのが、岩手県山田町とかおたんの関係です。
 第1回の被災地訪問の場所だった山田町は、瓦礫の山がまだ残っている状態でした。
 そんなところにアイドルが行って何ができるのか。
 マブリットキバさんの子供たちのコメントを読むと、子供たちが大喜びしてくれたこと、そして、子供たちが作っていた未来の山田町のジオラマについて語られています。
 僕は今回、この著作を読んで初めて知ったことがあるんですが、松井玲奈がスケジュールの関係で山田町に行けなかった時に、どんな対応を取ったか、どんな気持ちだったか、是非、読んで確かめて欲しいです。
 話を戻しましょう。
 震災でPTSDになってしまった女の子がいます。名前は「かおたんちゃん」。
 彼女は松村香織のファンで「素直に動画で辛いと話したり、打ち明ける松村香織がうらやましく、力になりたいと思って」と応援するきっかけを語っていたそうです。PTSDの処置が遅れて、震えて何もできなくっていた彼女の為に、マブリットキバさんは、保護者の方の許可をもらい、ぐぐたすを通してかおたんに彼女のことを伝えます。
 ドキュメンタリー映画「アイドルの涙」の初回限定豪華版の中でかおたんがマイクに伝言をするシーンを覚えているでしょうか。あの時は、治療のために町を離れた「かおたんちゃん」の為にかおたんが「一緒に絶対に、これからの夢を叶えて、絶対に会いましょう」とメッセージをマイクに録音していました。
 それからも、かおたんは、プライベートでも山田町に訪れますし、彼女のファンであるかおたんずも山田町に訪れて海産物を買っていきます。こんな復興支援の仕方もあるんだな、と凄く新鮮な気持ちになりました。
 やがて、かおたんは山田町の観光大使に任命されます。




 2019年も彼女は山田町の町おこしイベントに参加し、被災地とアイドルの理想的な関係を見せてくれました。
 時には露悪的にグッズのお金のことなんかを生配信で語っている時は、「おおう、欲の国から欲を広めるために来たような人だ」と思う時もありますが(生活かかってますしね)、根っこの部分は凄く良い人なんですよね。
 ぐぐたす時代に山田町の名産品をアピールしたり、被災地の様子を撮って伝えてくれていました。残念ながら、ぐぐたすはサービスを終了していますが、youtubeにファンの方が残してくださっていたので、貼っておきます。




 AKB48のドキュメンタリー映画「存在する理由」を石原さんが監督した時に、エンディングテーマの「あの日の自分」に合わせて山田町のジオラマが映されていきます。
 僕はこのジオラマを見る度に、僕らの復興への想像力はこのジオラマを越えられているかな、と思う時があります。本当は、東北でオリンピックをすれば、復興の最大のアピールになるし、街造りの予算も全く違ったものになったのではないのか、と素人考えですが思うこともありました。
 急に話が大きくなったと思うかも知れませんが、2020年は震災の時やその後の日々を思い出させられるコロナウイルスの混乱と自粛がありました。今度は東北だけでなく、世界中が舞台です。人間の美しい部分と醜い部分をSNSやオークションサイトを通して同時に見せられもしました。
 あの時、僕らや被災地の人々に楽しみや希望を与えてくれたアイドル達の活動が、今、思うように出来なくなっています。
 この国のエンターテイメントを殺さないために、皆が掌で大事なものを掬っていく必要があると思います。 
 今、生きている僕たちには、もう一度、色々なものを建て直せるチャンスだけはまだ残っています。たとえ、それが小さな掌でも。
 この曲を聴きながら、僕が0時から5時の間にが考えたことです。
 もうすぐ夜明けです。
 それじゃあ、去年より良い1日にしましょう。