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2019年12月11日水曜日

おすすめの映画と本「悲しみの忘れ方」

新しい自分が生まれる場、もしくは、アイドルという娘


 アイドルになる人って、どんな人だろう、と思うことがあります。
 
 自意識が強い子とか、小さい頃からママに投資されてきた子とか、色々と考えられると思います。
 今回紹介する「悲しみの忘れ方」は、メンバーそれぞれのお母様の言葉がモノローグとして流れ、それぞれが乃木坂46に入るまで、そして、入ってからの様子が収められています。
 
 
 生駒ちゃんが「小学校が大嫌い!楽しい思い出が一つもない!」と語っているんですが、小学校の頃、いじめにあっていたことや中学生の頃、スクールカーストの底辺にいたことが語られます。
 他にも西野七瀬さんが、中学の女子バスケ部で「苦手な女の子の声が頭から離れなくて眠れない」という体験をしたり、橋本奈々未さんが、美術大時代に生活の苦しさのせいか、癪に触って、買ったおにぎりを床にたたきつけたとか、白石さんが女子テニス部にいじめられ、中2から不登校になったとか、なんだか辛くなるエピソードが満載の映画なんですがね。他にも、「これで人生を決められるのが嫌だ」と生田さんが中学受験のテスト用紙を手に握って言ったエピソードとかも壮絶ですね。
 
 学校という小さな社会が彼女たちにとって、辛い思い出が多い中、反対に実家でのリラックスした表情が対照的なんですよね。そして、乃木坂46という場へ徐々に集まっていく。
 そこは、学校でも家でもない3つ目の場所なんですね。
 
 しかし、そこはアイドルという過酷な場所だった。
 レッスンだったり、選抜争いだったり、握手会だったりと、容赦ない競争社会の中に放り込まれていくんですね。
 
 特にプリンシバル(ざっくり言うと、舞台に出演するメンバーを観客が投票で決めるやつ)の業界関係者披露での「あたしと仕事したくない人がいるんだよ。みんないっぱい仕事したくないんだよ。私ここにいない方がいい」と不安におし潰されそうになる松村沙友里さんに、「うちだってそうだよ。それが実力なんだよ。選ばれないのが実力なの。それを受け入れて演じなきゃいけないの」という生駒ちゃん。そして、「私、本当は大学受かってたの。(中略)でも、全部捨ててここに来たの」という松村さんに「うちだって、友達とか全部捨てて、ここにきたさ(中略)そんな頑張ってないとか、そんな悲しいこと言わないでよ」と涙ながらに言う生駒ちゃん。
 この時、生駒ちゃんは、センターであるにも関わらず、プリンシバルの主演には選ばれていませんでした。なのに、仲間にこんな優しい言葉を必死でかけてたかと思うと、普段、自分可愛さで生きているのが恥ずかしくなりますね。

 そして、お母様の「やり場のない怒りが生まれた。(中略)なぜ、他人に自分の娘のことを攻められなきゃいけないのか、泣かされなきゃいけないのか。私はオーディションを見つけてきた旦那に当たった」というなんとも辛いモノローグが入るんですよね。
 アイドルも誰かの大事な娘さんなんですよね。
 家族がいる。
 でも、なんでこんなに評価されなきゃいけないんだ、なんなら、アンチが付かなきゃいけないんだ、と考えさせられました。
 更に西野七瀬さんの選抜落ちのエピソードでも、大阪に帰って号泣した娘にお母さんが「もう辞めなさい」という一言も、この過酷な世界を感じさせます。

 センターから外れた時に、卒倒した生駒ちゃんが「スッキリ」と言っているのも印象的で。その代わりにセンターになった白石さんが「センターになるとアンチも増えるので」と言っていることから、生駒ちゃん、凄い叩かれてきたのかなあ、とも感じました。想像を広げると、珠理奈が背負ってきたものについても考えさせられました。

 更に、大組閣という歴史に残る大悪手イベントで、生駒ちゃんはAKB48との兼任が決まります。おかげで、生駒ちゃんだけ、AKBとして紅白初出場というね。この年、SKE48は「不器用太陽」だったなあ。 

 更に、松村さんのスキャンダルが発覚するんですよね。
 しかも、相手は業界人という皮肉な結果。
 このことが及ぼす様々な感情。
 松村さんがメンバーの前で説明する様子やラジオで語る様子。
 握手会は人がいなくなり、仕事の合間も無の表情で孤立しているような感じが容赦なく映されていくんですね。
 そして、もう一度続けたい、とファンの前で宣言するんですよね。
 2019年現在も大活躍していることを考えると、ここから這い上がって行ったんでしょうね。

 忘れちゃいけないのが、我らが松井玲奈もSKE48から乃木坂に兼任してたんですよね。ひょんさんから見た乃木坂ってどうなんでしょう。
 「アイドルとしてタレントとして、一人一人透明感があるし、グループとしてもなんか、自分たちの中で方向性が見いだせてないから、透明性があるし」
 うーむ、SKE48と比べれると、この頃はまだ過渡期だったんでしょうね。
 それから4年が経ち、いまや、アイドル界の天下を完全に取ってしまいましたね。

 乃木坂に入って変わった娘たちに送るお母様方の言葉もいいんですよね。
 辛いこともあるけど、娘が自分自身のことを好きになってくれるのが、嬉しいこと。そして、支え続けたいという想い。
 素晴らしい。
 もう、ここでウルウルきて、生駒ちゃんの母校の合唱部の皆さんからの歌のプレゼントがあるわけですよ。もう、ヘラヘラと特撮のことばっかり考えていきてる自分も、明日から頑張らないとな、と考えさせられたシーンです。

 そして、エンディングの「悲しみの忘れ方」ですよ。
※動画は公式のMVの方です。

 曲と映像のシンクロ度が凄まじい!
 ここだけで、ひたすら泣けます。
 「探す声を聴いて道に戻った」のシーンとかね。
 そして、スローで海岸を走る生駒ちゃん。
 もうね、ここで号泣ですよ。
 歌詞とそれぞれのメンバーのこれまで、そして、前を向いてキラキラ光る海辺を走る。
 ドキュメンタリー映画の本質の一つである、美しい瞬間を切り取る意味では、これ以上ないぐらい素晴らしい映画なのではないか、と思っています。
 
 それから、作中で「君の名は希望」が字幕つきで流れます。

 この曲自体、「君」との出会いによって「僕」はこの世界の美しさを知っていくんですが、「君」が「乃木坂46」で、「僕」が一人一人のメンバーたちで、「君」の名前を「希望」と知ることも何か、この映画とリンクしているように感じます。

 もちろん、ツッコミどころもあると思うんですよ。
 えっ、2期生の描写少なくない?とかね。

 でも、フォーカスをしぼったからこその良さが今回は出て良かったと僕は思います。

 2作目もね。
 ムビチケ買ったんですよ。
 でもね、観に行けなかったんですよ。
 だから、ソフト化を今、楽しみに待ってます。

 そして、SKE48もそろそろ、こういうちゃん予算を割いて、長い時間軸の丁寧なドキュメント作ろうぜ、と思いました。この家族にアンケートや手紙を書いてもらう形式は凄く良いと思いますけどね。色々と、反射して考えられることも多いので、食わず嫌いせずに、是非とも観て欲しい1作です。