解放へ
2020年の春は、コロナウイルスによって、世界中が自粛の雲に覆われました。
この数か月間、我々の生活は徐々に変わっていき、エンターテイメント業界は政府からの要請によってほとんどが中止や延期の選択を取りました。大阪と東京で予定されていた古畑奈和のコンサートは中止になりました。
この発表がされた際の奈和ちゃんがTwitterに書いた「私は大丈夫だから」という言葉は、「ラムネの飲み方」を聞いたことがある人なら、どんな気持ちか想像がつくでしょう。
決していま、裕福な状況ではない僕ですが、せっかく大阪まで来るんだし、行きたいなと思っていたので残念でした。彼女のコンサートだけではなく、48グループ全体のイベントが次々と中止・延期が続きました。
僕らの「当たり前」は少しずつ、見えない雲に覆われていきました。
しかも、日本は諸外国と比べてもお世辞にも保障がしっかりしている状態とはいえず、ひたすら「自粛」という名の「我慢」を要請されました。
3月末時点でIMFがまとめた「COVID-19への政策対応」では、コロナでの医療対策費をGDP比にしてフランスは14%、ベルギーは12%、アメリカは10%であるのに対して、日本は0.1%と、フランスの約140分の1の対応しか日本はまだ出来ていません(フランスを15パーセントとする資料もあり)。
少しずつ政府から補填の給付案が出ていますが、既存の社会保障制度なども現在、各所で紹介されています。
僕の通勤経路の電車は、この季節になると、通学する学生たちのにぎやかな声で溢れているんですが、今年はそれもなく静かです。
大好きな映画館も、ついに週末は休館を選びました。近所のライブハウスもシャッターは閉まりっぱなしで、楽しみにしていた年に1度のプロレスの祭典「レッスルマニア」も無観客で行われました。無観客を利用してまるで、映画のような演出にしたのは、流石としか言いようがないですが、静かな客席に響き渡る受け身の音が寂しかったです。
簡単に言うと、「静かに」していることが要請されている期間なんだと思います。
この事態に対して、僕は「SKE48の時間が少し遅くなった今、ゆっくりとSKE48」について考えるチャンスという提言をしました。メンバーたちも様々な工夫を凝らしました。たとえば、みなるんこと大場美奈の始めたファンへの質問をしていくというアプローチや、よこにゃんこと北川愛乃のドムヘッドの制作日誌もそうですね。
奇しくも、もう時代遅れになりつつある「ブログ」というSNSの中では「遅いメディア」を使っていることも印象的でした。
僕個人の話をすると、3月末から明るいところで眼を開けられなくなってしまい、それでも働かないとお金はもらえないので、働きに出ます。
しかし、太陽の光はあまりに強すぎて、毎日、曇りや雨の日を願って過ごしていました。
そんな状況になると、気持ちも落ち込んでくるもので、ブログも書けなくなっていきました。実は、3月末から4月にアップしたものの80%は既に書き溜めしていたものを一部修正したものです。
最終的に眼の状況が悪化したのもあり、ブログを休むことにしました。
2020年4月3日の夜。
SKE48のyoutubeチャンネルに一気に動画がアップされていきます。
それが、古畑奈和の「FRUSTRATION」でした。
僕は、通勤帰りの電車を駅のベンチで、しかも、照明が一番当たらない隅っこの闇の中で待っていました。
僕は、その一報を確認した時に、小さく「そう来たか」と呟きました。
まさに理想的なアップデートだと僕は思います。
原曲のFRUSTRATIONがレゲエとヒップホップのメロディーを基調に作曲されているので、それをロックアレンジするとは!
共演していただく予定だったBRIDEARさんが演奏してくださると、こんなに立体的にリズムが浮き上がってくるのか、と衝撃を受けました。
そして、「FRUSTRATION」が溜まりに溜まったこの世界を、解放するかのような奈和ちゃんの明るさ。
「FRUSTRATION」の歌詞も、まさかこんな風に響くとは。
「静かに」「自粛」していることが望まれる社会で、「騒げ」とか「踊れ」と叫ぶ解放感。奈和ちゃんが扇動する右手は、きっとライブの時には、僕らがコールしているはずの部分なんでしょうね。画面の中の無観客という限られた「解放区」かもしれませんが、もの凄く明るい気分にさせてくれました。
観られなかったライブがこんな形で観ることができて嬉しいし、「FRUSTRATION」の別アレンジが観られるとは。しかも、これが大阪・東京の2都市の限られた人数ではなく、世界規模の人々が観ることが出来たのは本当に素晴らしいことだと思います(配信予定だったらごめんなさい。でも、無料で公開されることで、より多くの層に届いたのではないかと思います)。
彼女の歌う「FRUSTRATION」を聞き終わると、ああ、早く眼を治してこのことを書きたいという思いでいっぱいになりました。
やがて、闇の中から近づいてくる電車の強い光に一度、眼を瞑りながらも、今度は力強く眼を僕は開きました。
※「FRUSTRATION」のコールについての奈和ちゃんの思いを書いた記事はこちら!
https://oboeteitekure.blogspot.com/2020/02/frustration.html
※「FRUSTRATION」の曲について書いた記事はこちら!
https://oboeteitekure.blogspot.com/2019/07/frustration_31.html