「しょうがない」を乗り越える瞬間
1年に1度ぐらい、映画を観終わっても興奮が収まらずに暫く席が立てない映画がある。
今年初めてそれを感じたのが「アルプススタンドのはしの方」だった。
僕らの生活には、今とてつもなく大きな「しょうがない」が落ちてきている。
映画も席を空けるようになったし、マスクをつけて外に出るようになった。
そもそも、この映画の舞台になっている甲子園も行われなかった。
みんなから応援される側ではなく、応援する側。
しかも、主体的に応援したいわけではない「アルプススタンドのはしの方」に位置する人々の物語だが、僕もどちらかというとそちら側なので、前半の会話はとても共感できた。
徐々にそれぞれの内面が明らかになっていき、自分が諦めていたことが明確化された後、球場で頑張る選手たちへの思いに変わったシーンは、心が震えた。
「人生は送りバント」という聞いただけではマイナスに聞こえる言葉も、「自分が頑張ることで誰かが前に出られる」という精神の現れで、演劇部の二人が何故、全国大会に自分たちは出られないのに関東大会に挑むのか。
藤野くんが何故、野球用品のメーカーに勤めたのか?最後にボールをキャッチした時に、彼は形を変えつつも野球と繋がっているんだなあ、と泣いた。
「アルプススタンドのはしの方」にいる人々の未来とも「人生は送りバント」はリンクしているように感じる。
また、ラストのプロ野球選手になったあの人。
「しょうがない」で終わらせずに努力し続けてきた結果だ。
吹奏楽部の久住さんが言っていた「普通だから努力する」という言葉とも繋がってくるように感じる。
物語の中で流れるブラスバンドの演奏も凄く良くて、涼しいシアターの中にいるはずなのに、夏の球場の暑さと高揚感が伝わってくる。
何故、僕らは誰かを応援するのか。
それは多分、動き出すきっかけをくれるからじゃないか。
何かに立ち向かう姿に感動して、自分も力をもらえる。
いつか、自分も応援する側から誰かのきっかけになりたい。
丁度、あの映画では映らなかったが、みんなの心を動かしたあの人のように。