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2021年2月14日日曜日

セットリストと曲の重力

新しい組み合わせを求めて


 日本語ヒップホップのパイオニアの一組であるRHYMESTERが初のオフィシャルブック「KING OF STAGE」を発売しました。



 これが物凄く面白くてですね。2019年の全国47都道府県ツアーの名物写真と共に、3人のライブに関するトークが48回分収められています。更に、ゴスペラーズの村上さんやクリーピーナッツのDJ松永も参加している座談会も、新しい発見があって非常に面白かったです。
 日本語ラップを普段聴かない方にも、ライブの見方が増える良書だと思うので、おすすめしたい1冊です。
 さて、その中で、気になる章がありました。
 それは47箇所もライブハウスやホールを回るので、セットリストを彼らが変化させている点です。
 まず、大きく2つにタイプが分けられます。
 一番古いアルバムの曲から最新の曲まで進んでいく「順行」と、一番新しい曲から始まって古い曲で終わる「順行」のセットリストの2タイプです。
 さらに、リピーターの為に、要所要所で曲の置き所をかえたり、重要な曲の前にどの曲を持ってくるかを考えたりしているそうです。
 ちなみに、古くRHYMESTERを応援しているファンの方からは、「逆行」のセットリストが評判が良いそうで、後ろに行けば行くほど、曲の持つ「重力」、つまり持つ意味が深くなっていくそうで、セットリストを考える時に非常に重要だそうです。
 同じことはスガシカオさんが、月刊カドカワのインタビューの中で、物凄く陽気な曲でもセットリスト次第ではお客さんを泣かすことが出来ると語っていましたが、それに近いことかなと考えています。

 これはなかなか、面白そうだ、と思いまして、試しにSKE48の「制服の芽」公演を「逆行」で再生して行ったんですね。
 1曲目が「手紙のこと」、ラストが「恋を語る詩人になれなくて」。
 結果としては、好きな公演曲ナンバー1の「手紙のこと」が少し軽くなっちゃう感じがするんですね。「恋を語る詩人になれなくて」で終わると、「俺たちの戦いはこれからだ!」感はあるものの、やはり、違和感があるんですね。最後に置くと「詩人」の疾走感を損なってしまうんじゃないかとね。
 そう考えると、「手をつなぎなら」公演や「ラムネの飲み方」公演なんかも、凄く計算されて作られたものなんだな、と改めて考えさせられました。
 そうそう、「仲間の歌」が公演ではラストに来ないけれど、コンサートだとラストに来るのは何故か、なんかも考えさせられました。おそらくカタルシスとお客さんの出す歓声の量が関係してくるのかと思っています(コロナのせいで、なかなか大声で歌えませんが、いつか、また大声で叫びたいですね)。
 
 「僕は知っている」なんかも、コンサートの最初か最後に来ることが多くなっていますが、全国握手会のミニライブでは、意外な曲で始まったり終わったりするので、様々なセットリストの実験があり、面白かったものです。
 
 じゃあ、この並びが良いなと思うセットリストはどんなものでしょう?
 まず、頭に思い浮かんだのは、2013年のガイシ2日目夜です。
 「強き者よ」から始まり、感動の「眼差しサヨナラ」を始めとした卒業メンバーをセンターにしたユニットブロック、そして、「遠くにいても」からの「それを青春と呼ぶ日」の流れは、今観ても心を揺さぶられます。アンコールでの「仲間の歌」でのカタルシスを含めて、卒業公演ということを差し引いても素晴らしいセットリストだと思います。
 SKE48のコンサートの歴史を見て、ガイシでのコンサートは本当に良いセットリストが多くて、2012年の2日目や2018年の夜のセットリストも好きです。

 次にメンバーが組んだセットリストの中で良いものは何でしょう?
 まず、思い浮かんだのは、松井玲奈の卒業コンサート「2588DAYS」の1日目です。
 シングルのヒット曲から始まり、メンバー強みを生かしたユニットブロックが印象的で、「少女は真夏に何をする」、「花火は終わらない」、「不器用太陽」という夏を連想させる曲たちを上手くメンバーにあてはめていったのは、もう「お見事!」と「スパイの妻」の蒼井優みたいに叫びたくなりました。
 そして、明るい曲を多めに配置した「写真撮影OKブロック」を挟み、再び、メンバーの個性を生かした曲が並んでいくんですが、「奇跡は間に合わない」の宮澤さん、「Glory days」の珠理奈と直球勝負すべきところは、直球勝負する姿勢も良いんですよね。
 そして、再びシングルが続き、「僕は知っている」で本編を終え、「神々の領域」で雨の中アンコールが始まるんですよね。そして、「前のめり」で終えるという素晴らしいセットリストでした。未だに作業のBGMとしてこれを「AKB映像倉庫」で流しながら聴くことが多いです。
 
 もう一つメンバーが作ったセットリストで印象に残っているのが、かおたんこと松村香織の卒業コンサートの昼公演「かおたんのリクエストアワー2019」です。
 一見、かおたんが好きな曲を並べただけに見えるんですが、実は物凄く自由度が高いですし、もの凄く盛り上がるセットリストになっているからです。
 皆さんがコンサートで「キター!」とか「マジかっ!」となる時はどんな時でしょう。
 重大発表とか新曲お披露目もあるかも知れませんが、「この場面でこの曲がまさか来るとは!」とか「この手があったか!」という選曲が来た時ではないでしょうか。自分だけが知っている名曲が出てきた時や、あの名曲がついに来たとかね。あとは、自分の予想を裏切る曲が来た時もそうですね。
 僕の場合、GLAYがコンサートで「ルシアンヒルの上で」をカバーしたり、ピロウズが「巴里の女性マリー」を数十年ぶりに歌い始めり、さだまさしが3000回目のコンサートで「絵はがき坂」から歌い出した時とかがそうです。

 話を「かおたんの「リクエストアワー」に戻しましょう。
 このコンサート、僕行けなかったんですよね。もし、行けた方がいたら、実際に観た時の感想を教えていただければ幸いです。
 まず、バレンタインが近いということで「チョコ」関連の2曲で始まります。
 そして、いよいよ「リクエストアワー」はスタート。
 思えば「リクエストアワー」形式にすることで、いつも以上にセットリストに意識を向けられつつ、「この曲がここに来るか」という通常の楽しみ方と「ああ、こういう曲がかおたんは好みなのね」という要素も加わるわけです。
 普段は光が当たることが少ない総選挙ランクイン曲の「ドレミファ音痴」や「だしない愛し方」が入っているのも曲を大事にしていて良いですし、「片想いFinally」のような正統派の名曲も入っているバランスの良さがあります。
 しかし、「キター!」とテンションが上がったポイントとしては、「不協和音」と「プライオリティ」でしょう。驚きの要素とどうやってこの曲を料理するんだという感じですね。
 「不協和音」はゆななの新しい顔を見せてもらえた気がしますし、難波の超イケメン曲をみこってぃが見事に歌いあげるとはという驚きがありました(みこってぃ女子人気ありましたもんね)。
 僕の趣味で言うと、「猫の尻尾がピンと立ってるように…」が入っていたのが、流石かおたんとなりましてね。BOSEくんのリリックも好きなんですが、フロウも気持ち良くてよく散歩する時に聴いているんですが、なかなかSKE48のコンサートで聴けないのが寂しい名曲だったんですよね。
 ベスト3は納得と驚きが交差した配置になっていて、「47の素敵な街へ」はSKE48が日本中から集まった仲間で構成されていることを意識させられますし、「Vacancy」はこの曲の歌詞の良さを改めて意識させられると思います。
 そして、1位の「ひこうき雲」の解放感。
 もう、お見事としか言いようがありません。
 曲の世界観やアップカミング公演のドラマも含めて、多幸感溢れる1位です。
 締めとアンコールは盛り上がり曲で固めてしっかりと、お客さんの「SKE48のコンサートに行ったらこれ聴きたいな」を実現しているセットリストになっています。
 ううむ、入れたファンの方々が羨ましい。
 ちなみに、このコンサート、メンバー視点から見るとどうだったんでしょう。
 まずは、2019年2月7日のさきぽんのアメブロを読んでみましょう。

 そして、鎌田さんのアメブロ。

 曲という開けたものの中に、メンバーとファンそれぞれの小さな物語が呼び起こされていたんですね。この辺りも素晴らしいセットリストの条件かも知れません。演者、裏方、観客、それぞれの心を動かせるか。

 夜公演は「AKB映像倉庫」にアーカイブされていますが、こちらも良いセットリストなのでおすすめです。

 ここまでは意図的にセットリストを組んで行った例を挙げていきました。
 しかし、偶発的に良いセットリストになることもあります。
 そう、我々ファンが投票する「リクエストアワー」ですね。
 ただ、どうしても年が進むに連れて、「1位に何が来るんだ!と」いうところに意識がいきがちになってしまいますが、2018年のトップ3の並びは、「王者の凱旋」、「遥かな歴史の階段を」、「最初で最後の1位」と素晴らしい並びになっていた思います。また、2013年の2日目のセットリストは今観ても、1位に向けてSKE48という街を旅していく感じが好きです。辿り着いた「羽豆岬」の海の美しさはメンバーたちの涙を含めて忘れられません。

 それじゃあ、ずっとセットリストが変わらない劇場公演はつまらないのか、というとそうではありません。
 最初に試してみたように計算されたセットリスト順であるということもありますが、12年間以上のアドバンテージがあります。先人たちが様々なアプローチをしていた曲を今日もブラッシュアップしていきます。よく考えれば新曲ってレコーディングの時点ではまだ唄いなれてない状態ですよね。そこからライブで繰り返し唄いながら一番良い形を見つけていくのでは、と僕は思います。
 SKE48の場合、「チョコの行方」の「やきもきやきもき」コールや「誰かの耳」での大サビ前のメンバーの叫びなんかは、公演の中で育っていった曲ではと考えています。

 2021年2月14日、現在、SKE48の大箱公演はなかなかありません。
 しかし、松井珠理奈や高柳明音の卒業公演は、おそらく二人の想いが込められたものになるのでは、と今から期待しています。
 ちゅりの卒業コンサートは、「なんボヘ」いれてくれたら嬉しいですし、珠理奈の卒業コンサートはもし、「バケット」を入れてくれたらたまりません。

 たまには、自分でセットリストを組んでみて、曲の新しい魅力を発見してみるのはどうでしょう?
 えっ、僕の場合?
 ちょっとだけ、考える時間をください。