人気の投稿

2021年4月12日月曜日

オレンジのバス

 あの音楽の中で会っている

 2021年4月11日。
 松井珠理奈卒業コンサート夜公演。
 松井珠理奈が最後出番を終えて、これでコンサートは終わりかな、「手をつなぎながら」とかで終わるかなと考えていた時、その曲は発表されました。

 「オレンジのバス」

 直接珠理奈から伝えるのではなく、作詞という間接的なアプローチで伝えられたメッセージ。
 今日はこの曲について考えていきましょう。
 まずは歌詞の世界から見て行きます。

 1番では、曲の主人公がずっとバスに乗っていることを考えるところから始まります。
 バスに乗車していく人の入れ替わりはあるけれど、寂しさを感じずに曲の主人公は過ごしていきます。
 時には、不安からくる強がりで泣いても、その涙の度に進化していることを曲の主人公は知っています。だから、前を向いて行こうと明るい言葉を相手に発することができます。何年もバスの中で過ごして知った経験があるからでしょう。 
 そして、サビではバスの乗り降りの比喩と呼応するように、出会いと別れが提示され、沢山の思い出が主人公の瞼にうつります。
 ここで「軌跡のバス」という表現が登場します。「奇跡」ではなく、「軌跡」。
 「軌跡」のそもそもの意味は大きく分けると4つです。
 ①車輪が通った後。轍(わだち)。②先人の行いの跡。③ある人や物事がたどってきた跡。④数学で点が一定の条件に従って動くときに描く図形。
 この曲の中では①~③のどれかになってきますが、物理的には①、曲の主人公に合わせると③でしょうか。
 「みんなみんな」が「力強く走って行く」とありますので、ここでいう「みんな」は少数ではなく大多数ではないかと連想されます。
 何年も走ってきた「軌跡のバス」の中で主人公は様々なことを思い出していきます。

 2番では楽しいことばかりではなく、傷つけられたことも思い出します。
 そんな時は弱音を誰かに吐き出し、一緒に気持ちを共有することで「絆」が生まれていくことを語ります。
 そして、心無い誰かの評価ではなく、自分の可能性を信じて進むべきだと。
 2番のサビでは1番のサビと呼応するかのように、過去の先である未来へ進むことが語られます。「軌跡」というこれまで進んだ道である過去よりも「新しい地図」を広げてすすむべきだと語られます。ここでも「みんな」が繰り返されそのみんなは「バス」に一緒に乗っていることが分かります。


 大サビ前では、進むだけではなく止まること、ゆっくり進むこと、遠回りすることが示されます。「みんな」もそれを肯定してくれるはずだと。
 ここで1番のサビ全体と2番のサビの前半がもう一度示されます。
 その後、気になるフレーズが出ます。
 「これからはたくさんの色を自由につければいい」

 今はオレンジ色だったバスに新しい色をつける。
 「新しい地図」と呼応する気がしますが、「たくさんの色」がつくことで、「可能性」の広がりを感じます。
 ここで気になるのは「つければいい」と自分がするのではなく、誰かに託すように。

 そして、曲の最後に主人公はオレンジのバスにお礼を言います。
 このお礼は、バスとのお別れにも思えますし、自分自身の「軌跡」を振り返っているようにも思えます。
 
 「バス」は決して早い乗り物ではありません。
 いくつものバス停で止まりますし、時には遠回りもします。
 その度に誰かが乗って誰かが降りてきます。
 まるで、出会いと別れのように。
 そして、いつか目的地が来たら自分もバスを降りることになります。
 そう、バスは停留所に着く度に我々に「ここで降りますか?」と問いかけています。
 日常はゆっくりと進みながら「軌跡」を作ります。まるで、バスのように。
 皆さんのバスは、今どのあたりを進んでいるでしょう。
 バスの経路は「学校経由」かもしれません「会社経由」や「家庭経由」の人もいるでしょう。何度もバスから降りてまた乗る人もいるでしょう。
 今、バスを降りそうな時、この曲を聴くとあと停留所一つ分頑張れそうになれないでしょうか?
 皆さんは今、まだバスに乗っているでしょうか、もう降りているところでしょうか?

 ここからは、松井珠理奈とSKE48を入れた上で曲を考えていきたいと思います。
 「オレンジ」はSKE48を連想させる色ですし、「バス」もSKE48というグループだと感じられます。そして、そこに「軌跡」という言葉が付くことで「多くの歴史を持つSKE48というグループ」と読み解きました。
 1番2番ともに松井珠理奈の私小説的な要素をあてはめていくと、彼女がこれまでどんな風に進んできたのかが見えてきます。
 彼女だからこその説得力が歌詞の中にあります。
 そこには秋元康の作詞のようなテクニック性よりも、ストレートなメッセージの性が強いです。
 バスへのお礼もSKEからの卒業とリンクしますし、沢山の色も自分が作ってきた価値観だけでなく新しい価値観をSKE48に入れて行って欲しいというメッセージを感じます。
 「みんなみんな」にはメンバーだけでなくファンの皆さんも入っているのではと思います。「新しい地図」という新しい目的地をみんなで見つけて、これから進んでいくSKE48に期待が出来る内容でもあります。


 そして、先日のコンサートでは、後輩たちが歌うことで、もうそこには居ないはずの松井珠理奈が、音楽の中で甦ることが素晴らしくてですね。僕はここで泣いてしまいました。
 今は、珠理奈のことが頭に浮かびますが、50年後に珠理奈を知らない人がこの曲を聴いた時、どんな感想を持つのか。その感想を語る頃もオレンジ色のバスは走っていると信じています。