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2022年1月30日日曜日

はたごんとウェル―イング

「いる」と「推す」の幸福な関係

 予防医学研究者の石川善樹さんとニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さんの共著「むかしむかしあるところにウェルビーイングがありました 日本文化から読み解く幸せのカタチ」が1月28日に発売されました。
 「ウェルビーイング」という、名前はよく聞きますがいったいどんなものかを、日本の昔話を切り口に解説しているんですが、「その組み合わせがあったか!」と衝撃を受けるぐらい素晴らしい構成でした。

 そもそも「ウェルビーイング」というのは、定義が非常に曖昧で国や時代によって変わるそうです。「ウェル(善く)」、「ビーイング(いられる)」という言葉は、吉田アナの言葉を借りるなら「イキイキ」ですし、石川さんの言葉で表すなら「『満足』と『幸福』の2つが揃っている状態」と言い換えられもします。
 ううむ、なかなかぼんやりしてますね。
 これを具体的にするのが日本の文化です。
 日本的ウェルビーイングと著書の中では語られていますが、日本人は基本的に「Nobody」(誰でもない)と「Negative」という2つのNを愛でてきたと語ります。
 「Nobody」の方は、昔話の主人公や落語の主人公は、市井の庶民が出てくることが多いです。また、「Negative」の方は、古いものや朽ちたものを「わびさび」と愛でてきたバックボーンがあります。また吉田アナは松尾芭蕉の「夏草や 兵ものどもが 夢のあと」の俳句を挙げ、今はないものに思いを馳せる文化を語っています。
 西洋文化が「上」を目指すのに対して(天界やサミットを和訳すると頂上になるように)、日本人は「奥」を目指す(日本の神社の設計など)違いがあり、『古事記』の中に登場する「いるだけで存在価値がある神様」について紹介し、何か空白地帯の「奥」にある何かを想像させる文化について語ります。
 人間のコミュニケーションでは「いる」→「する」→「なる」という段階があると思います。その場に「いる」ことで、何か仕事を「する」こと人になり、やがて成功して何者かに「なる」。成長することになります。
 たとえば、社会人になると、いきなり「する」を求められます。あなたは何ができるのか、と聞かれます。「する」目線で人をみると、「あいつは使える」みたいな感じになるのかも知れません。
 それに対して、昔話や落語の登場人物たちは、なかなか成長というものをしません。
 元の状態に戻る話が多いです。全然、「する」まで進まないわけです。
 「仕方ないなあ」と町の人達が主人公を笑いつつ、コミュニティの中にその人が「いる」ことに価値を感じます。なんというか肯定を感じますね。替えがきかない大事な存在というか。
 また、古事記などに出て来る神様たちは「いる」だけでありがたい存在だそうです。そこから吉田アナはアイドルカルチャーにも通じると語ります。
 「推す」という行為は相手が「いる」だけで無条件で愛でることを受け入れてくれる状態であると。
 石川さんも日本のアイドルカルチャーの中でソロアイドルであれば、観客からは様々なスキルを求められますが、グループアイドルであれな一緒にいることが強制されるものの「いる」から始まる物語があり、関係性は必然的に生まれて来ると語っています。
 本書の終盤で石川さんはどうすればウィルビーイングに生きられるかの試みの一つとして、「自分より大切なものを見つけてください」と提案します。
 その存在がいることで自分が良い状態になる。
 これを受け手吉田アナは、寺嶋由美さんというアイドルが、ファンの立場で詠んだ短歌を挙げます。

「今日もまた 私を救ったことなんて なんにも知らない 待ち受けのきみ」

 まさに「推す」ということの本質を突いたような気が僕はしますし、ウェルビーイング、良い状態にいるなあ、と感じます。
 これから話すことについて重要なところだけつまみましたが、他にも、医学的に脳は未来にワクワクを期待できないと耐えられない一方で、サプライズが大きすぎても負荷がかかるという、ウェルビーイングを考えていく上での前提も詳しく書かれています。
 なんか前提が、いつものブログの記事より長くなりましたが、それぐらい良い本だったので、興味が湧いた方は是非是非、読んでみてください。

※久々にリンク機能を使いますよう! 


 


 さて、ウェルビーイングについて考えている時、僕が思い浮かべるメンバーがいます。
 それがチームEの髙畑結希さんです。
 はたごんですね。
 

 皆さんは、はたごんは好きでしょうか。
 五十嵐早香推しの僕ですが、彼女が凄く好きです。
 彼女は斉藤真木子さんのようにダンスが凄いわけでも、古畑奈和さんのように歌が上手いわけでもありません。カミングフレーバーの皆さんのように若くもありません。
 自分のことを「ぽんこつ」と呼んでいます。

【 高畑結希】過去の自分にソーユートコあったよね? | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

 そんな彼女ですが、僕は彼女がSKE48に「いる」ということが凄く嬉しいです。
 全国握手会がまだあった頃、僕はよくはたごんのいるレーンに行きました(ちなみに、早香先生の前はみいぽぽ推しでしたよう)。
 彼女が持つ親しみやすさの正体は何だろう、と考えたことがあるんですが、思えば彼女はOLを経験していたNobody側、市井の人間側だったというのも重要だったのではないかと考えています。まだ、誰かの夢を見ている側だったと言い換えても良いかもしれません。
 ちょっと、こちらのブログを読んでみましょう。

【高畑 結希】やるからには本気で。 | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

 
 自分の夢から手を離すのか、それともまだ頑張るのか。
 そんな誰かの選択を沢山見てきた彼女は、Nobody側から見られる側になっていきます。
 それは、未来をワクワクさせる選択であり、この時の彼女の気持ちを想像しただけで、僕までワクワクしてきます。
 アイドル髙畑結希の成長を、近くで見てきた人の声も確認していきましょう。
 まずは、2018年7月18日に行われた髙畑結希生誕祭で読まれた手紙です。

「髙畑へ

 23歳のお誕生日おめでとう。

 これで私よりおばさんですね。
 

 髙畑は入ってきてすぐの頃から私のことを名前で呼ばずにニックネームに『さん付け』で呼んできて、でもそれが私は全く嫌でなくて、なんだかスーっと落ち着く感じがあって。きっとそれは同い年っていうのが大きかったと思う。

 後輩だけど同い年。同期とはまた違う。近すぎず、遠すぎず、絶妙な距離感。それが私には本当に心地よくて。だから、髙畑と一緒に劇団れなっちに参加できるって、しかも同じ組って知った時は本当に嬉しかったよ。

 ロミオの弟のヒデ役。初めての演技で男役って凄く不安を感じたと思うし、たくさん悩んだと思う。

 実際、稽古期間中、どうしたら男っぽく見せられるのかずっとずっと試行錯誤してたよね。

 でも、髙畑がそうやって毎日頑張ってる姿を横で見てきた私だから、自信を持ってこう言えます。髙畑のヒデ、本当に最高だったよ。

 一緒に出るシーンでも、最初の頃と全然違って、髙畑らしいヒデをしっかり掴んで演じている姿は本当にかっこよかった。

 そうやってどんどん成長していく髙畑が同じSKEのメンバーとして本当に誇らしかったし、そんな髙畑に対して私も負けてたまるか!って思いながら毎日過ごしてたよ。

 だから、私が最後までやり抜けたのも髙畑のおかげなの。本当にありがとう。

 こうやって髙畑に対する気持ちを素直に言ったら、なんか負けた気がするから、いつも写真撮る度に変な顔をしたり、無駄にイジッたりしてきたけど、髙畑の存在は私にとって本当に大きくて、そして大好きです。

 だから、チームが違ってもこうして一緒にSKEとして活動出来ていることが本当に嬉しいよ。

 これからもSKEのメンバー同士一緒に頑張っていこうね。

 大好きな髙畑にとってこの1年が過去一番輝かしいものになることを心から願っています。

 改めて23歳のお誕生日おめでとう。

 髙畑と同じ1995年生まれのチームS・都築里佳より

 P.S.

 いつか真理佳と3人で何かしような!」

 はたごんの成長を舞台というアイドルとは違う場で見てきたぴよすさんの手紙。
 試行錯誤しながらも新しいチャレンジをして、役を掴んでいくはたごんの様子が目に浮かんで来る良い手紙です。
 それじゃあ、SKE48きっての分析力を持つあの人は、はたごんをどう見ていたんでしょう。2019年7月23日のはたごん生誕公演で読まれた手紙を読んでみましょう。

「はたごんへ

 お誕生日おめでとうございます。

 多分まさかの人からのお手紙です。

 私なりの、もしかしたら独りよがりになってしまうかもしれない言葉ですが受け取ってもらえたら幸いです。

 はたごんは同期の中ではお姉ちゃんみたいな、先輩といる時は仲良い人にもしっかり気は遣う人。んー、後輩といる時はよく知らないです。

 ぽんこつと言われることもあるけれど、実はとてもしっかり者なんだなーと思っています。

 その気遣いが根本にある優しさに皆が笑顔になっちゃって、思わずやらかしても許してしまうんです。

 実は時にそれを『おいしい』と思っていたりもしませんか?それがまた面白かったりもします。

 実はアンダーに出たのも早いし、ライブのリハーサルがあるとなると事前に誰よりも早く練習を始めたり、SHOWROOM配信を長いこと毎週継続していたり、どんなことにも正面からしっかりと向かっていく姿は皆がやらなきゃと思っていてもやれないことで、はたごんの本当に凄いところです。

 今はたごんの目の前には選抜という1つの壁があるんじゃないかな。

 一緒にご飯に行ったりすると、その話題が出ることもだいぶ前からありました。そのたびに真っ正面すぎるぐらい本気でまっすぐ。ふと思い出してみるとはたごんと真面目なお話をしていて、あまり後ろ向きな発言を聞いたことがないんです。

 そこに溜め込んでいないかな。まだ話してもらえる関係ではないのかな。なんてちょっと心配になったりもするけれど、それがはたごんの持つ強さなのかなと思っていたりもします。

 アイドルとして誕生日を迎えることはちょっと不安になったりもします。でもどうかブレないでください。目標がどことかでなく、これからもはたごんであることを楽しんで貫いていってください。これは私からの勝手なお願いです。今年はたごんにとっては選抜へのチャンスになったであろう選抜総選挙は開催されませんでした。それを残念だと、そう言える道をファンの方と歩き固めてきたこと、お祭りみたいなイベントではあるけれど、誰もが多少なり怖がってしまうそのイベントを待ち望めていたということ、頑張ってきたことに無駄なことはなかったと言える、それもまた一つの結果です。

 その頑張りはファンの人はもちろん、スタッフさん、メンバーまでしっかり響いているよ。

 だからずーっといい子でなくてもいいんじゃないかなとも思うの。もうちょっと周りの人に甘えてもいいんだよと。

 それを嫌と思う人はきっといなくて、それくらいはたごんは愛されてる人です。

 はたごんにとって愛あふれる幸せな1年になることを願っています。

 地元香川の美味しいうどん屋さんにまたお仕事のついでに連れてって行ってもらえることもつよーくつよーく願っております。

 最後に。お手紙を書かせてくださった生誕委員の皆様、私でいいのかと驚いたりもしたのですが、書かせてもらえてとっても嬉しかったです。素敵な機会をありがとうございました。

 はたごん、改めてお誕生日おめでとう。

 SKE48チームE 鎌田菜月より」

 ううむ、流石は鎌田さん。
 はたごんの頑張ってきたことをしっかりと見ていたんだなあ、と感じます。
 多分、2019年の選挙に向けて準備していたのでは、というのは確かに2018年のはたごんの勢いを考えると、確かに!と頷けます。
 はたごんにとっても大事なものでもありましたしね。
 ※くわしくはこちらのブログをご確認あれ!

【高畑 結希】一生の宝物! | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

 このブログでのファンの方のはたごんへの熱い思いが凄く良くてですね。
 自分の推しが失敗すること、悩むことを肯定してくれる存在。
 背中を押しながら、今を楽しむことを肯定してくれる存在。
 ううむ、髙畑商事はウェルビーイングで包まれてるなあ、と感じます。

 さて、今度は谷から見たはたごんについて見てみましょう。
 彼女の最新の生誕祭で読まれた手紙です。

「結希ちゃん、26歳のお誕生日おめでとう。

 この名前の呼び方をするのは私だけなので、もうわかったと思います。そうです、私です。

 実はお手紙を書くのは2度目になります。

 『SKE48のへーきん!』、そして今回は生誕祭。特別な場所でお手紙を任せていただけて本当に嬉しいです。

 どうしてこんなに仲良くなったのか私にもわかりません。共通点は同い年で、地方から来てる。それだけでした。

 自然と話すようになり、仕事終わりにご飯食べたりしたよね。

 そして謎に自粛期間などほぼ毎日連絡して、長電話もしましたね。しょうもない話やら将来の話、たくさんしたね。

 それくらい仲良しで、私の中で隣にいるのが当たり前になってました。

 それに一番覚えてる出来事があります。それはですね、結希ちゃんが初めて選抜入りの報告を私に一番にしてくれたことです。

 本当に嬉しくて、これ本人には言ってないんですけど、『ソーユートコあるよね?』のMVを何度も何度も見て、綺麗に映ってる結希ちゃんを見て親のように感動しました。

 今でも選抜に入り続けて頑張ってる姿を見てるととても誇らしいです。

 その分、選抜に入るとまた新しく悩みや壁が出て来ると思います。それに7期生も先輩になってきて、結希ちゃんも先輩になりましたね。そして色々任されることも増えたと思います。

 最近では7期生、ドラフト2期生とかでイベントする時などで背負うプレッシャー、感じますよね。特に結希ちゃんはその中でも最年長で、皆を引っ張って行く立場だからこそ慣れずに不安になることもたくさんあると思います。

 それに同期が卒業していく怖さ、私は知っています。だからこそ、これからも色々なプレッシャーに負けずに結希ちゃんらしくいてください。

 それに頼もしくて優しいファンの皆がいるから安心ですね。髙畑氏なら大丈夫。

 そして、結希ちゃんと一緒にラジオできてること、本当に嬉しいでーす!

 FM香川、はたごん&まりかのじゃんならん。地元香川でラジオできるって知った時のキラキラした表情、私は忘れません。

 それにいつもラジオの時に『谷さんおらなラジオ成り立たん』とか『谷さん助けてくれてほんまありがとう』とか言われるけど、いつも助けられてるのは私の方です。

 また、ぴよすゲストで呼ぼうね。そして『ぴよはたごん』の活動も頑張りましょう。

 君はぽんこつではない、多分。

 いつもありがとう。

 それと香川でいつかじょんラジライブもしましょうね。

 たにまりより」

 手紙の中に出てくるじょんラジはこれだ!



 いやあ、いつまでも聴いてられるラジオですね。
 全員、声が良いですしね。
 これから聴いていきます(今回の記事で初めて知りました。勉強不足でお恥ずかしい限りです)。
 鎌田さんの手紙でも登場しましたが、ファンの方との絆を谷も感じていますね。


 さて、はたごんのセンター曲で「人生の無駄遣い」という曲があります。

 彼女はこの曲のことをブログの中で2回ほど書いています。

【高畑 結希】SKE選抜コンサート!カッコいいSKE!カッコいい私! | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

【 高畑結希 】がSKE48で一番思い出が深い楽曲 | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

 人生を出し惜しみせずに楽しんでいく姿。
 きっと彼女が様々なことにチャレンジしている姿にいつかの彼女のように、心を動かされている方もいるかも知れません。
 コロナ禍の生活の中でのギネスチャレンジ。
 今年はほめらレシピ。
 まだまだ、彼女は自分の新しい可能性を追い求めていくことでしょう。

【2022年もよろしくお願いします!】高畑結希 | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

 でも、きっと根源にあるのは、こういうことかもしれません。

【高畑 結希】誰かの毎日に必要な存在に♪ | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

 飾らないですが、生活が少し豊かになる感じがして素敵です。

 最後に石川善樹さんの言葉をもう一度引用して終わりましょう。

「自分よりも大切なものを見つけてください」

 明日からもあなたが大切なものを「推す」日々が豊かでありますように。

2022年1月23日日曜日

青春と余白

3月のなるちゃん


 

 志賀直哉の「小僧の神様」という小説があります。
 秤屋の小僧である仙吉くんが、お使いの帰り道に寿司屋さんの屋台の前を通り、どうしてもお寿司が食べたくなります。勇気を出した仙吉くんが、お寿司屋さんの屋台に置かれているマグロのお寿司を手に取ろうとしたその時、「一つ6銭だよ」と言われ、手をひっこめます(仙吉は4銭しかポケットに入っていませんでした)。
 この様子を見ていた若い貴族委員のAさんが、後日、同僚のBさんに話すと「御馳走してやればいいのに」と言われますが「そういう勇気はちょっと出せない」と違和感を語ります。
 後日、Aさんが秤屋さんに行くと、仙吉くんがせっせと働いています。Aさんは仙吉くんをお寿司屋さんに連れていき、私は先に帰るからね。好きなだけお食べ、といいお店の人にお金を沢山渡して去ります。この時、当然ですが、Aさんは仙吉くんのことを知っていますが、仙吉くんはAさんのことを知りません。
 Aさんはお店の台帳にあえて偽名を書き、自分の素性が分からないようにします。
 それでもAさんは「変に淋しい気」がします。
 家に帰って妻に語っても、この気持ちの正体ははっきりとはしません。
 一方、仙吉くんはあの人ってひょっとして神様かも、困った時に現れないかなと思っています。

 ここからが、文学者の間で議論になる部分なんですが、「作者」の声が登場します。
 ここで作者は筆を置くという内容から始まり、小僧がお店の台帳に書かれた住所を調べて訪ねてみると小さい稲荷の祠だったという終わり方にしようかと思ったけれど、あまりにも仙吉に残酷すぎるから止めた、というものです。

 単純に贈与をすることが利他につながるのか?
 利他という行為についての難しさが、ここには描かれていると思います。
 ちなみに、ロシアの作家チェーホフの短編「かき」でも同じテーマが扱われいています。
 僕自身も去年、利他について気になって、様々な本を読みました。
 未だに答えは固まっていませんが、伊藤亜紗さんが執筆した「『うつわ』的利他ーケアの現場から」がヒントになる気がしています。
 利他とは「うつわ」のようなものであり、常に相手が入り込める余白を持つことで、相手を「享ける」ことが出来るのではないか、と考えています。
 えらく抽象的な話になってしまいましたが、自分からアプローチしたり、自分だけの正義をおしつけるというよりは、相手のお願いを受け入れる、その為の「余白」がある人の方が、誰かからお願いもされやすいのかな、と僕は思いました。

 ふと、SKE48の中で、利他につながる「余白」を持っている人は誰だろう、と思いました。
 僕が思い浮かんだのは、5期生の市野成美。
 なるちゃんです。


 彼女はSKE48のシングル選抜になったり、総選挙でランクインしたり、ということはありませんでした。
 しかし、彼女が活動した6年半の間に582回ものステージに立ちました。
 劇場を守り続けた彼女はどんな人だったのか。
 まずは、2013年4月15日の研究生公演で読まれた彼女への手紙から確認してみましょう。

「なるちゃんへ

 14歳のお誕生日おめでとう。
 

 なるちゃんとは同じ誕生日で、運命的な出会いをしたね。一緒に写メ撮ったの覚えてる?

 なるちゃんが公演に出始めた頃は、振りや立ち位置があやふやなところがあって、この子大丈夫かな?って心配した時もあったけど、今じゃ沢山アンダーに出て活躍しているなるちゃんを見て、安心しています。これは、なるちゃんが毎日毎日練習を重ねてきた成果だね。

 そして、その成果のお陰でチームEへの昇格おめでとう。師匠はとっても嬉しいです。これからはチームEとして、先輩として、頑張ってね。なるちゃんの活躍を楽しみにしています。

 いつもしつこいぐらいにひっついてくるなるちゃん。私はいつも鬱陶しがってるけど、ほんとはかわいいなーって思ってるよ。

 これからもかわいい弟子でいてください。今度また一緒に遊園地に行こうね。なるちゃんにとって、素敵な1年でありますように。

 師匠の絵未梨より 」

 ううむ、いきなり彼女の師匠である4期生の小林絵未梨さんの手紙を持ってきましたが、誰しもが、最初から出来ていたわけではなく、SKE48に入ったなるちゃんが、努力の積み重ねで出来るようになっていたということが伝わってきます。
 それでは逆に、まだSKEに入った頃のなるちゃんは、どう過ごしていたんでしょう。師匠である小林絵未梨さんに送った手紙から確認していみましょう。

「絵未梨さんへ


 お誕生日おめでとうございます。

 

 私はSKEに入った頃、研究生の先輩では斉藤真木子さんやエンジェルさんとはすぐ話せるようになったけど、見た目が怖かった絵未梨さんには近づけませんでした。

 でも、先輩たちが卒業や昇格でだんだん少なくなって、残った研究生でレッスンや公演ををするようになってがんばっている絵未梨さんを見て、どんどん尊敬するようになりました。

 今では尊敬し過ぎて『この曲ではここが絵未梨さんの声が一番聴こえるパートだ』とか『このパートの絵未梨さんの顔は見逃したらいけない』とか私の耳や目が絵未梨さんのために勝手に進化していきました。キモイですか?

 公演で披露する曲が変わって、ポジションの発表がある度に、私は絵未梨さんのポジションを見て、『どうして?絵未梨さんはもっと前でしょ?絵未梨さんにはもっと前で踊ってほしい』って自分のことのように悔しかったです。それは一生懸命がんばる絵未梨さんを見てきたからです。それでも何も言わずに与えられたところでがんばる絵未梨さんが大好きでした。

 3月の初めに4月生まれの生誕Tシャツをデザインすることになった時、『なるちゃん、私、最後の生誕Tだからお揃いにしようよ』って誘ってくれたこと、本当に嬉しかったです。嬉しすぎて上手く描けるまで、何回も何回も描き直しました。


 私に急なアンダーで声がかかって不安そうにしていると『がんばって。なるちゃんならできるよ』って励ましてくれたり、終わるといつも『大丈夫だった?』ってメールで心配してくれました。絵未梨さんに「がんばって」って言われると何でもできる気がしました。

 握手会の後、私が誰とも時間が合わなくて、一人でいた時、『なるちゃん、一緒に遊びに行こう』って声をかけてくれたり、『弟子にしてあげる』って言ってくれたり、本当にたくさんの『ありがとう』を言いたいです。

 卒業してしまうことは初めは知らなくて、でも色んなことで何となく気づきだして、でも怖くて聞けませんでした。4月に入ってからはこのまま時間が止まってしまえばいいのにって何回も思いました。

 そして、ガイシホールでのコンサートで昇格発表がありました。私は自分の名前が呼ばれた時、一番に絵未梨さんのことを考えました。絵未梨さんがこんなにもがんばってきて昇格できずに卒業していくのに、私なんかが昇格していいの?って苦しかったです。絵未梨さんは『おめでとう』って笑ってくれました。本当は悔しかったはずなのに笑ってくれたんだと思います。

 そんな私の大切な師匠の絵未梨さんがもうすぐいなくなってしまうなんて信じられないです。それでもその日はもうすぐ来ます。SKEじゃなくなってもずっと私の師匠です。私にもいつか弟子ができるぐらい、もっともっと努力していきます。

 私は14歳の1年はがんばるので、絵未梨さんも19歳の1年をがんばってください。

 あっ、書き忘れてました。絵未梨さんが私に一番最初に話しかけてくれた言葉は『誕生日一緒なんだよ。写真撮ろっ』でした。覚えていますか?

 絵未梨さんのその時の髪型はポニーテールでした。合ってますか?

 なるちゃんより」

 何故、師匠がこのポジションなのか、もっと前で踊ってほしい。
 このなるちゃんが師匠に抱いた思い、これはひょっとすると、公演をじっくりと見ているファンの方々も抱いていた思いかもしれません。
 師匠との別れを経験した彼女はそれでも、努力を続け、数々の公演に出ます。
 それは先輩、同期、後輩を問わず、多くのメンバーが頼りにする存在になっていきます。

 そうそう、手紙の中にある「いつか弟子ができるぐらい」この言葉は、今読むと非常に感慨深いものがありますね。
 実は、彼女にも弟子ができます。
 8期生の深井ねがいちゃんです。
 2018年1月23日に行われた青春ガールズ公演で読まれた手紙を読んでみましょう。


「ねがいちゃんへ

 15歳のお誕生日おめでとう。
 

 私が出会ったばかりの頃のねがいちゃんは不安な顔で踊って、レッスン場の隅で『できないです』と泣いてばかりでした。


 いつからなのかハッキリとは覚えていないけど、ねがいちゃんは私のことが好き、そして私のことを師匠と呼んでくれています。

 そんなねがいちゃんから悩み相談のLINEが来た時、私は話を聞いてあげることしかできなくて、自分はほんとに頼りないなと思いました。

 でも、最初はつらいことばかりかもしれないけど、一生懸命やっていれば誰かは必ず見ていてくれるはずで、私はそう思いながら活動しているし、そしたら私はたくさんの素敵なファンの方に出会えたんだよっていう話をしました。

 LINEがきた時は『ねがいちゃん大丈夫かな?』って思ってたけど、最後には『まだ頑張ってみます』そう言ってくれて私は安心しました。

 たまにねがいちゃんのファンの方が握手会に来てくれる時、とてもいい方たちばかりだなっていつも思っています。

 私が『青春ガールズ』公演に出るようになって、ねがいちゃんと一緒のステージに立っていると、最初の頃のような不安な顔はなく、全力で楽しんで、歌って踊るねがいちゃん。そんな素敵な姿にみんな惹かれているんだなと思います。

 これからどんどん成長するねがいちゃんをファンの方と一緒に見守っていきたいです。

 挨拶すると恥ずかしそうに小声で返してくれるねがいちゃん。話しかけると顔が真っ赤になるねがいちゃん。私が疲れて座っていると凄く心配してくれるねがいちゃん。どんなねがいちゃんも私は全部全部大好きです。


 何か悩み事がある時、私でよければ何でも話してください。いつでも連絡待ってます。


 改めてお誕生日おめでとう。15歳の1年が素敵なものになりますように。


 次はE公演で一緒のステージに立ちたいです。


 市野成美より 」
 

 かつての自分のように不安な気持ちを抱いていた後輩の受け皿に、「余白」を持った存在になれるように彼女もなっていたことが分かります。

 この翌月の2月18日のチームE公演で卒業発表をします。
 
 ここから彼女は、一緒に劇場で踊ってきた仲間たちに伝言を残すかのような様々な手紙を書いていきます。

 2018年3月8日にのチームS「重ねた足跡」公演で読まれた手紙を読んでみましょう。

「 

 あいあい、お誕生日おめでとう。

 7期生を初めて見た時に凄いダンスが上手い子がいるって思ったのがあいあいで、その時に私はあいあいに惹かれました。

 まだあいあいが研究生だった頃、たくさんアンダーに出てくれたり、私が研究生公演に助っ人に行ったり、公演で関わることが多かった気がします。

 マネージャーさんにお願いされたら何日前だって、何時間前だって「わかりました、できます」そう言って公演に出ている姿を見て、私は自分を見ているようでした。


『市野ならすぐできちゃうもんね』


 私はこの言葉が凄く嫌いです。
 みんな同じ人間だし、ダンスも歌も覚えるのが簡単な人なんていないのに、スクランブルでの出演でも間違えることが少ないから、みんなからはきっと『簡単にできちゃう人』って思われてるんだろうなって思ってました。


 そう思っても、ファンの方や誰かが一人でも『よく頑張ったね。えらいね。本当に凄い!』そう褒めてくれるだけで頑張って良かったって思えるんだよね。きっとあいあいあもそうだったと思います。


 公演で共演しているうちにあいあいあのことをたくさん知って。きゅうりが好きだということを知りました。

 その時にあいあいあのことをきゅうり会のメンバーに誘ったよね。

 5、6人もいたきゅうり会ももう二人になっちゃったね。

 私が会長のはずなのに、予定を立ててくれるのも、きゅうりを持ってきてくれるのも全部あいあいだったね。

 『なるさん、いつもなーんにも持ってこない』っていうあいあいの言葉に『会長は食べる気持ちだけ持ってこればいいんや!』って反抗してごめんね。

 あいあいとお出かけしたこと、ご飯に行ったこと、全部全部楽しかったよ。

 あいあいといたら二人でしょーもない話でずっと笑いあってたよね。期性は違うけど、こんなにも仲良くなってくれてありがとう。

 4月からはお友達になりたいです。なるちゃんって呼んでほしい。

 私が卒業発表してからすぐに連絡をくれて会った時も『ねぇ、なるさん勝手に発表しないで。嫌だー、寂しい』って言ってくれて嬉しかったです。もうこんなにも近くであいあいの頑張りを見ることはできないけれど、ずっとずっとどこかで見守っています。

 悔しいこと、悲しいこと、もちろん嬉しいことも私でよければいっぱい話してください。力にもなれるように頑張るからね。

 あいあいのファンの皆さん、お手紙を書かせてくださってありがとうございました。

 あいあいの16歳の1年が笑顔で溢れる素敵な年になりますように。

 大好きだよ。

 チームE 市野成美より」

 なるちゃんと同じように劇場を守り続けてきたあいあい。
 僕が印象に残っているのは、2017年12月17日の昼公演で、急遽、森平莉子さんが休演となり、あいあいがスクランブルで出演することになりました。この昼公演中によこにゃんが体調不良で途中ではけることになります。
 結果、17時の公演ではよこにゃんが休演となり、なるちゃんがスクランブルで出ることになります。
 この日は公演前のアナウンスでスタッフの方が「今頑張って市野が覚えてると思うので、少し開演が遅れます」みたいなことを言っていたそうです。
 なんで、このエピソードを挙げたかというと、さきほどのあいあいへの手紙に書かれた「市野ならすぐにできちゃうもんね」という言葉が強烈に残ったからです。
 最初の絵未梨さんの手紙からも分かりますが、なるちゃんも加入当初からなんでも出来ていたわけでもないですし、この手紙からも努力の集積で公演のパフォーマンスが出来ていることが分かります。
 気づけば彼女の「余白」はどんどん埋まっていってしまったのかも知れません。
 
 そんな彼女にとって、苦楽を共にした先輩メンバーとの関係は癒しだったのかも知れません。2018年3月19日に行われた犬塚あさな生誕祭で読まれた手紙を読んでみましょう。 

「あさなさんへ

 あさなさん、お誕生日おめでとうございます。

 あさなさんには研究生の時からほんとにたくさんお世話になりました。

 チームが離れてしまってから公演も一緒に出れなくて、絡む機会も減ってしまったけど、会った時はいつでも『よーちよちよちよち♪』って私のことを甘やかしてくれるあさなさん。

 『まーた顔小さくなったねぇー♪ もうそろそろ無くなるよー♪』ってよく言ってくださるけど、小さくなってないし、無くならないので安心してください。

 少し前まで学生だった私は制服姿のあさなさんに『コスプレ!おばさん!無理しないでー!』ってたくさん言ってごめんなさい。

 ちなみにもう間もなく私もコスプレになります。

 あさなさんの頭はくるくるぱーだから『あさば』って呼ぶねって言ってごめんなさい。

 くるくるぱーだなんて思ってないです。

 あさなさんと握手会の合間やホテルで夜中まで勉強したこと。勉強ではあさなさんしか頼りがいませんでした。

 イチから全部わかりやすく教えてくれたのに、寝たら忘れる系の私はテスト当日になるとすべて頭からどっかに行ってしまうため、『テスト何点取れた?』と言ってごまかしていましたが、いつもそんなに取れていませんでした。

 これから先、あさなさんと会うことがほぼ無くなってしまうから、私の勉強面が不安です。

 教えてもらってもできないのに、教えてもらわなかったらどうなってしまうのでしょうか。困った時は連絡します。

 今までたくさん教えてくれてありがとうございました。

 全部に一生懸命で、メンバーのことをよく見てて、先輩だけど話しやすくて、たくさんイジっても笑って許してくれる、そんなあさなさんが大好きです。

 2年ぐらい前から遊ぶ約束しているのに全部実現(手紙は『現実』の誤字)できていないので遊びましょうね。

 暇な時、連絡くれたらいつでも駆けつけます。

 私はもうすぐ辞めてしまうけど、あさなさんにお手紙を書くことができて嬉しかったです。あさなさんの生誕委員の皆さん、ありがとうございました。

 あさなさんにとって素敵な1年になりますように。


 SKE48チームE 市野成美より」

 ううむ、なんか、2018年の3月というのは、なるちゃんにとって物凄く濃い1か月間だったのではないかと思います。 
 先輩だけではありません。
 後輩からも彼女が慕われていることが分かるものがあります。
 2018年3月26日にSHOWROOM配信で行われた、市野成美レッスン場卒業公演で読んだどんちゃんからの手紙を読んでみましょう。

「なるさんへ

 卒業おめでとうございます。

 6年半お疲れ様でした。

 なるさんとはいつからかグッと距離が縮まって、一緒にいることが多くなりましたね。

 思い出を少し振り返ってみましょう。

 楽しかった東山動物園。

 おいしかったナン。
 
 新作が出る度に行ったスタバ。

 唯一無二のクールポコ。

 雪の日も通った真木子さんの家。

 3人で過ごしたクリスマス。

 ここには書ききれないほどの思い出がたくさんあります。楽しかったね。

 

 あっ、あと毎週楽しみにしていた『愛してたって、秘密はある。』

 色々ありますね。

 公演で頑張るなるさんの姿は誰よりも輝いていました。

 なるさんが毎回全力越えのパフォーマンスをするから私ものびのびと全力以上の全力で私らしいパフォーマンスをできました。

 これからはもういないんですね。本当に寂しいです。

 いつも真木子さんと3人で一緒にいたけど、これからは真木子さんと二人だけなんですね。

 誰が真木子さんの着替えを手伝うんですか?

 なるさんから卒業理由を聞いた時、納得したし、素直にかっこいいと思いました。

 なるさんは芸人寄りのアイドルと言われることが多かったと思います、たぶん。

 でも、どんな時もファンの皆さんに弱音を吐かないところ、ずっと笑顔なところ、それができるなるさんはアイドルのプロだと思っています。

 6年間、ずっとSKE48劇場を守ってくれて、私たち後輩に素敵な姿を見せてくれてありがとうございました。

 そして、明日のチームE卒業公演楽しんでください。

 大好きです。

 SKE48 チームE 福士奈央」

 最終公演前日の夜に、特別に後輩に送り出してもらえる彼女の人望が伝わってきます。そして、一緒に踊ることで周りのレベルも引き上げていくところも本当に貴重な存在だったということが分かります。
 そして、いよいよ、卒業公演の日がやってきます。
 まずは、2018年3月27日に行われた市野成美最終公演で読まれた斉藤真木子からの手紙を読んでみましょう。

「なるちゃんへ

 2度目のお手紙になります。


 先日マネージャーさんからお手紙のお話を聞いた時は「えっ?2回目?」ってちょっとㇺッとして、手紙を書いて欲しいのはむしろこっちのほうなんだけどなーとまで思いました。


 今までなるちゃんには色んな思いをその都度伝えてきました。

 改まって言葉にするなんて1ミリもないと思ったけど、2014年の生誕祭でなるちゃんに書いたお手紙、今でも大切に持ち歩いてくれて、ことある毎に読み返してくれて、挙句の果てには現在ボロボロになってしまったということなので、これで更新してほしいと思います。


 6年半か。初めて会った日のことすら思い出せないぐらい昔だけど、なるちゃんはいつも私の背中のすぐ後ろを歩いてきてくれました。

 前の手紙にも書いたかな?昔のなるちゃんは思ったことや感じたことを素直に言葉にできなくて、いつも誰かの陰に隠れていた。懐かしいね。

 そんななるちゃんがいつしか自分のあり方を確立して、誰からも愛され、SKE48にとって必要不可欠な存在になっていく姿は本当にたくましく、誇らしかったです。


 なのに、まさか私より先に卒業していくなんて。勝手ながら私のSKE人生の最後を見送ってくれるメンバーの一人だと思ってました。本当に勝手だよね。

 でも、みんなも口を揃えて言います。『なるちゃんだけは卒業しないと思ってた』

 言葉にすると本当に無責任。なるちゃんへの絶大なる信頼と、この期待の数々がこの6年間なるちゃんの心を苦しめていたことに気づいていながらも助けてあげられない自分がいました。

 みんなが喜んで笑ってくれたらそれでいいんですと、涙を流すなるちゃんを見た時はもうたまりませんでした。ごめんね。つらかったね。

 なるちゃんの優しさにみんなが甘えてきました。今日の今日までずっと。

 どんな時でも誰かの期待に応えようと、自分のキャパ以上の力を出してしまうなるちゃんはいつもみんなのヒーローで、困った時にはみんなが真っ先になるちゃんを求めます。そんな人って世界中どこを探してもなるちゃんしかいないはず。


 この公演が終われば4月からなるちゃんの姿はここにはありません。私の着替えは誰がしてくれるの?私のお茶は誰がくんでくれるの?私のことおんぶして楽屋に連れて行ってくれるのは誰?


 たくさんたくさん甘やかせてくれて、どんな時も私の味方でいてくれたなるちゃん。誰もが一度は通る道と言われている私をずっとずっと通り過ぎないでいてくれてありがとう。

 私はずっと後輩には一度だって弱音やカッコ悪い部分なんて見せたくありませんでした。昔から私を見てくれて来たなるちゃんなら一番わかってること。

 同期や親しいメンバーの卒業が相次ぎ、空っぽだった私の心を埋めてくれて、私の熱い思いもワガママも全部受け止めてくれる貴重な存在でした。今や私の右腕と呼べるほどの信頼をおいています。

 いつか私がここを去る日にSKE48としてのなるちゃんの姿があったならば、私は迷わずキャプテンに選んでいたはずです。そんな未来がくることを密かに楽しみにしていたんだけどなと。

 この先どんなに沢山後輩ができても、『あのね、昔いたね、市野成美っていう子がいてね』と2割増しぐらいで武勇伝を語っておくから安心してください。

 なるちゃんのいる毎日が本当に本当に楽しくて、SKE人生の生きがいの1つでした。
 

 どう?ここまできても卒業撤回する気にはならない?今ならまだ間に合うよ。

 と、冗談はさて置き、SKE48の市野成美を卒業すると同時にみんなのなるちゃんからも卒業して、一人の女性として幸せを見つけてください。


 大好きな場所を離れて夢を追いかけるという決断をみんなで全力で応援することが今までなるちゃんからもらった幸せの恩返しです。


 6年間お疲れさまでした。今でも本当にありがとう。


 ただ、これからもお世話になるつもりです。老後の介護までよろしく頼むよ。

 

 なるちゃんの輝く未来に幸あれ。


 追伸

 実はイメチェンとかなんとか言ったけど、なるちゃんの喜ぶ顔が一つでも多く見たくて前髪を切りました。

 真木子さんより」


 毎回、思うんですが、斉藤真木子という人は本当に手紙が素晴らしいですね。「みんなのなるちゃん」という言葉が凄く印象的でしてね。
 多くのメンバーが彼女に頼りつつも、その陰で負担を強いていたのかも知れないと感じます。
 「なるちゃんだけは卒業しないと思っていた」という何気ない言葉の無責任さ。
 なるちゃんが「みんなが喜んで笑ってくれたらいいんです」とながしていた涙。
 こうして、手紙の言葉にならないと、想像のリーチが届かなかったかもしれない透明な悲しみ。
 「鉄人」とか「職人」とかいうのは、簡単ですが彼女が利他的に余白をSKE48に差しだしてくれた代わりに僕らは、何かを時間がかかっても贈与できていたのか、と考えてしまいます。
 

 同じく、卒業公演で読まれた古畑奈和ちゃんからの手紙を読んでみましょう。

「成美へ

 成美とは同じ5期生としてSKE48に加入しました。

 最初の印象はキッズダンサーです。

 ダンスが超人並みに上手で、笑顔がハツラツとしていて、本当に本当に可愛いです。

 だけど、5期生の中で年下メンバーの成美は自分の気持ちを表すことのできない恥ずかしがり屋で、控えめな子だったなと、今とは少しだけ違うモジモジした成美も大好きだったよ。

 成美はSKEに一緒に入った時からずーっと可愛い妹のような存在で、私が何も考えずに心から笑顔になれ、明るくいることのできる本当に不思議な存在でした。

 成美の無邪気さ、元気さ、明るさ、負のオーラを感じさせない太陽とか青空とかこんなにもキラキラで優しさを感じさせる言葉が似合う人っているのだなーって思いました。

 それとプロという言葉もしっくりきます。
 劇場公演に対する気持ち、誰よりも熱くて芯のある人。そして、尊敬と同期としての誇り。私にはできないことを成し遂げてしまう成美が本当にかっこよかったです。

 このお手紙を読み終えたら、成美とのSKE人生も終えてしまうのかと思うと今までのこの時間が当たり前だった分、寂しくて仕方ありません。

 だけど、次に進む成美を全力で応援したいと思います。

 ずっとずっと、ずっとずっとSKEに入った時から今の今の今まで、今からもずーっと大好きです!

 本当に本当にありがとう。


 ありがとうございました。」

 奈和ちゃんの手紙の中に出て来る「太陽」という言葉が凄く印象的ですね。
 同期だからこそ、知っているなるちゃんの変化と成長を感じさせる内容でもあります。
 最後に何度も大好きな時間を意識させる言葉と感謝の言葉を重ねるところも奈和ちゃんらしくていいですね。

 さて、最後は同期であり同い年である江籠ちゃんの手紙を読んでみましょう。

「なるちゃんへ


 卒業おめでとう。

 卒業発表があってから今日まで本当にあっという間だったように感じます。

 なるちゃんは同期で、唯一の同い年で、気付いたら周りから『えごなる』って呼ばれるようになっていて、私にとってもずっと隣にいるのが当たり前の存在。

 昔はくだらないことでケンカして、二人で意地を張って、絶対口をきかないってバチバチしたり、ホテル同室だった時に二人で夜更かしして遊んでたら次の日寝坊して怒られたり。

 そんな私たちが今では焼き肉を食べながらお互いの将来について話したり、本当に大人になったなとしみじみ思います。

 私は本当に心を許せる人ってあんまりいなくて。でも、なるちゃんの前では常に自然体でいられたり、凄く貴重な存在だったよ。

 特にここ何年かは同じ学校に通っていたこともあって、他にどのメンバーより、もしかしたら家族よりも一緒にいる時間が多かったかもしれない。

 学校での何気ない時間も、放課後寄り道してアイスを食べたりしたことも、とにかく全部楽しい思い出だったよ。

 でも、きっとなるちゃんがいなかったら違ったと思う。SKE48のメンバーの『えごなる』じゃなくて、友達として私と仲良くしてくれて、時には支えてくれて、本当に感謝してます。ありがとう。

 そんななるちゃんから卒業の話を聞いた時、『私の卒業なんかで誰も泣かないと思うな』って笑いながら、でも少し寂しそうに話していたのは凄く覚えています。

 いざ卒業発表の日、たくさんの仲間やスタッフさん、みんなが涙してたよね。

 発表があってから今日まで、なるちゃんってほんとにたくさんの方から愛されてきたんだなって感じる瞬間が凄く多くあって。

 それはほんとになるちゃんの人柄の良さだし、SKE48として活動してきた6年半のすべてだと思う。それって本当に普通のことじゃないし、ほんとにほんとに凄いことだと思うよ。

 一人の人としてほんとに尊敬します。

 『卒業しても関係は変わらないから』この言葉が凄くつらかったです。

 関係は変わらなくとも、周りの環境や一緒にいた仲間、みんな変わっていっちゃうんだなって7年目にして同期の卒業、近くにいた人の卒業がこんなにも寂しいものなのかと改めて感じています。

 いつも一緒にいたから卒業する時も一緒なのかなって勝手に思ってました。なんか涙を見せたら負けな気がしてたから。なんか目薬だとか言って強がってたんですけど、ほんとは置いてかないでって寂しい気持ちでいっぱいです。

 だけど、なるちゃんが決めたこと。新しい夢を語るなるちゃんは凄くキラキラしてて、物凄く輝いているので、それが叶うように私も今までみたいには近くではいられないかもしれないけど、心は一番近くでずっと応援してます。

 これからは一番の友達でいてね。

 大好き!

 6年半本当にお疲れ様でした。

 江籠裕奈より」

 いやあ、手紙の中の「私の卒業なんかで誰も泣かないと思うな」という言葉の悲しさ。僕はSKE48を好きになった時に、ちょうど5期生が入ってきた時だったので、彼女たちには特別な思いがありますが、このえごなるのコンビがSKE48の未来だと考えていました。だから、SKE48の足腰であり、48グループの強みである劇場を守ってきたなるちゃんの卒業は、とてもショックでした。
 でも、今考えると、それすらも「なるちゃんがこれからも劇場を守ってくれる」というこちらの勝手な押し付けだったのでは、と反省しています。
 卒業時のスピーチで、なるちゃんは「この6年半、劇場公演をずっとずっと大切にしてきたけど、そこだけで使われるのも嫌だなって思っていた。もっともっと色んなところに出たかったなって今も思ってます」と本音を明かしました(『ここに入って良かった』と語っていたことも付け加えておきます)。
 これは大いに反省すべきところだと思います。
 「いや、外に出て勝負できる人材だったのかよ?」という否定や「何か外で結果を残せてないから劇場頑張ってたんでしょ?」という指摘をされる方もいるかも知れませんが、充分なチャンスが与えられていたかというと疑問です。それは、彼女が手紙を送った後輩たちにも言えるかも知れません。
 勿論、売り上げというものが付いて回ることですので、他の数字を指標にして選抜や外仕事は選んでいくんだと思うんですが、もっとチャレンジする場があればと彼女のことを調べていると感じました。

 こうして市野成美は、SKE48を卒業しました。


 なるちゃん卒業公演についての江籠ちゃんのブログを読んでみましょう。

 https://ameblo.jp/ske48official/entry-12363970786.html

 そして、後輩目線でみたなるちゃんについて、北野瑠華のブログ。
https://ameblo.jp/ske48official/entry-12363775860.html

 ただ、僕はだーすーが書いたこのブログが、市野成美という人の本質をついていると思います。
 https://ameblo.jp/ske48official/entry-12364036186.html

 「人のために自分を削り過ぎる子。 だから壊れてしまいそうで 放っておけなくて 壊れて欲しくなくて」という部分から、彼女が優しさと引き換えに何かを削っていたのではないかと考えられます。
 須田亜香里が尊敬して信頼できる最初の後輩、それが市野成美でした。

 だーすーの言葉を借りるなら、3月の終わりに市野成美は「圧勝」して、SKE48を卒業しました。
 アイドルを辞めた彼女は一般人になってもきっと、どこかで誰かのために自分の「余白」を使っているかも知れません。きっとSKE48時代よりも上手なやり方で。

 そう考えると、SKE48に居た日々は、彼女の青春だったのかも知れません。

 それが分かる、2018年4月4日のSKE48劇場で行われたチームK2公演で読まれた手紙を読んでみましょう。

「江籠さんへ


 18歳のお誕生日おめでとう。

 江籠さんとであって6年半ぐらい。同期で唯一の同い年でしたから、初期の頃から何をするのも一緒で凄く心強かったです。

 昇格してからは、昇格先が違ったから会う回数が急激に減ってしまって少し寂しかったな。

 だからこそ同じお仕事がある時はとっても嬉しかったんだよ。嬉しいなんて絶対に口には出さなかったんだけどね。

 江籠さんと一緒だった高校3年間。同じクラスなのは1年生の時だったけど、3年間夜遅くまで学校に居残りして課題をしたり、文化祭とか修学旅行はほぼずっと一緒にいられて物凄く楽しかった。

 でも、二人で校内放送で呼び出された時ほど恥ずかしいことはなかったです。

 私よりも学校に来られる日にちが少なかったはずの江籠さん。なんで私のほうがいつもテストの点数が悪かったのかなー。何でも私だけ毎年進級が危うかったのかなー。


 きっとちゃんと空き時間を見つけて江籠さんは勉強してたんだよね。

 いつもテストが始まる10分前にヤバそうな私の所へ来て、簡単な問題だけ教えてくれたけど、覚えが悪い私は覚えることができず、何も解けなかったよ。

 でも、でもでも、申し訳なくて『教えてもらったところでてきたよ!』なんて言っていたことをここで報告します。

 ごめんね。

 仕事に対しても学校に対しても真面目にしっかりと取り組む江籠さん。いつも凄いなーっと思って見てました。見てただけで、私には絶対に真似できなかったけどね。
 

 江籠さんと一緒にいた高校生活。毎日毎日充実してて、あっという間で、凄く青春でした。

 私がSKE48を卒業すると、江籠さんのことだからきっと勘付いていたのかなーって思うけど、何も相談しなくてごめんね。

 江籠さんが好きで、好きで、大好きだからこそ、何て言えばいいのかわからなくて黙ってた。

 『卒業公演は泣けないから目薬もっていく!』って言ってたくせに、本番で泣いてる江籠さんを見て『やってやったぜ』そう思いました。

 私のために泣いてくれてありがとう。嬉しかったよ。

 私は少しでも江籠さんの支えになれてたかな?江籠さんがつらい時そばにいてあげられたかな?

 私は本当に自分勝手だから遊びに行く予定をドタキャンしたり、自分の気分がいい時だけ遊びに誘ったりてるのに、こんな私からずーっと離れないでそばにいてくれてありがとう。

 こんなワガママに付き合ってくれるのも江籠さんぐらい。同じ時期に入った同い年。それだけなのにこんなにも私にとって大きな存在になるなんてね。

 SKE48でも高校でも

一緒にいたからどっちも卒業した今、約束しないと会えないという寂しさに気づきました。

 ずっと前から約束してた明日のお誕生日会が私は楽しみで楽しみで仕方ないです。久しぶりに会うね。

 これからも私の相方でいてください。別々な道でお互い頑張ろうね。

 改めてお誕生日おめでとう。18歳、素敵な1年になりますように。


 SKE48を卒業して一般人になりました、市野成美より」

 なんだか、えごなるの二人のアイドルではない普通の女の子としての青春の情景が目に浮かんできます。SKE48に入ったからこそ、出会った二人。
 もう、なるちゃんを知らない世代も後輩たちにはいますが、きっと真木子の手紙にあったように、伝説のように語り継がれていくと思います。

 きっと、「あっという間の少女」で終わるのが正しいと思うんですが、僕は、市野成美にはこの曲が似合うと思うので、この曲で終えようと思います。

 「それを青春と呼ぶ日」


2022年1月16日日曜日

笑顔にしてくれた分だけ

 黙っていてもわかるさ

 先日、小説家の朝井リョウさんの新作「正欲」を読みました。
 作中では、3人の登場人物の視点からある事件が語られていきます。
 一人一人が思慮深く、自分の考えをそう簡単には表に出さないので、時として、周りに誤解されることもあります。だからこそ、自分を理解してくれる人、似ている人と巡り会えた時の喜びはとても大きい。
 人間の欲望が関係してくる小説で万人におすすめできる小説ではありませんが、自分が持っている他者への想像力や理解のリーチを考えさせられる小説でした。
 自分は本当に相手の事を分かろうとしているか、想像できているだろうか。また、コミュニケーションについて諦めに似た感情を抱き続けていないかとも。
 読み終えた後、好きなバンドの一つであるTHE BACK HORNの「キズナソング」という10年ほど前の曲を久しぶりに聴きました。


「そばに居るのに分からないことだらけで、何一つできないけど いつだってそばにいるよ」


 文字にすると「そばに居るだけでは?」と思いそうですが、相手に寄り添いたいという思いが感じられます。
 ふと、あるメンバーのことを思い出しました。
 それは7期生でチームEの相川暖花です。



 「誰とWセンターになりたいか?」という質問で自分ではなく、あゆうかの二人を挙げるぐらい控えめな彼女ですが、オモシロのセンスは抜群で、絶対に大喜利が強いタイプではないか、と密かに思っています。
 今回は同じチームEのメンバーとの関係性に注目しながら、ほのの像を考えていきたいと思います。


 2018年7月9日の倉島杏実ちゃんの生誕祭で読まれたほののからの手紙を読んでみましょう。

「杏実ちゃんへ

 13歳のお誕生日おめでとう。

 

 杏実ちゃんと初めて会った日、第一印象は細くてヘビみたいな子だなって思ったのを覚えてるよ。

 ちっちゃくて、ダンスが凄い上手で、キッズダンサーみたいな子でした。


 同じ研究生として劇場公演をやり始めた時、反省会で凄い反抗してきたり、ほんとに頑固で負けず嫌いで、最初はちょっと苦手だったよ。

 でも今考えたら小学生の女の子がみんなの前で発言することって凄い勇気がいることだなって思います。

 ほのは杏実ちゃんのこと、本当に尊敬しているよ。


 急に任された公演の新しいポジションもすぐ完璧に出来たり、小学生だったのに全チームアンダー制覇をしたり、私には出来ないようなことを何でも出来ちゃうから凄いなって思います。


 でも、杏実ちゃんが何でも出来るように見えるのは超能力を持ってるわけじゃなくて、時間をかけて努力した結果なんだろうなって思うよ。

 でも、だからこそ頼られ過ぎちゃって大変な時もあるよね。たまには休憩してもいいと思うよ。

 いつレッスン場に行っても杏実ちゃんがいて、練習してるから勝手に心配になってます。

 あと、杏実ちゃんは悩み事とかないのかなって思ってます。

 割と一緒にいる時間多いのに、1回も悩んでるところ見たことないから、一人で抱え込んじゃってないか心配だよ。

 私じゃ頼りないかもしれないけど、小さなことでも嫌なこととか悩みとかあったら、いつでも言ってね。きっと解決してあげれるよ。

 最初はあまり喋らなかったのに、最近は急に甘えてきたりして、本当に嬉しいよ。

『可愛くない』とか『うるさい』とか『嫌い』とかたまに言っちゃうけど、ほんとは杏実ちゃん可愛すぎるし、大好きだよー。

 改めてお誕生日おめでとう。

 杏実ちゃんの笑顔がたくさん見られる年になりますように。

 相川暖花より」

 ううむ、倉島先輩の第一印象がオモシロ過ぎるんですが、飾らない等身大の言葉で書かれた本当に良い手紙でしてね。いつレッスン場に行っても杏実ちゃんがいることを知っているってことは、ほののもレッスン場にいつもいるのでは、と読んでいるこちらが心配になってきます。
 小さなことでも良いので自分に頼ってほしい、悩みを話して欲しいと書いた手紙には、気軽に口喧嘩も出来るけれど、倉島先輩のことをもっと理解したいという優しさがあるのでは、と思います。

 次に2018年10月22日に行われた相川暖花生誕祭の手紙を読んでみましょう。
 書いたのは、倉島杏実ちゃん!
 生誕委員会の方、なかなか粋なことをされますね。

「ほののさんへ

 お誕生日おめでとうございます。

 ほののさんと初めて会った時はひと言も喋らなかったですね。

 何回かレッスンをしているうちにちょっとだけ話すようになりましたね。

 最初は全然仲がいいって感じじゃなかったのに、今は前日に行きたいって決めて一緒に遊園地に行ったり、ご飯食べに行ったり、めちゃめちゃ仲いいですね。

 今こうやってたくさん思い出があって、仲良くなれて嬉しいです。

 最初の頃は全然ほののさんのことを知らなくて、年上の先輩って感じだったけど、一緒に研究生として活動をして、凄い新しいポジションとか振り付けを覚えるのが早くて、出演しないイベントのリハーサルのアンダーも頑張っていて、正規公演のアンダーと研究生公演で10日連続の公演とかやっていて、しかも10日間毎iD回ポジションが違うくて、その日の朝に覚えてたりして、ほんとに凄い先輩なんだなって思いました。

 私が正規公演のアンダーに出るってなった時、ほののさんは優しく教えてくれました。これこそが先輩なんだな。カッコいい!って思いました。

 だから、私も今は先輩なので、ほののさんみたいに優しく教えれたり、仲良くできる先輩になりたいなって思いました。

 今は同じチームになれてめちゃくちゃ嬉しいです。

 ほののさんは一緒にいて楽しいし、面白いし、可愛いし、好きなとこだらけです。

 これからもたくさんお出かけして、たくさんお話しましょうね。

 あと、この前カルボナーラについてた半熟卵をこっそり取って、自分のミートスパゲッティに入れてた件は許さないですよ(ここでほののが『許して』と杏実ちゃんの「カルボナーラがパサパサで食べるの大変だったんですよ」という会話があります)。

 改めて本日はこんな私にほののさんの生誕祭のお手紙を任せてくださった生誕委員の皆さん、本当にありがとうございます。

 こんなに素直にほののさんと話したのは初めてです。

 あと、お手紙交換ができて嬉しかったです。いいきっかけをありがとうございました。

 ほののさんが大好きな倉島杏実より」

 10日連続で公演に出て、しかも、毎回ポジションが違うって凄すぎじゃないですか?
 これが出来る現役メンバーって、何人ぐらいいるんでしょう?
 ほのの自信が語るほのの像と、杏実ちゃんが語るほのの像では大きく違ってくるな、と感じます。めちゃくちゃ凄い先輩なのに、非常に控えめに振る舞っている気が僕にはします。
 だからこそ、応援したいとファンの方は思うのかもしれません。
 まずは、後輩メンバーとの関係から見ましたが、次は同期との視点の交差から見て行きましょう。

 2019年10月24日に行われた、相川暖花生誕祭での手紙です。

「ほののへ

 16歳のお誕生日おめでとう。

 SKEに加入してあっという間に4年半経ったね。
 

 私のほののの最初の印象は人見知りで全然話してくれない子でした。オーディションの最終審査終わりにほののに『合格しようね』って言ったら軽く無視されたのを覚えています。

 最初はしょうもない喧嘩の繰り返しで、泣きながら仲直りしてたよね。

 そんな私たちも少しは大人になったのかな?

 でも、こんなに仲良くなれると思ってなかったです。いつもこんな私と仲良くしてくれてありがとう。

 きっと、4年半SKEで活動してきて、楽しいことばかりじゃなくて、つらいこと、納得いかないこと、悔しいことたくさんあったと思います。

 ほののはあまり正直になれなくて、ファンの方にもなかなか自分の思ってることを伝えられない性格だと思います。

 それに人に求められると断れないし、無理してまでも人のためになるならっていつも動いてくれるよね。

 きっと私が思っている以上に色んな悩みを抱えてると思うし、それなのにいつもなかなか聞き出せなくてごめんね。

 頑張り過ぎちゃうところも、求められたら断れないところもほののいいところでもあります。

 でも、無理しすぎちゃだめだよ。少しはちゃんと自分のことも考えてあげてね。

 ほののを見てると何を考えているのかすぐわかります。だから、悩みがあったらすぐわかるんだよ。私で良かったらいつでも相談に乗るし、ほののの周りにはたくさんの頼れるメンバーや家族そしてファンの方がいるからいつでも頼ってね。みんないつでもほののの味方だよ。

 最後になりますが、今回生誕祭の手紙をこうして任せてくださった生誕委員の皆さん、本当にありがとうございました。普段なかなか言えないことをこうしてほののに伝えられて良かったです。

 そして、ほのの。いつでも仲良くしてくれてありがとう。私にとってほののは唯一の同期で、同い年で、同じチームの大切なパートナーです。またいつでも泊まりに行くからね。

 あっ、これだけは言っておきたいです。ほのののことを一番知っていて、一番好きなのは私だけです。

 改めてお誕生日おめでとう。願いが叶う素敵な1年になりますように。

 SKE48チームE 浅井裕華より」

 手紙の中にある「ファンの方にもなかなか自分の思ってることを伝えられない性格だと思います」というゆうかたんの言葉は、同じメンバーだからこその視点だと思います。もっと口にしても良いんだよ、というのは、ゆうかたん自身の成功経験から来ることかも知れません。そして、喧嘩しながらも一緒に成長してきた同期に、もっと報われてほしいという願いも手紙の文章からも感じられます。

 この年のスピーチでは、「自分の目標は、近くにある目標は言えなくて、ほのじゃ無理だと言われそうで言えないんです。7D2で歌をもらうという目標を叶えたいと思います。もっと正直に色々言えるように頑張ります」とほののは語っています。
 

 次に2019年11月13日の浅井裕華生誕祭で読まれた、ほののからの手紙を読んでみましょう。

「ゆうかたんへ


 16歳のお誕生日おめでとう。

 同い年になりましたね。

 この前、私の生誕祭でお手紙を書いてくれてお返しみたいな感じかな?
 

 なんだかんだゆうかたんにお手紙を書くのは初めてな気がして緊張しますが、普段伝えられないことをこの手紙に書きたいと思います。

 ゆうかたんとはSKEのオーディションで出会ってからもうすぐ5年が経ちます。出会った時はお互い小学生だったのに、今はもう高校生で、時の流れの早さにビックリします。

 5年前から凄いフレンドリーでしたね。

 出会った時のことも、SKEに入ってくらたくさん喧嘩してたことのように思い出します。

 何回喧嘩しても「気が合わない!もう嫌い!」って思ってもすぐ仲直りして、気付いたらいつも隣りにいました。

 でも、最近ちょっとだけ遠くに行っちゃった気がして寂しいって思う時もありました。

 ゆうかたんにとって15歳の1年は大忙しな1年だったと思います。きっと夢だった選抜メンバーに抜擢されたり、センターに立つ機会も増えて、去年よりも輝かしい1年になりましたね。

 でも、その分大変で、つらいこともたくさんあったと思います。

 活躍すればするほど、悩みは増えて行くと思うし、大変だと思います。

 その悩みを私が少しでも解決してあげられたらいいなって思うけど、同じ立場でわかってあげられることができないから私にはわからない悩みもたくさんあるんだろうなって思います。それが悔しいし、寂しいので、私もゆうかたんに追いつけるように頑張らなきゃって思います。

 ゆうかたんは負けず嫌いで、強がりで、努力家だからちょっと心配になる時もあります。皆どんなゆうかたんでも受け止めてくれると思うので、もっとわがままになってもいいと思います。たまに休憩することも大切だからね。

 改めて、ゆうかたん、お誕生日おめでとう。

 自慢話でもくだらない話でも何でも何時間でも聞くので、16歳の1年も隣にいてください。少しでも頼りになれたら嬉しいです。

 あと、早く上村亜柚香と3人でお揃いの服着て遊園地行こうね。

 大好きだよ。

 楽しい1年になりますように。

 相川暖花より」

 もう、なんというか、ほののの誰かへの優しい言葉に読んでいて涙が出そうになります。
 先に選抜になった同期への思い、相手のことが同じ立場で分かってあげられない悔しさや寂しさ。これは、相手のことを理解したい、力になりたいというほののの優しさを感じられる素晴らしい手紙だと思います。

 そんな彼女の姿を見ている先輩はきちんといます。

 たとえば、この人も。

相川暖花ですー! | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

 頑張っている姿は、ちゃんと見ている人は見ていると、こういうブログを読んでいると感じます。
 理解してくれる人たちがいるから、自分も周りの人たちの力になりたくなる。

 運営さんには、是非、ほののがこれからものびのびと活躍できる場を守りながら、新しい場も与えて欲しいと思います。
 たとえば、コロナ禍でのTwitterでの「どや」シリーズの動画では、ほのののクリエイティビティを感じました。運営さんには是非、彼女にショートムービー系の売り出しをしてみてはどうかと思います。一言もしゃべらずに面白い動画を自力で作れる才能は、言語が必要ない分、世界的にも勝負できるのではと思います。
 

 そして、今回ほのののことを調べながら感じたのは、静かに流れる誰かの夢や目標を冷笑する空気です。でも、ほののには、あなたも夢を語っていいんだよ、応援してくれる人、支えてくれる人は沢山いるんだよ、欲張ってもいいんだよ、君の番がちゃんと来るんだよ、ということを伝えたいです。

 2022年もほののが笑顔にした人たちと同じ分、ほののにも笑顔になることが沢山ありますように。

 

明日の中坂は君だ!

 何度でも生まれ変わる

 新潮新書から刊行された「平成のヒット曲」が面白いです。
 著者はロッキング・オン社で「ROCKIN’ON JAPAN」や「BUZZ」、「rockin'on」の編集に携わった音楽ジャーナリストの芝那典さんです(現在は独立)。
 平成の30年間のヒット曲を社会で起こった事象と結び合わせて読み解いていく丁寧な仕事ぶりは、ぜひ本書を手に取って確かめていただきたいです。
 たとえば、hideの「ピンクスパイダー」についての章では、hideのこの曲についての「UV」1998年5月号のインタビューを元に、日本で初めての「インターネットをテーマにしたヒット曲」だと述べます(ただし、警鐘を鳴らしていたのではと分析もしています)。さらに、hideは将来、CGでかんっぺきなヴィジュアルのアーティストを作って自分が音楽を作り、そのアバターがライブをするということを生前語っているインタビューを引用します。この辺りも、初音ミクを初めとし、現在のVtuver文化を予見していたとhideの先鋭性を語っています。

 ちなみに、48グループからは「恋するフォーチュンクッキー」が2013年の代表曲として挙げられ、平成というモラトリアムの時代と結び付けて語られています(こちらも面白かったです)。個人的には、他にも欅坂46の「サイレントマジョリティー」が2016年に入ってもいいかな、と思ったり、美空ひばりの「川の流れのように」が平成の肯定を秋元康が歌ったのならば、AKB48の「RIVER」を対極にすえるべきでは、など読みながら思考が刺激される素晴らしい1冊です。
 僕個人としては、惜しくも漏れてしまった48と社会の名曲として、AKB48の「365日の紙飛行機」を挙げたいと思います。2017年に発表された曲ですが、歌詞は未だに色あせない普遍性があると思います(ちなみにこの年は星野源さんの『恋』があげられています)。

「ずっと見てる夢は」からサビまでのくだりが僕は好きで、誰もが一度は感じる「なりたい自分と現在の自分」とのギャップについて考えさせられます(全然、関係ないですが聴く度に神門さんのお姉さんのエピソードを思い出して泣きそうになります)。

 「なりたい自分と現在の自分」のギャップを埋めるためには、やはり、行動が重要になってくるのかなあ、と僕は頭をかきながら考えます。でも、その行動に移す勇気が果たして持てるか?
 そんな気持ちを後押ししてくれるアメブロを発見しました。

 中坂美祐さんの1月14日のアメーバブログです。

☆中坂美祐☆オーディション! | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

 ううむ、行動するための勇気をもらえるブログですね。
 中坂さん自身もオーディションが一発で成功したわけではなく、周囲の方々に支えられながら夢へと進んでいったわけですね。
 個人的には、ダンス未経験でも大丈夫なことや年齢制限がないことを書くことで、これからオーディションを受けるか迷っている方々の背中を押す内容になっていますね。

 「オーディション」のアメブロで覚悟という言葉がでてきましたが、確かに彼女には「覚悟」を感じるブログが沢山あります。

 たとえば、珠理奈とちゅりの卒業コンサートについて書いたこちら!

☆中坂美祐☆今後のSKE48! | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

 それはグループ全体のことだけでなく、自分の日常の発信についてもです。

☆中坂美祐☆コミュニケーション! | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

※ちなみにティーンズユニットについては、こちらのブログも「覚悟」が伝わってきます。

☆中坂美祐☆ティーンズユニットについて! | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

 ただ、中坂さんについては、彼女自身も語っていますが、「普通の女の子」の面も勿論あります。
 たとえば、中学生時代のエピソード。

☆中坂美祐☆JCライフ♪ | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

 たとえば、性格について。

☆中坂美祐☆中坂について③ | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

 なんだか、自分に似てる部分があるかも、と親近感を抱いた方もいるかも知れません。
 さらに、子供の頃からSKE48ファンでもありました(ひょっとすると、今もプレイヤー兼ファンかも)。

☆中坂美祐☆ヲタ坂① | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)


 さて、中坂さんはダンスが未経験だったそうです。
 それでも「ダンスのSKE48」に入ったことに熱い思いを抱きます。
 2021年2月8日のブログを読んでみましょう。
☆中坂美祐☆ガチアレ | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

 いやあ、メンバーだからこそ分かるそれぞれのダンスの個性が参考になります。また、ダンスへのモチベーションを感じられる素晴らしいブログだとも思います。
 実際に彼女はダンスについて努力をしていることが伝わるブログがあります。
 たとえば、珠理奈からかけてもらった言葉のブログ。

☆中坂美祐☆ 松井珠理奈さんからの心に残った一言! | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

 「一人じゃ上手くならない」、いやあ、これはトップで活躍してきた珠理奈だからこその言葉ですね。
 実際にこの言葉の考えを取り入れたトレーニングでで同期との関係が深まったというのも良いですね。
 ちなみに、同期といえば、なーやんからのこの言葉のブログも彼女の成長を促したかもしれません。

☆中坂美祐☆女の子に磨きを! | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

 自分たちはお客さんから様々なメディアで観られる側であるということを意識させられるブログです。
 関係に恵まれたのは、メンバーだけではありません。
 学校の友達にも恵まれました。この辺りは「オーディション」のブログにも書かれていましたね。

☆中坂美祐☆中学卒業! | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

 「オーディション」のブログに書かれていた言葉が一つ、一つ、彼女の実際の経験を元に書かれていたことがより明確になってきたと思います。
 そうそう、ダンス未経験と書いていた彼女がどうなったか。このブログの動画をご確認ください。

☆中坂美祐☆新世代コンサートオフショット! | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

 2021年の最難関曲「根も葉もRumer」踊ってるじゃん!と僕は驚嘆しました。
 勿論、この影には彼女のたゆまぬ努力があったと思います。
 これ、もっと褒められていいことだと個人的には思っています。

 成長していくために、彼女は毎月のように目標を立てて行きます。
 それは上手くいくことばかりではありません。
 ☆中坂美祐☆ありがとう。ごめんなさい。 | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

 でも、そんな等身大な彼女だからこそ、中坂さんファンの方々が応援したくなるのかも知れません。全部の目標がすぐに叶えられるわけではない。だからこそ、明日も挑戦する。行動していく。
 

 「平成のヒット曲」では、彼女が生まれた2005年はDREAMS COME TRUEの「何度でも」が挙げられています。
 中学生の頃の僕はなんだよ、ドリカムって、仕事とか社会のことよりも恋のことばっか歌ってる人達だろ、と思っていました。しかし、この「何度でも」はむしろ再生の歌ですし、ファン投票でも「LOVE LOVE LOVE」や「晴れたらいいね」などの名曲をおさえて1位になったそうです。

 改めて聴いてみると、曲中の「君」は大切な人のようにも聴こえますし、目標のようにも聴こえます。

 きっと中坂さんはまだまだ変わって行くと思います。
 日常でステージで。
 彼女自身がそう願っているように。

☆中坂美祐☆中坂、変わります。 | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

 最後に、「平成のヒット曲」のように、中坂さんのヒット曲を自分なりに探してみした。
 皆さんは何がいいでしょう?

☆中坂美祐☆好きな曲① | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

 このブログの中にある「自分の意志を強く持った」人が11期生で入ってくることを想像しながら、このブログを終えたいと思います。

2022年1月9日日曜日

きっかけ

それは言葉ではごまかせない世界

 慶応義塾大学特別招聘准教授であり、進化思考家の太刀川英輔さんの500ページ以上の大著「進化思考」が面白いです。
 生物が生き残るための進化のコンセプトを9つの「変異」と4つの「適応」に分けて、自分のアイディアをより良いものにするための応用方法が書かれています。
 9つの「変異」中に「転移」という項目があります。
 人でもモノでも、今までとは違うところに移すことで、新しい価値が生まれるのではというものです。
 たとえば、クマノミがイソギンチャクの中に安息の地を見つけるのは生物としての「転移」ですし、地上を走っていた電車を地下道に走らせるのはアイディアの「転移」です。
 人にも同じことが言えます。
 これまで活躍していた場とは違う場所に「転移」することで、新しい価値が生まれる。
 そういえば、2014年に行われた「大組閣」もそういうコンセプトだったなと思います。
 この本を読みながら、思い浮かべたメンバーがいます。


 SKE48のチームK2の荒井優希さんです。


 僕は荒井優希さんが嫌いでした。
 いや、大嫌いでした。
 顔も苦手でしたし、喋り方も苦手でした。
 その根底にあるのは、彼女が持つ得体の知れなさ、分からなさだったのでは、と僕は思います。かつて、オリエンタルラジオがかつてラジオ番組で彼女のことを面白がっていましたが、僕は全く分かろうとしませんでした。
 公式ブログを月末にアップしまくるのも、自分のブログで調べものをする時にも邪魔でした。
 さらに「SKEBINGO!」での「ゴシップ好き」というキャラクターも番組が分かりやすくデフォルメしたことを差し引いても、好きになれませんでした。
 そして、「おしゆき」動画に関しても、一応、付き合いでいくつか見てみたものの、面白さが理解できずに見るのをストップしました。

  そんな僕の荒井優希さんの見方が変ったのは、2022年のお正月でした。

 たまたま、youtubeで「あなたへのおススメ」で荒井優希さんの動画が登場しました。
 それは東京女子プロレスにチャレンジする彼女の様子をまとめたものでした。
 何故、「たまたま」出てきたかを補足しておくと、実はプレロスが好きでして、新日本プロレスとスターダムというブシロード系列の団体を追っているからです。
 逆にノアやDDT、東京女子プロレスというサイバーエージェント系はあまり観ていませんでした。
 どれどれ、と思って再生すると、そこには僕の知らない荒井優希さんがいました。
 

 プロレス新人の女性が、ベテランのアジャコングがいるタッグに挑んでいく。 
 闘いの中で化粧はとれていき、髪も乱れ、表情もアイドルの時とは違う。
 しかし、その目の輝きはアイドル時代の彼女よりも惹かれるものがありました。
 プロレスに関して、「八百長だろ?」とおっしゃる方がいると思います。
 世界最大のプロレス団体WWEはスポーツエンターテイメントと称して、ストーリーがありハリウッド映画に携わった脚本家チームを入れていることを公表しています。
 じゃあ、何故、多くの人が会場に足を運び、世界中の人が配信で熱くなるのか?
 そこにある「痛み」や「感情」は本当のものだからではないか、と思います。
 本当は避ければ良い相手の技をわざわざ受け、会社からのプッシュを受ける同期や後輩へのジェラシーを感じる。この辺りの「感情」は、どこかアイドルと通じるものもあるかも知れません。

 気づけば僕は、荒井優希さんを応援していました。
 

 それは不思議な感覚でした。
 プロレスを観ていれば観ているほど、選手の「格」を意識させられます。 
 この選手はベテランだから「格」を落とさない方が団体的にいいから、新人には負けさせないだろうな、とか、この選手が負けるんだろうなあ、という予想をしてしまいます(逆にこの予想ができない試合が面白いんじゃないかと考えています。過去の試合では『中邑真輔対桜庭和志』とかですかね)。
 おそらく、プロレス歴の浅い、荒井優希さんが勝つ見込みは低い、でも、彼女に負けて欲しくない。
 相手の打撃や投げ技に表情を歪めながらも立ち向かう、しかし、最終的には彼女のチームは負けてしまいます。

 試合はおそらく30分もなかったと思いますが、僕の心は大きく動かされていました。

 

 「SKE48」というパッケージの中では、嫌悪感すら抱いたメンバーに何故、心を動かされているのか?
 「プロレス」という場に移すことで浮き上がってきたものは何か。
 荒井優希とはどんな人なのか?

2021年6月8日の彼女のアメブロを読んでみましょう。

 荒井優希 | SKE48オフィシャルブログ Powered by Ameba (ameblo.jp)

 プロレス界の注目度とプレッシャー、自分に任されていることと練習量、アイドルの自分とプロレスラーの自分、様々な葛藤を感じながら、彼女はチャレンジしていたんですね。
 特に練習に対する姿勢のところとか、まさにSKE48イズムを感じますし、こういうのが自分は好きだったなあ、としみじみ思いました。
 アイドルとしての自分についての考えとプロレスという新しい場についての考えは、まさに「進化思考」における「転移」だと思います。

 彼女の努力は身を結び、見事に東京スポーツのプロレス大賞の新人賞を受賞します。ノミネートされた現役のプロレスラーたちをなぎ倒してです。個人的にはスターダムの上村さん(元バイトAKB)が来るかと思っていたので衝撃でした。

 「アイドル」という物差しで荒井優希さんを拒んでいましたが、それはたった一つの尺度であり、新しい尺度で見ることで全く違う魅力が見えてきた気がします。

 ううむ、これは今まで彼女について考えることをしていなかったんですが、いよいよ彼女について深掘りしていくタイミングが来たかも知れません。
 というわけで、2022年は荒井優希さんについて考える連載も開始したいと思います(6期生鎌田さんを考える連載も続ける予定です)。

※僕が心を動かされた動画はこちら!



 ※苦手だった鎌田菜月さんについて考えていった連載はこちら!

月刊 鎌田菜月について考える|栄、覚えていてくれ|note