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2021年9月25日土曜日

家族と歩むとき

「成功」ではなく「続ける」こと


 

 最近、橋本努さんの「消費ミニマリズムの倫理と脱資本主義」という本を読みましてね。
 マックス・ウェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」を彷彿とさせるタイトルですが、筆者の橋本さんもインスピレーションを受けたそうです。
 いわゆる、「モノを捨てるべし!要らない、持たない、夢も見ない、フリーな状態それも良いけど」的なミニマリストの方々の例から、中野孝次さんの「清貧の思想」のような「いや、我慢するべし、ハードボイルドはやせ我慢」という徒然草の頃から言われるような保守的なミニマリズムまで、様々なタイプを挙げながら、ミニマリズムって精神的には禅と相性が良さそう、とか脱資本主義(ここでの使われ方としては次から次へ消費していくこと)をどうするか、ということが書かれています。
 さて、この本の前半の第2章ぐらいで強迫神経症と強迫的消費依存について語る際に引用される研究が印象に残っていましてね。
 ヴァン・ジョインズとイアン・スチュアートによる人格適応理論です。二人は「親の養育スタイル」については、ある組み合わせになると強迫神経症になると研究結果を出しています。
 ちょっと一例をみてましょう(翻訳なので句読点の多さはご容赦ください)。
① 親が養育に熱心ではなく、あてにならない場合には、子供は空想的になり、感受性が強く、思いやりがあって、風変りだが創造的で、ひきこもりになる。
② 親が子供のニーズを先取りして満たそうとする場合、それがうまくいかなくなると子供は反発し、反社会的になると同時に、魅力的に他者を操作するようになる。
③ 親の養育の仕方が感情に左右される結果として一貫性がないと、子供は疑り深くなり、明晰な思考を持つと同時に一つのことに固執するパラノイア型になる。
④ 親が過剰に子供を管理・コントロールする場合、子供はそれに従いながらも攻撃的になり、ふくれたりふざけたりしながらも、粘り強い反抗者になる。
⑤ 何か目的を達成するとほめてあげるという養育をする場合、子供は完全にその目的を達成することを強迫観念のように思いがちであり、責任感ある仕事中毒者になる。
⑥ 子供に対して親を喜ばせて欲しいと求めるような養育をする場合、子供は演技型になり、「人好き」で、物事に対して熱狂的に過剰反応するようになる。

 ううむ、全部悪く書いてるようにも感じますが、多くの方は⑤のタイプになりやすいそうです。真面目な人がよくなるそうで、「理想の自我」や「成長」を求めるうちに、消費も次から次へとと完璧を追い求めてしまいがちだそうです。
 「自己実現への欲求」は誰しも多かれ少なかれ持っているかもしれませんが、それが「新しい価値創出」や「個人による文化的な創造」ということも出来ますし、「積極的な消費」の方に流れて行くこともあると思います。それが「消費」に偏り過ぎると「強迫的消費」になってしまう。具体的には「自分へのご褒美」が過剰になってしまう。
 こうなると、親の育て方って大事ですよね。
 いや、親と子供の接し方というか向き合い方でしょうか。
 ちなみに僕は、ゴリゴリの③的な育てられ方をしましたよ(両親ともに今日と明日と昨日で意見が変わるAB型。勿論、僕もAB型)。
 ただ、親の育て方はこんな6つのタイプだけとは限らないはず!(ジョインズ、スチュアート、折角研究してくれたのに、すまん)

 そう思わせてくれるのが、深井ねがいちゃんです。
 
 彼女のSHOWROOM配信では、ご両親がよく声の登場をします。
 初めてねがいちゃんのSHOWROOM配信を観た時のことです。
 彼女が楽しく喋っている時に、何気なく「〇〇なんだよね、ママ?」と画面の向こうにいるお母さまに訪ねて、「うん」とお母様が返事をされて、時々トークの軌道修正を入れているのが印象的でしてね。
 僕は「オードリーのオールナイトニッポン」を中心にラジオをよく読むんですが、パーソナリティが一人の時に放送作家の人の何気ない笑いやコメントが聞こえた時と似ていて、なかなか面白い配信だな、と感じました。
 彼女の個性に寄り添いながらも、きちんと配信の方向を逸らさない、これは簡単なようで難しくて、番組名は書きませんがこの放送作家、パーソナリティよりも受けようとしてないか、と邪魔に感じる時もあります。
 それが無いんですよね。
 これは、トークだけではありません。
 深井ねがいちゃんの芸能活動に対するスタンスにも繋がっていると思います。

 2021年3月19日の彼女の配信の中で印象に残っている話があります。

「 私、お父さんとお母さんがね。
 『オッケー』って言わなかったらこっちで活動してないわけですよ。
 で、なんかSKE48を、あの、たとえばね、今とは言わないけど、『卒業した後に今、何したい?』ってお父さんと話し合った時に、私は演技がしたいって言ったんですよ。
 演技がしたいし、あの、『今は演技がしたい』って言ってて。
 普通さあ、あんまりSKE48でさ、正直言うと選抜になってないし、成功してないんだけど。あの、客観的に見たらね。ファンの人は知らんよ、分からん。私のファンの人は『成功してるよ』って言うんだけど、まあ、一般的に見たら成功してないって私言われてるんだけど。
 成功を芸能界で成功してなかったのに、また芸能界の演技の方に『私は辞めたら進みたい』って言ったら、オッケーしてくれる人ってあんま居ないんですよ。だけど、『勉強とかしなくていいから。なんか、夢を追ってくれてるだけでいいし、もし、次のところで、もう無理だっていう限界までやって、無理だったら、パパとママがいるから帰っておいで』って言われたんですよ。『それまで頑張ってくれたらいいし、あの、もうパパとママがいるからさ。帰ってくる場所あるじゃん』って言ってくれたんですよ。
 だから、そんな親って正直言うと、あんまり見ないんですよね。私のまあ、住んでたところだったら、『ちゃんとした大学に行って!』、『ちゃんとした高校の行って!』みたいな。勉強って感じだったんですけど。
 なんか、お父さんは『勉強別にしなくていいよ』っていう人だったんです。『勉強しなくていいよ』みたいな。『俺、勉強できないから、娘に勉強しろとは言えないし』みたいな。うん、なんか『夢追ってくれてるだけでいいし。お前、演技できるじゃん』とか。『お前、なんか芸能人やってる方が幸せそうだよ』って言われたんですよね。
『お前は芸能界で成功するとか成功しないとかさ。まあ、言えばこの人知ってる、たとえば小栗旬さん。出てきたら、みんな小栗旬知ってる!って言うじゃん。ちょっと呼び捨てにしたのね、ダメだけど。まあ言えばね、そんなじゃなくても芸能界って色んな層がいるから。それを成功したとか成功してないとかじゃなくて。そこで続けるかだから』って言われた時に、凄い泣きそうになったんですよ」

 ううむ、なんて素敵なご両親なんでしょう。
 ねがいちゃんが芸能界で夢を追いかける姿、それは「成功」という目標を追う、先ほど挙げた⑤のモデルの育て方ではなく、むしろ逆。続けることの大切さ、貴重さを教える姿勢が素晴らしいですね。
 ご両親の為にお小遣い制のねがいちゃんは少しでも良いものをとプレゼントを贈ります。自分のための消費ではなく家族が喜ぶ顔を見るために。

 SKE48に居る限り選抜というのは重要なことだと思います。
 しかし、選抜が全てではないし、違う夢の叶え方もあるのではと考えさせられました。
 この後、お母さまも病気をされていてしんどかったけれど、ねがいちゃんの卒業式などに来てくれたり、お父さまが二人の傍にいてくれたことも語られます。
 だから、「悪いことで家族を悲しませたくない」ということを語っていました。
 ううむ、言葉じゃなくて行動から学ばせてくれるのが素晴らしいです。
 
 更に、家族といえば、深井ねがいちゃんのファンの皆さんの呼称は「深井家」ですね。
 全員、血のつながりはなくても、ねがいちゃんのご両親のように、ねがいちゃんの幸せを願う気持ちは同じじゃないでしょうか。
 彼女は応援される大切さを知っています。
 同じ日の配信では「私はあの、SKE48に居る限りは絶対に、あのSKE48の看板を一応背負っているので。まあ、選抜でもなければ、あの後ろにいる『その他A』みたいな子なんですけど。自分の立ち位置をしっかりやっているので。自虐ネタというよりは、しっかり背負っているので。それでもSKEの一員だし舞台もあるので」とグレたり悪い事をしたりしないことを語っています。
 何故、深井ねがいちゃんを「深井家」の方々は応援するのか、それは一人一人の中に理由があると思います。
 ただ、ねがいちゃん推しでもない僕が書くのは生意気ですが、あえて書かせていただくと、夢の為に頑張る彼女の姿、ファンの方が喜ぶことは何かを考える姿勢、そういうひたむきな姿勢が魅力ではないかと僕は感じました。
 「深井家」の方からしたら、「その他A」なんかではなくて、大切な娘かもしれませんし、妹かも姉かもしれません。いや、ひょっとしたら、嫁かもしれません。でも、一つだけ言えるのは、家族という大切な共同体の一人なんだと思います。
 
 ドラマ「私立探偵 濱マイク」の最終回のラストシーンで、忘れられない台詞をSIONの「通報されるくらいに」をバックに語ります。

 「かつて俺は、依頼人は家族と思えと教えられた。家族の頼みなら、どんなことも投げうってできるはずだと」

 きっと「深井家」の関係もこの台詞に近いのではないか、と勝手に思っています。
 お互いを大切にしたいし、裏切りたくない。だから、頑張れる。
 今は休養中ですが、再び彼女が帰ってきた時、また全力で頑張る彼女の姿が見られることを楽しみにしています。
 芸能界に居続けてくれることのありがたさを改めてかみしめながら。