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2021年8月22日日曜日

アンチの視点からは見えないもの

あの日、君に投げた、声に復讐されてる


 今年の6月末に刊行された小説家の高橋源一郎さんの新書「『ことば』に殺される前に」を今更ながら読み終えました。
 この新書は2021年のコロナ禍において、再読されたフランスの小説家アルベール・カミュの「ペスト」や「異邦人」の引用から始まり、「ことば」について考えさせられる内容になっています(中原中也の『ありし日の歌』の「正午」の引用も、Twitterという言葉が溢れる空間を考え直す上で、非常に参考になりました)。
 僕らが持っている「ことば」は病原菌のように誰かに感染することもある、それをしない為には強い意志と緊張が必要だ、とカミュは述べています。
 今は、SNSが発達したおかけで、僕らは様々な言葉を発信することができるようになりました。
 高橋さんは「公共の路上」にたとえ、様々な言葉がネットサーフィンする僕らの前に現れるし、自分も送っていたということを語ります。しかし、ある時から怒声を発する人達が増えてきて、その「公共の路上」を下を向いてあるくようになってきたと書いています。
 いつからか分かりませんが、高橋さんはTwitterの更新を減らすようになりました。
 高橋さんの即興連続ツイートの終盤で哲学者のカントの「啓蒙とは何か」の冒頭引用があります。
 「自分の頭で」「いかなる枠組みからも自由に」考えることの反対に「他人の指示を仰ぐ」ことがあることが示され、別の箇所で「考えるという面倒なことは他人がやってくれる」というところも引用しています。ここから誰かが「考えるという面倒なこと」をして作った「枠組み」に乗っかって、思考停止してしまう現象について語っていました(『公的と私的』の章より)。
 続く、「僕たちの間を分かつ分断線」の章では哲学者の鶴見俊輔さんの説得されて変わる経験について書いています。①相手の批判を理解し、②問題の事柄について完全に理解し、③自分のプライドやアイデンティティーよりも、真実の方が大事だと思っていることであると説明します。ちなみに、「洗脳」との違いは過去の自分を捨てずに残したまま変わることだそうです。
 自分と違う考えの違う人間がいることに恐怖を覚えるのではなく、鶴見さんは「自分と違った考えがある人間がいて良かった」という思想を持ったそうです。
 この考えが今あるかというと、まだまだ無いのではないかな、と僕は思います。
 2019年に刊行された批評家宇野常寛さんの著作「遅いインターネット」の中でも、タイムラインの潮目を読んで善悪を判断する人や世界の複雑性から目を逸らすために善悪にしの二分化しかできない人について指摘がありましたね。
 アンチのコメントがワンパターンなのは、ひょっとしたら「考える」ことを放棄しているからかも知れません。
 しかし、考えたり、考え続けることの難しさは、僕自身も感じます。
 
 もともと僕は、SKE48の6期生、鎌田菜月さんが苦手でした。
 いや、嫌いでした。
 なるべく彼女の情報は無視するようにして、コンサートでは彼女の方は見ないようにしました。
 今、考えると「何を意地を張っている!」と両肩を掴んで前後に揺らしてあげたいところですが、当時の僕は「嫌いである」ということに止まり、考えることを止めてしまいました。
 アンチ発言や発信はしないものの、ずっと目を逸らし続けていました。
 その方が楽ですし、考えなくて良いからです。
 1年前にフォロワーの方がSKE48のまとめサイトに寄稿した記事がきっかけで、ちょっと鎌田菜月さんについて調べてみようと思いました。
 それは、少し踏み出すのに力がいることでした。
 これまで鎌田さんが嫌いだった理由を赤裸々に書き、そこから彼女の魅力を調べ始めました。
 調べる中で彼女とファンの方々とのドラマやメンバーたちとの関係を知りながら、何故、自分は嫌いだけど多くの人は好きなメンバーなのか、ということが明らかになっていきます。
 でも、と時々思います。
 もし、あのまま、鎌田さんが嫌いなままだったら、自分は毎月彼女のことを考える視点を持ち合わせていただろうか、と思います。
 ひょっとしたら、悪い方向性に進んでいたかも知れません。
 鎌田さんは、アンチの発言に対して、どう捉えているんでしょうか?
 調べてみると、2015年9月11日の生誕祭のスピーチで少しだけ触れていました。
 一部を抜粋したいと思います。

「私は正直、去年と比べてれば本当に劇的に世界も変わってこうやって、チームE公演でお話させていただけるようにもなって、でもやっぱり周りと比べちゃうとまだまだチャンスを生かせてないとか、自分から掴めて行けてないんじゃないかなと思うことがあって、決して頂けるチャンスは多くないんですが、絶対にチャンスを次に繋げてやろうとか、どんな事もチャンスに繋げてやろうっていう気持ちは誰にも負けないっていうつもりで私はここにいます。
 それは多分、今ここにいる公演だったり、みなさん多分メンバーほぼ平等にいただいている公式ブログやぐぐたすや755も全部が全部私の中ではチャンスで、そのチャンスの中でネタがちょっと先行して自撮りの事だったり、お腹の事だったりが、どんどん先走っちゃって皆さんの中にはそれを苦く思っているのを私は知っています。本当は可愛いのにとか怒ってくださる方が居て、優しいなといつも思っています。
 でも私は、今はそれで良いんだって思っています。
 だから、心配しないでください。
 何か変にプライドを高くして自分からチャンスを逃すよりもちょっとぐらい自分をバッと開いてぶつかってってぶつかって誰かが振りむいてくれたら、その人は絶対に逃さないっていう気持ちでやって行きたいので、良かったら見守って下さると嬉しいです。

 そしてそんな私のエネルギーになって下さってるのは、皆さんなんですが、その言葉は『頑張ってね』とか、そういうのはもちろんあるんですけど、『可愛いね』って言われたら、その言葉に負けない人にならなきゃってプレッシャーにも感じて、逆に去年すごい言われてた『鎌田辞めそうだよね』、『すぐにこの子はSKEから居なくなりそうだよね』って言われたら『絶対に辞めてやるもんか』って思って、だから私を応援して下さる言葉も、温かく迎え入れて下さる言葉も、アンチの人の言葉も全部が全部私にとっては大きな力になっています。本当にありがとうございます。
 そして今年の3つの目標を考えてきたんですが、『公演での武器を見つけること』、『公演での武器を作ること』、『妥協しないこと、選んでもらえる人を作ること』です。詳しいことは後々ブログに書きます。
 でっかい壁はいっぱいあるこの世界なんですが、私はこの業界がすごく大好きです。SKEも大好きです。その壁はやっぱりSKEにいる素敵な物を沢山持っているメンバーだったりとか、ちっぽけな自分だったりとか、周りの人の評価だったりとか、色んなものがあって。昇格したからこそ大きく感じることもすごい沢山あって、苦しいなって思うこともあるんですけど、私以上に喜怒哀楽を示してくれて私の分も怒ってくれて悔しがってくれるみなさんがいるから、私は笑顔で鎌田菜月としてアイドルとしてやっていけることが出来ます。
 だから、決して悔しいって思ってない訳じゃなくて、悲しいって思ってないわけじゃないし、人間なので無理してるんじゃないかって皆さん心配するけど無理はしてません。安心してください。
 今日はこうやって素敵な場所を開いていただいて、私は今年もSKEで頑張りますので、卒業しませんので、安心して応援して下さると嬉しいです。これからもアイドルのSKE48の鎌田菜月をよろしくお願いします」

 心無いアンチの声も、自分が頑張る為のエネルギーに変えていく。
 だけど、人間だから、当然悔しさや悲しさもある。
 それでも、自分以上に自分のことで喜怒哀楽を示してくれるファンの方々がいる。
 そういえば、鎌田さんがさまざまなことを力に変えていることは、だーすーも指摘していましたね。


 
 このスピーチをした生誕祭から5年以上の時間が経ちました。 
 鎌田菜月を選ぶ人は増え続けています。
 ここ数か月も歴史関係のお仕事が!



 正直に書くとまだまだ僕は苦手なメンバーはいます。
 ほら、わりとSKE48に長いこといるのに、僕が一切触れていないメンバーとかいるでしょ?
 でも、アンチの視点では、「~でない」ということは言えても「~である」ということは難しくなります。
 たとえば、おしゆき動画に対して「つまらない、他のYoutuberの焼き直し」という批判をするのは簡単です。でも、二人だからできる企画はこれであると提案するのは難しいです。だって、二人の本質をとらえるために調べたり考えたりするのは面倒ですから。でも、本当に相手と向き合うなら、相手のことを理解し、そこまで考える方が真摯なのでは、と僕は思いました。
 これからも、毎月1回の鎌田さんについて考える連載を続けつつ、僕も鎌田さんから学び、少しずつ自分の中に変化を起こしていきたいと思います。
 そういえば、高橋源一郎さんは幻に終わった明治大学国際学科の卒業式の祝辞の中でこんな言葉を残していました。

 「けれど、私たちはいつも間違います。しかし、間違いの他に、私達を成長させてくれるものはないのです」