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2020年8月30日日曜日

おすすめの映画と本「82年生まれ、キム・ジヨン」

 想像力のリーチについて


 この文章を書いている僕は田舎の男4人兄弟の長男として生まれました。
 めちゃくちゃ甘やかされて育った自信があります。
 何故なら、長男だったからです。

 今、考えると、後から生まれてきた弟たちよりも優先的に色々なものが与えられて、期待もされてきたと思います。特に親族の年をとっている人達からはそうでした。昔の家では、長男が家を継ぐのが当たり前でしたしね。
 それが当たり前の世界に居ました。

 今回紹介する「82年生まれ、キム・ジヨン」を読んで、ゾッとしました。 
 僕は文学に出会わなければ、他者の心をわずかな表現から想像して考える文学に気づかなければ、この本に登場する男たちと同じようになっていたかも知れません。いや、そう思い込んでいるだけで、実は気づかずに誰かを傷つけているかも知れません。

 もともとは、映画が10月に公開されるので、今のうちに予習の為に読んで置こうと買ったんですね。主演に「新感染」とか「トガニ」のあの人もいるし。


 キム・ジヨンという一人の女性について描かれているんですが、要所要所で数値的なデータが出ていて、物語は開いたまま終わります。

 この作品に対して、「ポリコレだ!」とか「男性への憎悪だ!」という人に考えて欲しいです。この作品に出てくる無神経な男たち。「女だから」という理由以外にも大分問題がある気がしませんか?本当にその人に対しての配慮というか想像力に欠けている人たちがガンガン出てくる。勿論、その背景には男尊女卑思想が残っているどうしょうもなさもあると思うんですが、無意識の差別の怖さも感じる作品でしてね。
 何気なく誰かが言った言葉にキム・ジヨン氏は傷つけられていきます。

 この作品の中で、周りの人達の女性が働くことや、出産・育児に関する理解の無さ、女性管理職の少なさ、家に吸収されていく怖さ、様々な問題点が浮き彫りになってきます。
 
 もう、これまで出会ってきた全ての女性に、作中に登場したバスに乗っていた女性のように言いたい!「いい男性もいるから!」というか「いい男性になるから!」と反省させられました。

 この作品を読み終えた時、ふと、母のことを思い浮かべました。
 僕を含めて4人の子供を育てた母は、専業主婦として家にいました。
 彼女が時々、描く絵が子供の頃の僕はとても好きでした。
 ウルトラマンに出てくる怪獣の絵を描いてと頼むと、いつむ立体感があり、背景もしっかりとした絵を描いてくれました。そこに怪獣たちが居る感じがする絵をクレヨンで楽しそうに描いてくれたのを覚えています。
 また、宮沢賢治について彼の母親のレベルまで知っていて、時々僕に宮沢賢治が死ぬ前に見ていた緑色の海が来るという悪夢について話してくれました。
 全部、子供の僕が奪ったんじゃないか、とふと考えてしまいました。
 それは母に限ったことではなく、家業を継がない選択をした僕にお金を出してくれた父の気持ち。
 なんというか、想像力のリーチが短かったんじゃないか、と反省させられました。

 映画版ではこの物語の続きが描かれるそうですが、果たしてどうすればいいのか、今の僕には想像が及びません。
 ただ、誰かと結婚して家庭を持った時に家事を「手伝う」じゃなくて、主体的に「行う」人になるところから、まずは始めようかと思います。その人が「男だから」とか「女だから」じゃなくて、「その人だから」どういう言葉をかければ良いか、考えられる視点を持ちたいと考えさせられる作品でした。