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2020年8月29日土曜日

映画「狂武蔵」を観ながら考えたこと

 何を読み取るか?

 突然だが、人生のどん詰まりだ。

 春に転職した仕事は、人件費削減の為にワンオペ化がどんどん進んでいく。覚えるオペレーションが多くて、自分でジャッジする時に不安がつきまとう。全く眠れない日々が続いた。
 もう限界だ、と思って退職を願い出た。地元に戻って、田舎の商工会議所の支援金をもらいながら起業しようか、と準備を始めていた。

 上司からは、退職を止められた。
 君ならすぐに管理者クラスにすぐになれると。
 いや、でも、そこに辿り着くまでに死にますよ、というのが僕の答えだった。

 もう一度、話し合おうと言われた。
 当初は、8月31日の予定だったが、急遽明日の夕方になった。
 もの凄く憂鬱で、家に帰りたくなかった。

 仕事の関係で、映画が今、ただで観られる。
 何を観ようかと考えた時、先日、『映画秘宝』で読んだ坂口拓さんのインタビューが面白かったので、「狂武蔵」を選んだ。
※予告編はこちら!

 

 事前に「キネマ旬報」の評論は読んでいたので、ある程度のアラはあるんだろうな、というぐらいの心境で見始めた。
 武蔵が出るまでの静かなタメが、とても素晴らしい。
 そこから、一気に死闘が始まる。
 同じ人が何度も斬られるシーンについて、最初は気になったが、脳内で「いや、吉岡一門だから、特殊な訓練を受けていて、そう簡単には死なないんだろう」と変換した。今まで観た武蔵もので一番生命力の高い吉岡一門とのバトルが始まった。

 静と動が波のように何度も繰り返され、時には色気を時には野性味を感じる武蔵の動きが素晴らしい。

 僕は映画を観ながらふと思った。
 そういえば、こんなことあったな。
 勿論、僕は生命力が異常に高い吉岡一門と闘ったことはない。ただ、似たようなシチュエーションはないか、と考えた時に一つ心当たりがある。

 僕は10年ほど、教育業界に居た。
 関西でトップの中学受験塾というと、だいたいどこかバレる気もするが、そこだ。
 夏休みになると朝の9時から12時まで質問タイムがある。
 ビルのワンフロアーに教室が6つあり、1教室に20人から40人ほど生徒がいる。このフロアーが4階分ある。
 生徒たちは質問があると、小さなメモ帳みたいな紙を教卓に座る監督みたいな人に出す。
 すると、先生の僕らが呼ばれて、質問に答える。
 だいたい1科目4人は居るので、一人あたりの人数は3時間でも質問の対応数はせいぜい30人から多くても50人ぐらいだ(全員が質問するとは限らない)。

 ところがある日、同じ科目の先生が運悪く体調不良になった配置ミスなどで、僕一人になったことがあった。まさに、この日は地獄だった。
 時間があっという間に経っていく。
 そして、徐々に教え方が洗練されていく。
 物凄く不思議な体験だった。
 映画の中で武蔵が「行くか。どうせ死ぬしな」と疲れを感じながら言う台詞がある。僕は何故か、この感覚になんとも言えない共感を覚えた。皆さんも、もうどうしょうもないぐらい疲れている時、ヤケクソになって飛び込んでいくことはないだろうか。
 あの状況の厳しさと半ば呆れながらも、それでも立ち向かっていった経験を思い出した。

 ストーリーは突然、7年後に飛ぶ。
 ここで武蔵が使う武器がカッコいい。
 パンフレットを読むと、仕込みクナイだったことが分かる。このシーンの為に、もう1回観たいぐらい、鮮やかだ。

 映画を観ながら、思ったことがある。
 今の状況は武蔵に似てるんじゃないか?
 逃げ場がないぐらい、押し寄せる不安とストレス。
 退職したらお金もなくなる。
 
 じゃあ、どうやって切り払う?
 鮮やかに足元を切り、頭を割り、刀を振り回す?

 そういえば、なんでこの業界に転職したんだっけ?
 京都国際映画祭を観に行って、まだ世に出る前の才能に感動して。
 じゃあ、今の会社の中でそんな若い才能たちを守る場を作れないか?
 今、映画はディズニーが続々と先のスケジュールを出すことで予めスクリーンをおさえる動きがあるそうだ。そう言われてみれば、マーベルもそうだ。これでは、若い才能をみようと思ったらミニシアターに行くしかない。でも、ミニシアターは田舎にない。じゃあ、田舎に住む僕の父や母や同級生たちは若い才能にふれることはないまま死んでいくのか?

 若い才能が発表できる場をオンラインで作れないか?
 認められたらデカいスクリーンもジャックできるようなものを。
 僕が座った席を掃除する映画館のアルバイトの若者が、秘かに暖めている才能を発揮できる場を作りたい。youtubeだけではなく、きちんとお金が入る仕組みも込みで。

 僕は、家に変えるとパソコンに向かった。
 先ほど、企画書が作り終わった。
 多分、新人の戯れ言と笑われるかも知れない。
 まだ、僕の実績なんて知れている。
 でも、その場を作りたいと強く思った。
 何年かかるか分からないが、やりたい。
 企業内起業だ。

 頭の中で武蔵の声がする。
「下がるな!侍だろ」

 不思議な映画だった。