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2020年8月18日火曜日

誰かの願いが叶うころ

選ばれなかった僕らにも明日は待っている

 

 皆さんは合格発表というものをどれぐらい体験したことがあるでしょうか?


 僕は教育業界に10年ほど身を置いていた関係で、もう100回以上、他人の合格発表を体験しています。


 特に小学生たちが挑戦する私立中学受験の合格発表は印象に残っています。
 あれは新入社員だった頃だと思います。
 ある大阪の中学校の合格発表は、学校の玄関前に置かれた掲示板に黒い幕が垂らされ、時間になると、パッとその幕が取られ、白い掲示板に合格者の文字が一斉に公開されます。

 その時の、阿鼻叫喚を初めて観た時、僕はなんて業界に入ったんだ、と後悔したものです。喜んで抱き合う家族。泣き崩れて動けなくなる子供。すぐに塾の先生に駆け寄る親子。無言でその場を去っていく家族。
 時々、僕も自分が教えていた生徒と現場で出くわすことがありました。
 合格していたら、おめでとうございますで良いんですが、落ちていた時にどういう言葉をかければ良いのか分からずに、ただ謝るしかなかったことを覚えています。
 当時20代前半だった僕には、何も言葉が出てきませんでした。

 社会の中でどうしても選抜はあります。
 本人の努力とは関係なく枠が決められていて、その枠に入るための基準が定められる。
 時にはみんなの見ている前で、選ばれた人と選ばれなかった人が分けられる。

 アイドルもそうだな、と僕は思います。
 僕がそれを強く感じるのが昇格発表です。
 昇格して喜びを全面に出すメンバー。
 自分の名前が呼ばれないのを悟り、俯くメンバー。
 そして、それぞれのメンバーに寄り添う周りのメンバーたち。
 皆さんはこういう時、誰に目が行くでしょう。
 僕は何故か、寄り添っているメンバーの方に目が行ってしまうんですね。
 多くの場合、先輩メンバーであることが多いと思うんですが。
 頭の中では、何故か宇多田ヒカルの名曲「誰かの願いが叶うころ」が流れています。


 思えば48グループほど、アイドル業界において「誰かの願い」が集まり、その結果を見せられるところはないんじゃないでしょうか?
 ファンの方々も推しメンへの思いがあるからこそ、なんで自分の応援しているメンバーは昇格できたのか、あるいはできなかったのか、それを考えさせられる瞬間でもあると思います。
 たとえば、和田愛菜という7期生がいます。
 すごく柔らかい性格の子で「和田さま」とファンからは呼ばれていました。
 彼女が何故昇格できなかったのか?
 僕には最後まで分かりませんでした。
 2018年4月28日にガイシホールで行われたコンサートの昇格発表で、彼女の名前はありませんでした。
 研究生期間で言えば、かおたんに迫るんじゃないか、と心配でしたが、この後、彼女は卒業します。
「プロの世界は甘くない」、「じゃあ、握手買えよ」というような意見も分かります。
 でも、何がどう足りないのか、をきちんと彼女に誰か伝えられているのか、その言葉を持っている人はどれぐらいいるんだろう、と思ったものです(これはメンバーというより運営の仕事だと思いますが)。


 以前、同じく7期生のなるぴーこと片岡成美が、2018年4月29日にTwitterでファンから和田さまへ連絡したかという質問に次のように答えています。

 「声をかけてもらって嬉しい時と嫌な時ってあるじゃん?人それぞれだからわからないけど私は何もしないのがいいかなって思ったからしてないよ。
 昇格できなかった時って悔しいってよりどうしたらわからんくなる」 

 自分に足りなかったものは何か、劇場でのパフォーマンスなのか、握手会の売り上げか、かつては、総選挙の順位か?
 以前は、松村香織という偉大なる研究生が居ました。
 もう、研究生でありながら正規メンバーを食う個性を持っていた判明後輩たちのケアも手厚くて、昇格できなかったメンバーへのケアもしっかりしていました。2013年の神戸での5期生山田みずほ昇格時に昇格できなかった後輩へのケアは映像に残っているので、是非、確認してほしいです。
 また、松井珠理奈も、これまでのSKE48の歴史を知っているからこそ、昇格できなかった後輩へのアドバイスをしています。
 声をかけるならば、それなりの責任や経験が必要なんだと思います。

 最近、印象に残っているのは、9期生たちが昇格した時です。
 2020年2月15日の静岡エコパアリーナで行われたコンサートの最後に昇格発表が行われました。
 研究生7名の昇格が発表されました。
 その時に呼ばれたメンバー呼ばれなかったメンバーの悲喜こもごもがありました。
 詳しくは「AKB映像倉庫」の活動記録の映像を観ていただきたいんですが、名前を呼ばれるかどうか、不安な後輩たちに寄り添っているメンバーがいます。
 それが、深井ねがいです。
 8期生の彼女は、同期の中では一番遅いグループで昇格しました。
 2回名前を呼ばれない瞬間を彼女は味わっています。
 だからこそ、呼ばれない側の気持ちやそれでも続けていった先の未来を知っているからこそ、寄り添えたのではないか、と思います。
 思えば、SKE48における努力の人であり、劇場の番人でもあった市野成美に研究生時代に弟子入りし、チームEのアンダーとして一緒に踊るために努力していた彼女。
 市野成美という人のイズムを受け継いだ彼女だからこそ、できる寄り添い方がきっとあるんだと思います。そして、努力した先に、アイドルとしてチームEの正規メンバーとなり、モデルとしてランウェイを歩く未来が待っていた。

 こうしてみると、ファンの方とは違った、メンバーだからこそできる寄り添い方があるのではないか、と僕は思います。
 残酷な現実と(時には理不尽な現実と)向き合わなければいけないイベントの連続である48グループにおいて、傷ついたメンバーに寄り添って進んでいく姿勢。誰かが辛い時は、他の誰かが寄り添う姿勢。
 これは、たとえ何年経っても、ずっとSKE48に残っていくのではないか、と思っています。
 

 次はきっと、ねがいちゃんに抱きしめられていたふゆっぴが、後輩たちを励ませるほどの活躍をし始めるんじゃないか、と実はワクワクしています。
 「その時の運営が分からなくても、ちゃんと僕らファンは君の価値を知ってるぜ」と言いたくイベントが昇格発表だな、とふと思いました。